災害発生時、自衛隊のなかで最初に動き出す「FAST-Force」と呼ばれる部隊があります。彼らの担う役割とはどのようなもので、今回の能登半島沖地震ではどのように機能したのでしょうか。
2024年1月1日16時10分頃に、石川県能登半島を中心に、最大震度7の大地震が発生しました。気象庁によって「令和6年能登半島地震」と名付けられたこの地震の規模はマグニチュード7.6(M7.6)。2018年に起きた北海道地震以来となる最大震度7を記録したこの大地震に、防衛省・自衛隊は即座に対応を開始しました。
最初に動かしたのは航空機です。地震発生の20分後となる16時30分以降に、早くも航空自衛隊の戦闘機や救難機が能登半島の上空に飛来しています。出動したのは、北海道の千歳基地からF-15戦闘機が2機、宮崎県の新田原基地から同じくF-15が2機、そして福岡県の築城基地からF-2戦闘機が2機、さらに茨城県の百里基地からU-125A捜索救難機が1機の計7機で、これらを使って被災地の状況を偵察して回りました。
能登半島地震でも急行! 自衛隊の即応部隊「FAST-Forc…の画像はこちら >>航空自衛隊のF-2A戦闘機(武若雅哉撮影)。
なお、石川県内にある航空自衛隊小松基地にも、対領空侵犯措置、いわゆる「スクランブル」で待機している戦闘機がいましたが、こちらは震源地から近かったため、滑走路や飛行場設備の点検をする必要があり、すぐに離陸させることができませんでした。そのため、震源地から離れた場所にいる部隊の航空機が、被災地へ向けて緊急発進しています。
また陸上自衛隊では、東京都の立川駐屯地に所属するUH-1J多用途ヘリコプター(映像伝送機)や、千葉県の木更津駐屯地に所属するCH-47JA輸送ヘリ2機とLR-2偵察連絡機1機が、さらには大阪府の八尾駐屯地に所属するUH-1J(映像伝送機)、宮城県の霞目駐屯地に所在するUH-1Jもそれぞれ出動しています。
海上自衛隊も神奈川県の厚木航空基地に所属するP-1哨戒機や、京都府の舞鶴基地に所属するSH-60K哨戒ヘリ、青森県の八戸航空基地に所属するP-3C哨戒機が能登半島まで状況偵察のため飛び立っています。
これから暗くなる時間帯でも航空機を飛ばす理由は、暗いからこそわかる情報があるからです。それが「停電」と「火災」です。
日本の都市部や人家がある地域は、おおむね夜間であっても街灯が煌々と光り輝いていますが、停電になると非常用の電灯や走行しているクルマのライト以外は真っ暗になります。また、火災が発生している場合は、夜間のほうが目立ちます。
もし、各種航空機が「上空からの偵察結果、異常なし」と報告しても、これは貴重な情報として活用されます。なぜならば、この後送り込む地上部隊の行き先を決めることができるからです。
今回の地震では、発災から1時間以内に、陸海空自衛隊の12個部隊が動きだしていて、翌朝からの救出作業に活用できる情報を収集するため出動しています。彼らこそ自衛隊の災害対応における初動部隊「FAST-Force(ファスト・フォース)」です。
これは「F=First(発災時の初動において)」「A=Action(迅速に被害情報収集、人命救助及び」「S=Support(自治体等への支援を)」「Force(実施する部隊)」の略で、2013(平成25)年9月から自衛隊内で使われています。
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FAST-Force指定車両に取り付けられるマグネットのマーク(武若雅哉撮影)。
FAST-Forceの具体的な動きとしては、「震度5弱以上の地震が発生した場合は、速やかに情報収集することができる態勢」「震度5強以上の場合は、航空機による情報収集を行える態勢」の保持が陸海空の共通項目となります。陸上自衛隊では、全国の部隊で約3900名、車両等約100両、航空機約40機が待機していて、発災から1時間以内に出動できるよう、指定部隊の隊員たちは24時間待機しています。
海上自衛隊は、地方総監所在地ごとに1隻の対応艦艇を指定し、航空機は各基地で約20名の隊員が15分から2時間以内に出動できる態勢を保持しています。
