ああ懐かしい!「現役最古参のフェリー」はまさに“昭和” 最新船に負けないバブル竣工組

四国の松山と九州の小倉を結ぶ松山・小倉フェリーでは、日本の中長距離フェリーで最古参となる「フェリーくるしま」が運航されています。ベテラン船の内部はまさに昭和。タイムスリップしたような、レトロな魅力に溢れていました。
2023年12月現在、日本国内の中長距離(100km以上)フェリー航路で最古参の船は、松山・小倉フェリーの「フェリーくるしま」(4277総トン)です。竣工が1987(昭和62)年4月ですから、平成を飛び越え昭和時代の香り漂うベテラン船といえます。 登場から35年以上が経過した「フェリーくるしま」はどんな船なのでしょうか。筆者(安藤昌季:乗りものライター)は12月、松山観光港で船内を見せて頂きました。
ああ懐かしい!「現役最古参のフェリー」はまさに“昭和” 最新…の画像はこちら >>松山・小倉フェリーが運航する「フェリーくるしま」の外観(2023年12月、安藤昌季撮影)。
松山・小倉フェリーは、四国の松山と北九州の小倉(浅野港)を結びます。松山観光港は伊予鉄道の高浜駅よりバスで5分ほど。JR松山駅からでもバスで25分ほどなので、便利な立地です。小倉浅野港は、JR小倉駅から徒歩12分ほどなので、どちらも比較的利用しやすいフェリー乗り場といえましょう。
船内に入って徒歩乗船口の扉を開けると、急角度の階段がそそり立っています。いきなり昭和時代にタイムスリップしたような懐かしい風景です。階段を上がるとエントランスがあり、案内所で個室寝台の場合は鍵を借りることになります。23時まで営業する売店もあり、四国・九州の土産物や、お酒を含む飲料類、カップ麺やアイスも購入できます。
畳敷きでテレビが備えられたフリースペースもあります。決して豪華ではありませんが、ゴロゴロしつつ、のんびりとした船旅を楽しみながら、ほかの乗客との交流も楽しめる心安らぐ場所と感じます。なお、机と椅子のフリースペースや、電子レンジもあります。
2等寝台と2等室は開放室なので、貴重品を預けられる鍵付きロッカーもありました。一方、エントランスから扉で仕切られた空間が、個室寝台の並ぶ特等・1等室エリアです。
特等室は2種類あり、最も豪華なのが特等A(通常運賃2万1900円/1人)です。幅100cmのシングルベッドが2組あり、応接セットや大型机、冷蔵庫もあります。ユニットバス・トイレも備えており、ホテルの一室そのものです。経年劣化がないわけではありませんが、船内がよく清掃されており、普段から丁寧な手入れがされていることを感じられます。
特等B(通常運賃1万6400円/1人)は4人個室で、2段ベッドが2組と応接室の構造。寝台幅は100cmです。特等Bにはお風呂はないのかな……と思っていたら、広報係が「実は特等室には、別室で専用風呂があるのです」と案内してくれました。
特等風呂は、男女それぞれ別のスペースで、身長173cmの筆者でも全身が伸ばせる超快適なスペース。「家族風呂として使われたいお客様もいらっしゃいます」(広報係)とのことです。筆者は全国のフェリーに多数乗船しましたが、特等専用風呂は初めてで、インパクトがありました。ちなみに船内には別に大浴場があります。
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大浴場とは別に、特等室専用風呂がある(2023年12月、安藤昌季撮影)。
風呂場を後にします。リニューアル時に設置された1等室も2種類あり、どちらも寝台幅90cmで2段ベッドの2人部屋。1等A(通常運賃1万5900円/1人)と1等B(通常運賃1万4400円/1人)の違いがあり、Aはやや部屋が広く、応接セットとテレビ、折り畳みテーブルが備わります。
個室区画以外は8人部屋で、寝台幅90cmの2段寝台が並ぶ「2等寝台(通常運賃1万2000円/1人)」と、マットレスに布団と枕が備わる開放船室の「2等(通常運賃1万200円/1人)」があります。2等寝台は個室ではありませんが、カーテンで仕切られるので、かつての国鉄寝台特急の開放形A寝台のようです。
2等室はプライバシーこそ守られませんが、そこも含めて昭和のレトロ感があり、筆者には懐かしさを感じる設備です。1人あたりのスペースは80cmの幅があり、ゆとりもあります。特等のあるフロアの上に、2等のフロアがある船内構成も珍しいのではないでしょうか。
また特別に、トラック利用者向けのドライバーズルームも見せて頂きました。2段寝台の2人用個室で、一晩過ごすには十分な設備と感じます。従業員向け食堂やブリッジにもご案内いただきましたが、ここも昭和らしく飾り気のない機能的な空間でした。なお乗客向け食堂はありませんのでご注意ください。
では、いよいよ小倉へ向け移動します。窓口の受付は20時半からで、乗船は21時からですが、船までの連絡通路が長いことに驚きました。出港は21時55分です。
ベテラン船ですが、驚くほど静かな滑り出しで、エンジン音もあまり感じません。筆者が利用した特等Aは、寝台も適度に柔らかく、寝心地はかなり優れています。大きなテレビもあり、この個室に関しては、最新のフェリーの特等にも劣らぬ居住性を備えていると感じました。
瀬戸内海だからか、天候がよかったのか、出港しても船はあまり揺れず、かなり快適に過ごせました。小倉浅野港は早朝5時に到着。フェリーを宿代わりに使うには少し早い時間ですが、7時まで船内に留まることができます。ただし5時以降に一度、乗船口が外されるので、6時半くらいまで滞在することになります。
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早朝5時に着いた小倉浅野港(2023年12月、安藤昌季撮影)。
小倉、あるいは松山へ5時に着けるというのは、この航路の何よりの魅力です。観光の起点としても使いやすいですが、筆者は鉄道も好きなので、例えば通常は松山に宿泊しないと利用できない、JR四国の観光特急「伊予灘ものがたり 大洲編」や、博多への宿泊が必要な、JR九州の在来線最長特急「にちりんシーガイア5号」を利用する際にも便利だと感じました。
現在のところ「フェリーくるしま」を置き換える予定はないとのことで、昭和時代にタイムスリップしたような懐かしい船旅を、もうしばらくは体験できそうです。

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