九州最大のターミナル・J R博多駅近くの路上で女性がメッタ刺しに惨殺されてから、間もなく1年が経とうとしている。衆人環視の中で大胆な凶行に及んだのは女性の元交際相手で、福岡県警から度重なる警告や禁止命令を受けていたストーカー男。粗暴で粘着質な男は逮捕、起訴後も拘置所で複数の報道機関の記者に面会して持論を展開するなど、半ばヒーロー気取りで取材に応じていたという。
事件の発生は1月16日午後6時15分ごろ。同駅から約250メートルという人通りの多い繁華街の路上で、男は突然女性を引きずり倒して馬乗りになり、何度も何度も包丁を振り下ろし、足早に立ち去った。数十カ所をメッタ刺しにされて失血死した女性は福岡県那珂川市の会社員、川野美樹さん(当時38歳)。県警は2日後の同18日、福岡市博多区の飲食店従業員、寺内進容疑者(31)を殺人容疑で逮捕した。2人は博多の繁華街・中洲の飲食店グループの別の店で働いていて知り合い、2022年春から交際を始めたがすぐに破局。職場に押しかけるなどストーカー化した寺内から逃れるため、川野さんは同年10月から県警に頻繁に相談に訪れ、口頭での警告に応じなかった寺内に県警は同11月26日にはストーカー規制法に基づくつきまといなどを禁じる緊急の禁止命令を出していた。寺内容疑者は同年8月に同区内の路上で男性を殴ってけがを負わせていたことも発覚、福岡地検は川野さん殺害とストーカー規制法違反に加え、この男性への傷害罪でも起訴した。
寺内被告(本人SNSより)
社会部デスクが解説する。「寺内被告は殺人容疑での取り調べ中も、県警の取調室の壁に頭突きを繰り返して損傷させるなど、尋常じゃない粗暴ぶりを発揮していました。起訴後に勾留されている福岡拘置所では、新聞、テレビ局、通信社の面会要請に片っ端から応じ、記事やニュースに取り上げられるのを楽しんでいるようでした。その内容も、川野さん殺害時は『偶然会っただけ』『包丁は護身のために持っていた』、禁止命令を無視して川野さんの職場近くにいたことには『あいつの街じゃない』『俺がストーカーなわけねえだろ』などと自己弁護に終始することもあれば、『あいつの幸せを奪ってしまった』『罪を背負うしかない』『死刑になっても構わない』と陶酔感に浸ることも。要はその日の気分を口にしていただけでしょう。年明けの初公判で地検がどんな冒頭陳述をするのか、注目しています」
殺害された川野さん(本人SNSより)
寺内被告は大阪市福島区出身で、小学生のころから札付きのワルだった。近所の同級生の母親Aさんは、事件発生当時、集英社オンラインの取材にこう語っていた。「それぞれの家で当時はやっていたカードゲームをやってよく遊んでいたのですが、うちの息子は寺内くんが来るとレアカードをはじめ、よくカードがなくなると話してました。うちだけでなく、よそのお宅でも多発していたみたいで……」
少年時代の寺内被告(知人提供)
中学に進学すると、非行ぶりにも拍車がかかる。Aさんはこう続けた。「淀川の河川敷で男女10人で酒盛りパーティーをして、テンションが上がったのか不良仲間とチェーンなどの武器を持って他校に殴り込みに行こうとしたところを補導されたことがありました。さらにその3日後には教室で友達と歌を歌って盛り上がっていた息子が『ただ気に食わなかったから』というだけで殴られて……。息子はケガをしたので、寺内くんの親御さんと一緒にビールを1ケース持って謝罪に来ましたが、ビールを受け取ることはしませんでした。親子揃ってこちらと目も合わせず、反省している様子がないのもありましたし、寺内くんが同級生たちからお金を巻き上げるなど恐喝まがいのことを繰り返しているのを知っていたので、今後かかわってまた何かされるのも嫌でしたから」教師に暴行を働いて所轄署に被害届を出されたり、夏祭りで集団恐喝を繰り返したりと、すでに中学生でいっぱしのチンピラのようにもなっていた寺内少年は、高校に進学するとボクシングを始め、さらに調子づいていく。「この頃から鍛えた体を見せたいのかタンクトップばかり着るようになっていました。うちの息子が『俺には神戸の××組、大阪の〇〇組がついとるんじゃ』と脅されてお金を盗られたので、通報しようとすると『家に火をつけられるからダメだ』と怯えていました。高校は中退して、新聞に載るような事件を起こしたとも聞いています。息子が伝え聞いた話だと中退後はミナミのサパークラブで働いたり、十三でキャッチをしたり、市場で働いていたこともあったようです。息子の友人が目撃したところでは、道頓堀川のひっかけ橋で『おんどりゃー』と叫びながら、寝転がっている自分のお客の女性を蹴っ飛ばして泣かしていたこともあったとか。福岡に行ったことは知りませんでしたが、いつまでたっても変わらない寺内くんにみんな呆れていましたよ」(前出・Aさん)
中学時代の寺内被告(知人提供)
大阪では2019年ごろに知人の飲食店を手伝っていたが、酒が入ると客に法外な会計を突きつけるなどのトラブルが絶えず、わずか1ヵ月で閉店させてしまったという。その後に流れ着いたのが、九州随一の繁華街、博多・中洲だった。福岡県警担当記者が語る。「寺内は体験入店のような形で中州の有名グループのバーに店員として雇われ、川野さんはグループ内の高級ラウンジで働いていました。グループ内では男女交際が禁止なので、2人が付き合っていたことを事件まで知らないスタッフもいました。寺内は酔っ払うと腕っぷし自慢のオラオラ全開になるものの、店長には気に入られていて、川野さんとの交際が発覚してもクビを免れていた経緯もあります。しかし、川野さんに別れを告げられても応じず、さらにストーカー化して歯止めが効かなくなり、事件の直前には周囲に『しんどい、もう頭がおかしくなっているかも』とこぼしていたようです」
バーにも勤めていた寺内被告(本人SNSより)
寺内被告がかつて両親と暮らしていた大阪市福島区の実家周辺を訪ねると、もはや事件の記憶はだいぶ薄れていた。「俺は寺内進のお父さんと同じ運送会社で働いてたから、もちろん事件のことは当時から知ってたわ。あれからもうすぐ一年か……。俺も記者さんに聞かれるまで忘れとったくらいやし。なんだってストーカー殺人なんてしたんかな。お父さんはもうだいぶ前に病気かなんかして辞めたような記憶があるわ。寺内さんの家族も今は近くには住んでないと思うで」(近隣住民の男性)寺内被告の同級生の父親も、言葉少なだった。「事件当時は『同級生がえらい事件起こしたな』ってウチでも話題に出てたことがあったけど、今は子どももなんも話さんわ。もともと深い付き合いでもなかったし、名前知っとったくらいやしな。それでも、知ってる子がああいった事件を起こすのは、ショックだったみたいだけどな」
事件当時、現場に供えられていた花や飲み物(撮影/集英社オンライン)
川野さんはかつて沖縄の芸能養成スクールに通った経験もある、容姿端麗なラウンジレディで、若手の面倒見もいいベテランだった。またシングルマザーで、両親と同居しながら娘を育てていた。寺内被告が逮捕された1月18日は、39回目の誕生日だった。