「立憲期待の星」の寝返りは「今井瑠々氏の県議選落選がベストシナリオ」とする古屋氏の罠か、今井氏の目論見通りか【2023政治記事 9位】

2023年度(1月~12月)に反響の大きかった政治記事ベスト10をお届けする。第9位は、立憲期待の星と呼ばれた今井瑠々氏がなぜ自民党へ寝返ったかに迫った記事だった(初公開日:2023年1月20日)。立憲民主党の最年少女性衆院議員候補として、各地で活躍を見せてきた今井瑠々氏。党の「期待の星」だった新人女性の自民党への突然の「寝返り」劇には、これまで今井氏が戦ってきた古屋圭司・元国家公安委員長のほか、古屋氏の後継をめぐる権力争いが絡み、さらには今井氏への「罠」も見え隠れして……。
2023年度(1月~12月)に反響の大きかった政治記事ベスト10をお届けする。第9位は、立憲期待の星と呼ばれた今井瑠々氏がなぜ自民党へ寝返ったかに迫った記事だった。(初公開日:2023年1月20日。記事は公開日の状況。ご注意ください)
1月13日に野田聖子衆院議員同席のもと会見をおこなった今井瑠々氏
「積み上げてきた活動を生かし、関係団体と政策を実行するためには、自民党の力を借りる必要がある」。1月13日、今井氏は自民党岐阜県連で、岐阜1区選出の野田聖子衆院議員とともに会見した。ばっさりと切ったショートヘアで登場した今井氏は、立憲時代の自身を断ち切るかのように見えた。だが、後ろに貼った野田氏との2連ポスターに写る今井氏の写真は、立憲時代のポスターと同じ。今回の自民への寝返りがいかに急なものだったかを物語っていた。
今井瑠々氏のFacebookより
今井氏のこれまでを振り返ろう。岐阜県多治見市出身の今井氏は、高校生のときに東日本大震災の復興ボランティアに携わった経験から、まちづくりや政治に関心をもち、2021年の衆院選で立憲から出馬した。出馬会見は今井氏が被選挙権を得た25歳の誕生日の21年4月4日。東京から枝野幸男代表(当時)が駆けつけ、「立憲民主党を象徴する候補者」と手放しでたたえた。岐阜県内では、選挙のたびに野党が新人候補を擁立しながら敗北し、候補者が定着していない選挙区が多かった。そんななかで、地元出身の若い女性候補者は立憲岐阜県連にとって「期待の星」で、会見後、県連幹部も「若いけど、しっかりしゃべれるいい候補でしょ」と相好を崩した。同年10月の衆院選では、古屋氏に敗北。だが、出馬表明からわずか半年ほどで惜敗率83.5%まで迫り、次回の衆院選では、当選が十分に視野に入るとの見方が強かった。そんな今井氏に対し、立憲は資金を重点的に配分した。「衆院選後、立憲は厳しい財政事情ゆえに、総支部長として選任する落選者を絞りました。総支部長になれない落選議員が多数いる一方で、今井氏はすぐに選ばれ、月50万円の活動費が支給されてきました」(全国紙政治部記者)翌年の参院選では、東京、京都など重点選挙区の応援に駆けつけるという、イチ新人候補者としては異例の活躍をみせ、岐阜県連だけでなく、次世代を担う党の「顔」となっていくはずだった。
だが、今井氏の「裏切り」は水面下で進んでいた。22年5月、今井氏の選挙対策本部長を務めていた山下八洲夫・元参院議員が、新幹線のグリーン券をだまし取ったとして逮捕された。「今井氏は謝罪にまわっただけでなく、後ろ盾の存在を失ったことにより、孤立していき、耐えられなくなったようです」(立憲関係者)。一向に上向かない党の支持率、地元政界での孤立……。今井氏の心は徐々に立憲から離れ、当初は「先輩議員の言うことを素直に聞き、健気」と言われていた党内評は、「会議に遅刻してくるし、街頭演説のような目立つ活動はするが、地道な関係者回りには消極的」という評判へと変わっていった。21年の衆院選で落選後、立憲の総支部長に選任されなかった男性は「若い女性だということで、党が目立つイベントに引っ張り出し、活動費も潤沢に与えていた。党は見る目がない」と嘆く。
枝野幸男が代表を務める立憲民主党から手厚い応援を受けていたが…(Facebookより)