航空自衛隊は対領空侵犯措置のため、すべての戦闘機基地で発進命令後5分以内に2機の戦闘機が離陸できる体制「5分待機」を実施していて、ほか航空救難や緊急輸送のために約10機から20機の航空機が待機しています。
震度5強以上の地震が発生した場合には、これらの航空機を「任務転用」し上空からの情報収集活動を行えるようにしていて、その離陸までの所要時間は15分から2時間と決められています。
FAST-Forceに指定されている部隊の隊員たちは、自宅か基地(駐屯地)内で待機しています。それぞれの場所で待機している時に災害が発生し、その災害規模が基準に達していれば、24時間いつでも出動できるようにしているのです。そのため、普段から遠出をすることができず、陸上自衛隊の場合は所属する部隊によって、外出時の行動範囲も定められています。
陸上自衛隊のFAST-Forceとして、広島県、山口県、岡山県、島根県、鳥取県を担当する第13旅団を例に挙げると、初動対処部隊先遣部隊という真っ先に出動する部隊が18個あり、計540名の隊員たちが待機しています。
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滋賀県の陸上自衛隊今津駐屯地において、正門わきですぐに出動できるよう待機するFAST-Force指定車両(柘植優介撮影)。
この部隊は、偵察オートバイや軽装甲機動車、高機動車といった車両で編成されていて、発災後、速やかに地上からの情報収集に出動し、おもに「倒壊家屋の状況」「道路の通行状況」「火災や水害の発生の有無」「人命救助の有無」などの情報を収集します。
特に「道路の通行状況」は重要な情報で、もし、道路が陥没していたり、倒壊家屋によって通行できなかったり、橋が崩壊していたりする場合などは、後続の救援部隊本隊の移動経路を変更しなければならないため、必要な場合は迂回路の確認にも向かいます。
こうして先遣部隊から得られた情報は、速やかに連隊などの司令部に伝達され、その情報は旅団(師団)司令部などに集約されます。また、各自治体からの救援要請も集まってくるので、司令部などでは各情報を基に、それぞれの部隊の規模と派遣先を決定します。
このFAST-Forceを機能させるために重要な役割となってくるのが、「当直」の存在です。ここでいう「当直」とは、勤務時間外において部隊の行動を統括する特別勤務者のことを指します。
自衛官は「特別職国家公務員」ですので、通常であれば1日7時間45分の勤務時間を基準として、8時15分から17時までを「勤務時間」、それ以外の時間を「勤務時間外」といいます(ただし、駐屯地などの規則によって勤務時間に違いあり)。
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海上自衛隊のSH-60哨戒ヘリコプター。手前の機体がJ型。後方の機体がK型(武若雅哉撮影)。
当直にもいくつか種類が存在し、陸上自衛隊の場合は駐屯地を統括する「駐屯地当直司令」、連隊などの部隊を統括する「部隊当直」、中隊などを統括する「中隊当直」などがあり、勤務時間外における発災時の情報収集と人員の管理がおもな役割です。この人員の管理にはFAST-Forceも含まれているため、当直の判断によって、必要となればFAST-Forceの隊員たちに呼び出しが掛かります。
当直とは、決して表に出ない地味な存在ですが、部隊が休んでいる時には部隊の目となり耳となり、万が一の災害発生時には迅速に対応することが求められる存在として、重要な役割を持っています。
災害発生時に、その能力を最大限発揮して、様々な役割を果たすFAST-Forceですが、彼らがいるからこそ、自衛隊は迅速な人命救助活動を展開することができるのです。
迅速な対応には、平素における各自治体や関係機関との緊密な連携も重要になってきます。防衛省・自衛隊は、各地で行われる防災訓練や協議会などを通じて、地域に密着した防災組織の一部として常に備えているのです。
※一部修正しました(1月3日14時00分)