長らく続いた日本の“お年玉文化”にも、キャッシュレス化の波が押し寄せようとしている。
QRコード決済サービスの最大手「PayPay」(ペイペイ)は、“個人間送金”の利用者増加を目指し、お年玉シーズンに向けた抽選キャンペーン「お年玉くじ」を開始した。
12月21日、メディア向け説明会に登壇したPayPay執行役員マーケティング戦略本部長の藤井博文氏は、お年玉のキャッシュレス化を進め、「お年玉文化のアップデートにトライしたいと思っている」と狙いを語った。
○▼PayPayが次に開拓する“個人間送金”の現状
藤井氏によると、現在のPayPayユーザー数は6,100万人にも上る。国内のスマホユーザー約9,600万人(総務省の統計)のうち約3分の2が利用している計算だ。逆の見方をすれば、残る3,500万人の非利用者をいかに取り込むかが来年以降の課題だといえる。
PayPayが今回、この課題を解決するために着目したのが“個人間送金”だ。PayPayの調査によると、「個人間のお金のやりとり」は年間約6兆円規模で行われており、回数にして約6.2億回にあたる規模だという。
「個人間のお金のやりとり」については、未だに全体の50%以上が現金で行われているようだが、PayPayは現金に次いで約30%を占め、「コード決済における送金回数」のシェア率に限って見ればそのうち92%も占めるなど、ほぼ独占状態といっていいほどのシェア率を誇っている。
そのうえで藤井氏は、「これまで個人間送金について深いキャンペーンを行ってこなかった。しかし、PayPay利用者が6,100万人を超えた今だからこそ、個人間送金のキャンペーン強化は、最後の3,500万人のユーザー獲得に向けたラストピースになると位置づけている」と説明する。
現時点でも、PayPayの個人間送金は「生活費」や「仕送り/お小遣い」、「飲食代」「物品購入」などで利用されてきたが、この中でも「飲食代」に関する金銭のやりとりの分野は近年、現金にも匹敵するほど浸透しつつあり、飲食分野を起点に他分野のユースケースも広げていきたい考えだという。
実際、利便性という観点では現金を大きく上回る部分も少なくない。
まず、現金と違ってATMなどでお金の出し入れをする必要もなければ、遠く離れた相手に送金できるので、お金のやりとりをする際もわざわざ対面しなくて済む。飲食後のグループ支払いなどの際も、誰が支払って誰が未払いかといった情報が履歴で確認できるので、余計なトラブルも生まれにくい。もちろん1円単位での割り勘も可能だ。
こうした優れた利便性がユーザーの信頼を獲得した結果、藤井氏によれば、現在PayPayの利用を周囲の人間に薦める「強い推奨者が1000万人を超える」ほどの規模で存在しており、彼らがPayPayの非利用者の背中を押す重要な存在になると期待を寄せているという。
○▼お年玉のキャッシュレス化で現金を駆逐! 抽選キャンペーン「お年玉くじ」実施
そして年明けのお年玉シーズンを見据え、PayPayは新たな抽選キャンペーン「お年玉くじ」を開始した。個人間送金の活性化を目的とした施策のひとつで、12月21日から2024年1月14日までの期間で行われるという。
「お年玉は日本が誇る非常にいい文化だと思ってる。 これを将来にもちゃんと継承していきたいが、現在はキャッシュレスの世界。従来の形ではなく、ぜひPayPayにアップデートをかける形で、新しい文化として作っていきたいと思っている」
藤井氏はそう主張し、2024年のお年玉の総額は5,236億円規模にのぼるとの試算を公表。親から子へのお年玉はもちろん、子から親、兄弟姉妹、そして職場関係など、多様化によるお年玉文化の広がりも捉えていきたいと訴える。
もちろん課題も多く、「キャッシュレスだと味気ない」「PayPayでもらうと使いすぎてしまう」「現金で使いたいときもある」といったユーザーの声も予想される。
こうした意見には数年スパンで応えていく意向で、例えば今回のキャンペーンでは、メッセージとお金を一緒に送れる「お年玉限定のポチ袋」を用意。さらに、PayPayのポチ袋でお年玉を送ると、抽選で最大1万円相当のポイントが送った人・受け取った人の両方に当たる「お年玉くじ」も展開する。
こちらの当選者は、お年玉を送った際の「決済番号」と「当選番号」が一致することで確認する方式を採用するとのこと。つまり、宝くじやお年玉付き年賀はがきと同じ要領である。
ちなみに、PayPayの調査によるとすでに約4割のユーザーがお年玉のキャッシュレス化を希望しているようで、そのうちの約9割がPayPayでの受け取りを希望しているという。こうした状況を受け、「我々としては、5,000億のお年玉市場の3分の1、約1,500億ぐらいの規模を、獲得しにいきたいと考えている」と藤井氏は明かす。
「今回はまだ1年目。いろんな課題やユーザーからの声をいただき、さらにブラッシュアップを加え、来年度以降も新しい施策を追加して、お年玉文化のアップデートにトライしていきたい」
さらに藤井氏は、「他社も同じような企画を発表しているが、そういった企業と一緒になって現金を駆逐していきたいと思っているので、ぜひ注目してほしい」と展望を語った。
猿川佑 さるかわゆう この著者の記事一覧はこちら