<自民裏金疑惑>安倍派幹部立件見送りも、ほくそ笑む岸田首相…「邪魔者は排除できた」「二階さんにも恩を売った」「支持率も少しだけアップ…」

「#検察は巨悪を眠らせるな」「#検察仕事しろ」1月中旬、X(旧ツイッター)にはこんな書き込みが溢れた。多くが「日本最強の捜査機関」の異名を持つ東京地検特捜部への怨嗟の声だ。「リクルート事件」以来ともいわれる一大疑獄事件となった自民党の政治資金パーティーを巡る裏金疑惑だが、最終的に安倍派(清和政策研究会)の幹部の立件を見送る方針が伝えられ、世間の怒りが沸騰している。
「岸田さんの思い通りの展開なんじゃないですか」こう苦笑いするのは、政界事情に精通する与党のあるベテラン秘書である。「今回の事件が『岸田政権を揺るがす』という人もいますが、とんでもない。岸田さんは政権を運営する上で最も邪魔だった勢力を排除することができた。厄介払いができたというのは、言うまでもなく、安倍派のことです」
故・安倍晋三氏(本人SNSより)
総勢99人が所属する自民党最大派閥の安倍派は、岸田首相にとって政権運営のカギを握る勢力だった。実際に「数は力」とばかりに同派は政権発足当初から影響力を発揮。安倍晋三元首相亡き後は結束力に陰りが見えたものの、閣僚や党役員の顔ぶれを見れば、首相ですらその存在を無視できないのは一目瞭然だった。象徴的だったのは、「五人衆」と呼ばれた安倍派幹部の処遇だ。岸田首相は2021年10月の第1次政権を皮切りに、2021年11月、2022年8月、2023年9月とこれまでに3度組閣しているが、松野博一氏は一貫して官房長官を務め続けた。西村康稔氏は要職の経産大臣を務め、萩生田光一氏は党内で各政策を議論する部会をまとめる政調会長の任に。世耕弘成、高木毅両氏もそれぞれ参院幹事長、選対委員長といずれも重要なポストを割り当てられていた。だが、そんな彼らのキャリアが暗転したのが、件の「政治資金」を巡る疑惑だった。
五人衆の一人、西村康稔氏(本人SNSより)
「『特捜部が派閥のカネを洗っている』という噂が永田町に一気に広がったのが昨年11月末ごろ。当初から安倍派の金額が突出しているといわれていましたが、捜査対象になっている具体的な名前が出回り出したのは12月に入ってからでした」(全国紙政治部記者)派閥から課されるパーティー券の販売ノルマの超過分を、議員側に戻す資金の環流が「キックバック」として報じられ、党全体に危機感が広がった。パーティー券購入者のうち、個人は5万円、団体は20万円以下の購入者は無記名とすることが可能になるなど、政治資金規正法の不透明な実態が明らかになったからだ。
特捜部の捜査リストに名前が上がらず、今回の問題では、比較的ダメージが小さいとみられている茂木敏充幹事長率いる茂木派(平成研究会)の中でも危機感は広がっていた。「うちの場合、日歯連事件で政治資金では痛い目に遭っているから、派閥へのカネの『入り』と『出』については、きっちりと収支報告書に記載するようにしていた。パーティーのノルマ超過分の戻しは派閥からの寄付という形で処理していたが、それもキックバックといわれるとはなはだイメージが悪い。早くカタがついて欲しいというのが正直なところだよ」と声を潜めるのは、同派のある中堅議員だ。
「どんだけチョロまかしたんだ…」とツッコミたくなる修正をした安倍派・池田佳隆容疑者の収支報告(池田容疑者の収支報告書より)
日歯連事件とは2004年に発覚した疑獄事件。日本歯科医師連盟での汚職事件に端を発し、橋本龍太郎元首相ら平成研の幹部に日本歯科医師会側から1億円がヤミ献金として流れていたことが発覚し、会長の橋本氏の辞任に発展するなど、同派は壊滅的な打撃を受けた。当時と同じように政権への逆風が強まるなか、岸田首相は昨年12月14日に松野氏をはじめとする安倍派の4閣僚を交代させる人事を断行し、局面打開を図った。このころには特捜部の捜査の狙いが徐々に明らかになってきていた。「安倍派で危ないのは10人、と具体的な数字も出るようになった。内訳は安倍派の事務総長経験者に加えて、不記載のキックバックが4000万円以上の高額になる議員だ、と一斉に情報が回りました。同じタイミングで浮上したのが、『不記載を認めないと身柄を取られることもあり得る』という噂。いま思えば特定の議員への警告の意味合いも込めて検察がリークした情報だった気もしますが…」(前出の政治部記者)
池田佳隆容疑者
衆院議員の池田佳隆容疑者(57)の周辺が騒がしくなったのもこのころだ。特捜部は1月7日、池田容疑者らを政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いで逮捕。キックバックを受けた資金に関する証拠隠滅を図るなど悪あがきを続けた末に、在宅起訴が通例とされるなかで「異例」ともいえる身柄拘束に至ったのである。
一方、岸田首相は、民衆の中で高まる政権への批判の声を受け、政治資金制度の見直しを図るための党内組織「政治刷新本部」を立ち上げる意向を表明した。しかし、メンバーとなった安倍派の所属議員10人のうち9人に「不記載」が発覚するなど政治不信の払拭には至っていない。政権は、じりじりと追い詰められているようにも映るが、前出のベテラン秘書は異なる見方を示す。「これまでの流れは、岸田さんのプラン通りにほぼ進んでいるのだろうと思います。思惑通りに安倍派を排除したし、二階(俊博元幹事長)さんも抑え込んだ。というのも、安倍派とともに捜査対象になっているとされる二階派では、安倍派のような資金環流は行われず、派閥内で資金をプールし、そのほとんどを二階さんが握っていたといわれているからです。特捜部は二階さんを所得税法違反の線で狙っていたようですが、どうやら捜査は本丸にまでは及ばなさそうです。官邸と特捜部が捜査の落としどころについて擦り合わせているとすれば、二階さんに恩を売った形です。菅(義偉元首相)さんが、派閥解消を訴えて目立っていますが、政権をひっくり返すほどの大きなうねりは起こせていないし、安倍派も壊滅して自分の地位を脅かすようなライバルは当面出てくる気配はない。この調子なら9月の総裁選も乗り切って、長期政権を築くのではないかと見ています」
1月1日にfacebookにアップされた笑顔の岸田首相(本人facebookより)
この見立てを裏付けるように、NHKが1月12~14日に行った最新の世論調査では岸田内閣の支持率が昨年12月から3ポイント上昇し26%。共同通信の13、14日の調査でも昨年12月から5ポイント上がって27.3%だった。相変わらずの低空飛行ではあるが、SNSで広がる「岸田離れ」とは真逆の民意が示された形だ。意外とも思える狡猾さでのらりくらりと政権運営を続ける岸田首相。ただ、その視線の先に国民がいないことだけは確かだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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