見たことない!「空飛ぶレーダー」大型機に異例のサメの歯塗装「日本の失態」で誕生した空自AWACS部隊の“覚悟”

航空自衛隊の飛行警戒管制部隊が創設40周年記念式典を挙行。部隊発足のきっかけは、半世紀ほど前に起きたソ連戦闘機の北海道侵入だったそうです。式典を取材して、この40年で大きくなった部隊能力を見ることができました。
航空自衛隊発祥の地といえる静岡県の浜松基地において2023年12月2日、「飛行警戒管制部隊創設40周年記念行事」が行われました。航空自衛隊の飛行警戒管制部隊とは、機体に大型のレーダーを搭載した早期警戒機(AEW)と早期警戒管制機(AWACS)を運用する部隊のことで、具体的な機種名でいえば、E-2C「ホークアイ」/ E-2D「アドバンスド・ホークアイ」とE-767AWACSの3モデルになります。
この記念行事が浜松基地で行われたのは、これら機体を運用する「警戒航空団」の司令部があるためです。式典には警戒航空団司令をはじめとする部隊の隊員のほか、歴代の部隊OBや各機のメーカー関係者も招待されており、一般非公開で行われた自衛隊の部内式典ではあったものの、40周年の節目を記念するのに相応しい行事でした。
見たことない!「空飛ぶレーダー」大型機に異例のサメの歯塗装「…の画像はこちら >>記念撮影のために準備された特別塗装機のE-2D(左手前)とE-767。機首部分のシャークティースが目を引く(布留川 司撮影)。
式典には地元浜松基地所属のE-767のほかに、青森県の三沢基地からE-2Dも飛来し花を添えていました。この2機種は40周年を記念した特別塗装が施されており、機首部分に描かれたいわゆる「シャークティース」は最も目立っていました。
これは、サメの目と口を再現したもので、戦闘機ではよく見られます。航空自衛隊でも、航空祭や各種の共同演習などに参加した戦闘機に、特別塗装として一時的に描かれているのはこれまでもありましたが、大型機で行ったのはおそらく初めてだと思われます。
E-2Dのシャークティースは、飛行中でも剥がれないステッカーを用いたものであったのに対し、より大型のE-767については、白・赤・黒3色のテープを切り合わせて目や口を形作っていました。このように、シャークティースひとつとっても2機種で違いがあり、見ていて楽しかったです。
航空自衛隊において飛行警戒管制部隊が発足したのは1983年のこと。創設のきっかけは1976年9月6日に発生した「ベレンコ中尉亡命事件」でした。
この事件で、ソビエト軍のパイロットだったベレンコ中尉(当時)が、亡命のためにミグ25戦闘機で日本領空に侵入して函館空港に強行着陸したものです。
この時、航空自衛隊は地上に設置されたレーダーサイトで探知し、戦闘機をスクランブル発進させて向かわせました。しかし、ベレンコ中尉の機体が低空飛行で侵入してきたため、途中でその位置を見失い、結果、函館に飛来するのを防ぐことができませんでした。
亡命が目的だったベレンコ中尉に日本を攻撃する意図はなかったため、結果として日本が何らかの実害を被ることはありませんでしたが、実戦であれば敵機の侵入を許したことになってしまいます。そのため、この一件は日本の防空体制が脆弱であることを露呈させ、その問題を真剣に考えることに繋がりました。
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浜松基地内の格納庫で行われた記念式典。式台に経つのは式辞を述べる警戒航空団司令の横尾空将補(布留川 司撮影)。
航空自衛隊では全国各地に空を監視するレーダーサイトを設置して、日本の領空を24時間体制で監視しています。しかし、地上からレーダーで監視した場合、地球の丸みと電波の特性から遠方の低空を飛ぶ目標は探知することができません。その弱点を克服するために開発されたのが、空中からレーダーを使って遠方まで監視する早期警戒機です。
ベレンコ中尉の事件以降、航空自衛隊では防空体制の弱点を解消するために早期警戒機の導入を決め、1983年にE-2C「ホークアイ」を導入するとともに、それを運用するための専門部隊である臨時警戒航空隊(後に警戒航空隊へ改編)を発足させました。最初の隊員数はわずか約180名と少ないものでしたが、その後、部隊規模が拡充されていき、E-2Cの機数も当初の4機体制から、最終的には13機まで増強されています。
早期警戒機の重要性を認識した航空自衛隊は、E-2Cの配備完了後により高性能な機体の追加導入を検討します。その結果、1998年から導入されたのが現在の浜松基地に配備されているE-767です。
E-767は、ボーイング社製の旅客機B767-200ERをベースに、米国製E-3「セントリー」早期警戒管制機のシステムを移植して開発された機体です。E-2Cと比べて機体サイズが大きくなったことから、飛行能力や搭載機器の性能などが大きく向上しています。たとえば、機上管制官が使う状況表示コンソールはE-2Cの3台に対して、E-767は14台も搭載。乗員数もE-2Cの4倍にあたる20名にもなり、より多くの任務を単独で行えます。
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記念式典後に行われた隊員・OB・関係者による記念写真撮影(布留川 司撮影)。
また、E-2CおよびE-767の任務はレーダーを使った上空からの警戒監視だけではありません。入手した情報を元にして、乗務する機上管制官が味方戦闘機の戦いを管制することも可能です。
現代の航空戦は、複数の戦闘機やその支援機が連携して戦う組織的な集団戦であり、E-2CやE-767は戦場全体の状況を把握することで、全体を見渡す俯瞰的な視点から味方の戦いを支援します。つまり、E-2CやE-767のような機体がサポートに付けば、その支援下にある味方の戦闘機は、単独で戦う場合と比べてより効率的よく勝ちにいけるようになるのです。
言うならば、E-2CやE-767がいると、その戦闘機が持つ能力を何倍にも高めることが可能になるということです。
このたびの式典で40周年と謳われていたことからもわかるように、最初に導入したE-2C「ホークアイ」などは、すでに最新鋭の機体ではありません。そのため、運用する航空機の更新・アップグレードも随時進められており、そのひとつが最新型のE-2D「アドバンスド・ホークアイ」の導入になります。
同機は、老朽化したE-2Cに変わって2019年から三沢基地に配備が始まっており、最終的には18機が導入予定です。また、E-767についても、アメリカ軍のE-3の最新型であるG型と同等の機能へアップグレードする性能向上改修、通称「MCP(ミッション・コンピューティング・アップグレード)」が進められており、すでに4機のうちの1機が改修を終えています。
加えて警戒航空隊も、その重要性から2020年に現在の警戒航空団へと拡充・改編されており、司令職も1等空佐から空将補に格上げされています。
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E-2DとE-767をバックに、記念撮影をする隊員たち。地元浜松基地のE-767の第602飛行隊の隊員の他に、E-2Dを運用する第601飛行隊の隊員も含まれている(布留川 司撮影)。
航空自衛隊では、2023年12月現在、F-35「ライトニングII」戦闘機の機数増大を図っている最中です。加えて、長射程のスタンド・オフ兵器の運用も始まります。これら新装備の能力を最大限発揮させるためには警戒航空団が運用するE-2C/DとE-767は欠かせません。
それらを鑑みると、今後、警戒航空団や早期警戒管制機の重要性は増えることはあっても減ることはまずなさそうです。

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