【前編】どうしてこの状況を世界が許しているの…ガザで医療行為をしていた日本人看護師訴える“現地の悲鳴”

「イスラエルとガザの人道危機に関する報道の数が、日々、少なくなってきているように感じます。長期化して、人々の関心が薄れてくるのは怖いこと。一方で自分自身、テレビを見ていてふいにイスラエル情勢のニュースに触れると、気持ち的についていけず心に強いストレスを感じてしまうのです」
こう語るのは、ガザ地区で医療活動をしていた、大阪赤十字社病院の看護師・川瀬佐知子さん(45)だ。
川瀬さんは、11月5日に帰国したが、今でも現地に残るスタッフとメッセージアプリを通じて連絡を取り合っている。
「北部では変わらず激しい攻撃が続いていますが、現地のスタッフの大部分が移動した南部も危険な状態で、心休まらない日々を過ごしています。メッセージに既読がつかないときは、通信状態が悪いためなのか、現地で何か起きてしまったのかわからないため不安になります」
日本でも報道されたように、11月下旬、人質交換のため数日間の休戦が実現したが、まもなく戦闘が再開された。
「現地スタッフは『たとえほんの数日間とはいえ、物資が入ってくるなら今の生活の助けになる』と話していました。それほど、着るもの、食べ物、燃料などすべての物資が不足しているのです」
12月現在、避難民が集中する南部であっても、そこかしこで爆撃の音が聞こえてくる。さらに寒さとの戦いもあるという。
「今は気温が下がってきていて、凍えながら生活をしています。シェルター(避難所)では感染症が流行っていると連絡がありました。おそらく呼吸器系の感染症や、皮膚炎、きれいな水が飲めないため下痢や、胃腸炎などだと思います。衛生状態が悪いため、今後の感染症の拡大も不安です」
川瀬さんは帰国後、共に働いていたハムディ看護師からのメッセージが心から離れないという。
「4人の子供を持つお父さんのハムディが《こんなにたくさんの子供や女性が死んでいるのに、どうしてこの状況を世界が許しているの》と訴えていました。誰もが傍観者であってはならないんです」
ほんの数秒で生死が分かれた
川瀬さん自身も死の危険を感じるガザでの避難生活を振り返るーー。
「今回の軍事衝突があった10月7日の朝は、国際赤十字の宿舎にいて、ミサイルを打ち上げる音だと思うのですが、それが鳴り止まない。すぐに国際赤十字事務所から連絡があって、別の宿舎へ避難するように指示がありました」
同13日には、北部で本格的な戦闘があるため南部へ避難した川瀬さんは、職場であったアルクッズ病院のスタッフと、頻繁に連絡を取り合っていた。アルクッズ病院は、イスラエルに攻撃された北部最大のシファ病院とは車で10分くらいの距離にあり、有事の際の協力体制もできあがっていた。
「今回の軍事衝突以前から、看護部長と紛争下の活動を話し合っていて『何かあったら病院に来て、一緒に緊急事態に対応してほしい』と言われていました。しかし想定を超える軍事衝突で私は避難を余儀なくされました。看護部長からも『危険だから来ないでほしい』と言われて……。私自身一医療者として、体は元気なのに何もできないことに、葛藤はありました」
ただ、川瀬さん自身にも命の危険があった。南部の避難所でも爆撃の音は鳴り止まず、爆弾の衝撃で窓ガラスや机が揺れることも、たびたびあった。
「明け方4時くらいに激しくなって、そのたびに仲間と安否確認するために点呼をとったりしていました。夜寝るときも、次の日に目を覚まさないかもしれないという覚悟もしていました。一度、車で移動中、近くの建物が爆撃を受け、40、50メートル先に建物の瓦礫などが降り注いだこともあったんです。ほんの数秒で生死を分けたんですね」
こうした緊迫した状況下で、日本の家族との連絡が心の支えになったという。
「家族とはできるだけ連絡を取り合っていました。一度、妹と話をしているときに爆撃があって『ごめん、切るわ』といって避難したときは、さすがに次に繋がるまで心配していたようです。でも、なるべく心配かけたくないので、いつも『大丈夫』と言っていました。日本の家族も『大丈夫、大丈夫、こっちは全員、元気やから』と明るく答えていました。でも、帰国後に聞くと、両親は心配で共に号泣していたそうです。お互い心配かけまいと強がりながら、支え合っていたんですね」
家族と共に、川瀬さんにとって癒しとなったのは、現地スタッフや避難所の人々との交流だ。
「食べものは十分ではありませんでしたが、現地スタッフが危険な状況下で調達してくれました。きゅうりやトマト、冷蔵庫に入れなくても保存できるチーズなどを食べていました。卵はあったり、なかったり。スタッフの一人に、少ない食材でもスープを作る達人がいたから、1日1回は温かいものを食べられたんです」
彼らが日常を取り戻せるよう、一刻も早い停戦が求められている。

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