寒い日が続いていますが、冬の定番、鍋料理に欠かせない土鍋が、かつてない危機を迎えているそうです。
三重県・四日市市の伝統工芸品、「萬古焼(ばんこやき)」の土鍋を製造している、「銀峯(ぎんぽう)陶器」の社長、熊本 哲弥さんに伺いました。
「銀峯(ぎんぽう)陶器」・社長 熊本 哲弥さん
火にかけて、割れないようにする原料として「ペタライト」っていう原料があるんですけど、このペタライトの入手が非常に困難になってきてる。
ペタライト自体、ジンバブエっていう南アフリカの方の国なんですけども、そちらの鉱山が一つだけで世界中のペタライトを大体補ってたんですけども、そこの鉱山を中国の会社が買収されて、そこで日本向けのペタライトがストップ。輸出が止まった。急に、というような感じですね。業者の方から、輸入代理店の方から、そういう通達があったっていうことですね。
世界のリチウム争奪戦に巻き込まれた「土鍋」の画像はこちら >><花柄が特徴的な萬古焼の土鍋>
輸入に頼っていたのは意外ですが、土鍋作りに欠かせない「ペタライト」という材料が、急に輸入できなくなったそうです。
「萬古焼(ばんこやき)」の土鍋は、国内のシェア8割。例えば、グレーで花柄の模様が入った「花三島柄」の土鍋、目にしたことのある人も多いのではないでしょうか。
この土鍋作りに欠かせないのが、「ペタライト」という原料。
萬古焼自体は、江戸自体から続く伝統産業ですが、昭和30年頃、ペタライトを混ぜることで、陶器の耐熱性が上がることをつきとめ、それ以来、産地ではペタライトが欠かせない原料となりました。(日本ではほとんど産出しない)
「銀峯(ぎんぽう)陶器」は、年間で30~40万個の土鍋を生産しているメーカーで、年間300トン弱のペタライトを使っていたそうですが、昨年は、国内に流通する在庫をかき集めてなんとかしのいだものの、今年は持って、あと半年~1年と話していました。
でも、このペタライトが採れる鉱山を、どうして中国企業が買い取ったのでしょうか?
「銀峯(ぎんぽう)陶器」・社長 熊本 哲弥さん
電気自動車、EV用ですよね。EV自動車の電池に使われる「リチウム」っていう成分があるんですけど、ペタライトの中にリチウムが含まれてるので、今までは陶器とかそういうものに使われてたペタライトが、リチウムを抽出する原料として、大量に流れてってるような形ですね。
年明け早い時点で再開しますという話は来たんですけど、それもちょっと今、完全に止まってる状態。
中国って国策のところもあるので、陶器用にペタライトを出すよりかは、リチウムの原料として、中国に送って炭酸リチウムを作った方が遥かに儲かるということで、中国以外の国には、去年は、輸出されていないと思いますけどね、ペタライト。
ペタライトには、「リチウム」が含まれていて、電気自動車用のバッテリー用として、中国企業が鉱山を買い取り、すべて中国向けに輸出されるようになったようです。
今まで焼き物以外に見向きもされなかったペタライトが、急に脚光を浴びた形です。
では、ジンバブエ以外から、買い付ければ良いのでは?と思ったのですが、ペタライトは、カナダやブラジルなどにも埋蔵されていることが知られているそうですが、世界中で商業用として、大量にペタライトを作っている鉱山はジンバブエしかありません。
他の鉱山の開発にも、数年はかかってしまうため、一カ所に依存していた弱みが、露呈してしまいました。
ただ、そうした中で、ペタライトがなくても、同等の品質をもつ土鍋が作れないか。
三重県をあげて研究が進められているそうですが、一足早く、「脱ペタライト」を実現させたメーカーも出てきています。
同じく四日市で100年以上陶器作りをしてきた、内山製陶所の専務、内山 貴文さんのお話。
「内山製陶所」・専務 内山 貴文さん
「シリカ」という素材を使う土鍋を開発する技術です。火にも強いですし、直火にも対応しています。
このシリカというのは主要原料はガラスです。産出するもので、供給自体が安定しているっていうのが、非常にいいポイントの一つ。
シリカだけでなく、プラスアルファで「セラミックコーティング」という加工も付け加えた商品を開発。セラミックコーティングすると撥水加工が乗る。
土鍋自体が水を吸って汚れやすいという欠点があるんですけども、撥水加工することで、水で洗ったら汚れもさっと取れます。
原料変更ですから大きなリスクを伴いますけど、土鍋というのがなかなか使いづらいと、そういう方にどうやって使ってもらえるのか、真剣に考えなきゃいけないタイミングでもあると思います。
特許も取得済みで、くわしい作り方は「企業秘密」ということですが、見た目は伝統的な萬古焼と変わらず、原料を一新しています。
ただ、家族4人が使いやすい9号サイズだと、元々は3000~4000円だったものが、5000円に。価格は少し割高になりますが、なんとか生き残る策を模索していました。