期待をかける立憲とは裏腹に、党から心が離れていく今井氏に「つけこんだ」形となったのが、今井氏と衆院選で戦った古屋氏だった。当選11回、70歳の古屋氏は、自身の秘書を務める長男への世襲を画策する。そこで、かねてより課題だったのが、「世襲で評判の悪い長男との対決なら、勝てるだろう」(立憲幹部)と言われていた強敵の今井氏の存在だった。
昨秋、今井氏は、共通の知人を通じて古屋氏の長男と面会。「県議選に出たいんでしょ」と言う長男の話に、今井氏はすぐに乗った。長男を通じて、東京都内で古屋氏本人とも複数回面会した。12月には、東京都内で開かれた会合で、野田氏とも対面。「無理して野党にいなくていいから」と野田氏に声をかけられ、「自分も不安なときが多いので」と今井氏は心情を吐露した。
昨年12月に開かれた会合で野田聖子氏と対面して自民入りへ加速?(Facebookより)
自民入りを画策する今井氏と、今井氏という強敵を取り込みたい古屋氏側で、トントン拍子で話が進んだ。ただ、古屋氏の周囲にも、さまざまな思惑がうずまく。「建設業界を中心に、古屋氏の長男世襲ではダメだという声は根強い。こうした人たちにとって、今井氏は古屋氏の後継になりうる切り札です」(自民岐阜県連関係者)「今後、古屋氏の引退の際には、古屋氏が推したい長男と、世襲反対派が推す今井氏とで、後継者争いになる可能性があります」(同)ただいずれにせよ、現時点では古屋氏にとっても、世襲反対派にとっても、そして今井氏自身にとっても、今井氏の自民への移籍にメリットがあるという点では一致したということだ。複雑に絡み合う思惑のなかで、今井氏が自民移籍で確実にしたいのは、目の前の岐阜県議選当選。しかし、思ったとおりに進むかは、不透明だ。
岐阜県議選多治見選挙区は、今井氏のほか、自民公認候補の友江惇氏、連合岐阜が推薦する野党系の判治康信氏の新人3人が、定数2を争う。今井氏の「寝返り」を受け、野党の鼻息は荒い。もともと「自民王国」の岐阜県では「仲間割れをしている余裕はない」(立憲の岐阜県議)とされるほど少数派の野党は、立憲も国民民主党も、選挙では協力体制を敷いてきた。その岐阜県の中で多治見市は、数少ない、野党が強い地域として知られ、多治見市長選では、現職の野党系・古川雅典市長の後継となる高木貴行県議の当選、県議選多治見選挙区では、判治氏の当選が野党にとっての至上命題だ。「多治見で人気者の今井氏が自民に来れば、自民が多治見市長選で勝てると思ったかもしれないが、市民の間では、今井氏の寝返りに反発も強い。逆効果ではないか」(立憲関係者)一方、今井氏が移った先の自民。今井氏はあくまで無所属で、自民「推薦」候補。古屋氏は「非自民で運動してきた皆さんをしっかりこっちに取り込んでもらう」と明言し、自民の組織的な票はあくまで「公認」候補の友江氏に差配し、友江氏の勝利を最優先する考えだ。ここにきて、今井氏のスキャンダルも飛び出した。19日発売の週刊文春が、今井氏が既婚者であるにもかかわらず、古屋氏の長男に「国会議員になれるなら、離婚して嫁ぎます」などと「求婚」していたと報じたのだ。
古屋圭司氏の思惑は…?(Facebookより)
「今井氏には大打撃です。これまで築いてきた『ジェンダー問題や女性・子ども政策に熱心』『ひたむきに頑張る若い女性』というイメージはガタ落ち。知名度があるとはいえ、県議選で当選できるかどうか、わからなくなってきました」(自民岐阜県連関係者)自民への寝返り後から、逆風にさらされる今井氏。ただ、彼女を引き込んだ古屋氏は、どこ吹く風だという。自民関係者は、古屋氏の狙いをこう解説する。「今井氏が県議選で落選するのが、古屋氏にとってベストシナリオ。消えてくれればいい。息子の世襲の道が安泰ならそれでよしだ」取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 写真/小川裕夫 共同通信社

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