空中や陸上と違い水中は電波が届きません。そのためUUV(無人潜水艇)開発は、UAV(無人航空機)やUGV(無人車両)、USV(無人水上艇)とは格段に違うとか。では、遠洋で使うのが前提のUUVは、どう運用するのでしょうか。
現在も激戦が続くロシアによるウクライナ侵攻。この戦争では、ドローンの重要性が大きくクローズアップされたのは記憶に新しいことでしょう。最前線では両軍ともUAV(無人航空機)を偵察や攻撃のため大量投入し、またウクライナ軍はUSV(無人水上艇)を、橋梁や艦艇の攻撃に活用しています。いまやドローンは軍事作戦に不可欠の存在になったといえます。
さらに、ドローンを活用する新たな舞台として注目されているのが水中です。すでに小型のUUV(無人潜水艇)は機雷対処などに用いられ始めていますが、より大きく、航続距離や行動可能期間の長い大型UUVの開発が各国で進んでいます。アメリカの「Orca(オルカ)」、フランスの「OUDD」、韓国の「ASWUUV」などです
この動きは、四方を海に囲まれた日本も例外ではありません。防衛装備庁 艦艇装備研究所は「長期運用型UUV」の名称で、大型UUVの開発を進めています。今回、同機の試験評価を行っている岩国海洋環境試験評価サテライトを訪問し、実機を取材するとともに、大型UUV開発の課題を伺いました。
完全無人の「考える潜水艦」? 防衛装備庁が開発する“期待の新…の画像はこちら >>防衛装備庁が開発中の大型UUV「長期運用型UUV」。これは水中航行に必要な部分だけで構成された「本体モジュール」の状態で、全長は10m。ここに任務遂行に必要な追加モジュールを加えると全長は16m程度まで延長される(綾部剛之撮影)。
長期運用型UUVは、モジュール構造を採用しており、機能別に分かれたモジュールを結合することで構成されています。基本形となる「本体モジュール」は、航行に必要なセンサーなどが入る「頭部モジュール」、リチウムイオン電池を積んだ「エネルギーモジュール」、スラスターや舵を含む「尾部モジュール」の3つから成ります。
さらに用途に応じて、機能ごとに異なる追加モジュールを組み合わせて使用するとのこと。このため、本体モジュールだけで10m、追加モジュールを加えると16m近い巨体になるといいます。
追加モジュールについては、すでに「水中機器設置モジュール」の存在が明らかになっていますが、これは監視用センサーや水中通信ノードの設置が想定されています。また、「ある程度の重量物を運搬し、設置する」という、もっとも基本的な能力を実証する意味もあるようです。
冒頭でも述べたとおり、大型UUVは長期間・長距離での運用を目的としています。防衛省は、日本の周囲に広がる海洋の警戒監視にUUVを活用することで、潜水艦など有人艦艇の能力を補いたいと考えています。
ここで課題となるのがUUVの自律性、つまり「自分で考えて、判断する能力」です。
空中と異なり、水中は電波が通じません。音波や光といった通信手段も存在するとはいえ、これらも比較的短距離に限られます。そのため大型UUVは、遠くからリモート操作することができません。
「命令した通りに動くだけなら簡単では?」と思うかもしれませんが、子供のお使いを想像してみてください。ルートを正しく進み、自動車など路上の危険物を避け、もし工事で道が塞がっていたら別の道を探す必要があります。指示された商品が売り切れだったら、類似のものを選ぶか、別の店に向かうか、判断が求められます。大型UUVにも同様のことが想定されるでしょう。
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瀬戸内海に面した立地の岩国海洋環境試験評価サテライト。この建物は水中無人機試験棟と呼ばれ、各種のUUVを試験するための巨大水槽やシミュレーション装置が設置されている(綾部剛之撮影)。
そもそも、水中で自分の位置を正しく把握し、正しい方向に進むことからして簡単ではないのです。電波が届かないためGPSが使えず、変化する海流の影響を常に受けます。長期運用型UUVは、音波により海底との相対速度を計測する機器と、慣性航法装置を組み合わせることで自己位置を推定しているそうです。また、暗い水中で音波を頼りに周囲を観察し、障害物を認識して正しい回避方法を判断することも必要になるとのことでした。
こうしたUUV自律制御の試験を行う施設が、岩国海洋環境試験評価サテライトです。水中音響計測装置と呼ばれる巨大水槽は、海中の音響環境を正確に再現することが可能であり、擬似的に海中と同じ状況を再現できます。この装置を用いて、長期運用型UUVが正しい判断を下せるか、研究・試験を行っています
また、「HILS(Hardware In The Loop Simulation)」と呼ばれるシミュレーション装置は、バーチャル空間上にUUVモデルを再現し、さまざまな海洋環境(海底地形、水温、水流など)における判断能力を評価できます。つまり、岩国ではUUVの「頭脳のテスト」が行われていると表現できます。
長期運用型UUVは7日間の連続した運用が可能だそうです。しかし、7日間はあくまで研究のマイルストーンであり、より長期間の運用を目指しています。ここで問題となるのが、エネルギーです。
アメリカ海軍の大型UUV「Orca」は約2か月動くことができると言われていますが、これは同機がディーゼル・エレクトリック機関を搭載しているからです。日本で開発が進められている長期運用型UUVはリチウムイオン電池を搭載していますが、現時点の技術では電池より化石燃料のほうが、エネルギー密度(体積あたりのエネルギー量)が高いです。これはガソリン車とEV車の走行距離を考えるとわかりやすいでしょう。
一方でディーゼル機関は吸排気のため浮上する必要があります。これは隠密行動が求められるUUVにとって大きなデメリットとなります。日本ではより長期間の行動を可能とするため、燃料電池やAPI機関など、さまざまな動力源を模索しているようです。
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海中の音響環境を再現できる水中音響計測装置の巨大水槽。縦横35×30m、深さは11mもあります。まるで巨大ロボットアニメの研究施設のような迫力だ(綾部剛之撮影)。
このように、現在テストが続く長期運用型UUVですが、これはそのまま部隊配備されるものではなく、あくまで艦艇装備研究所による実験機なのだそう。部隊配備を目指す「量産機」となれば、機能や性能など部隊側のニーズなどに沿ったものとなっていくと思われますが、長期運用型UUVはそのための技術的な土台になるでしょう。
今回、防衛装備庁の岩国海洋環境試験評価サテライトを取材したことで、改めて島国日本にとって長期運用が可能な大型UUVは、確実に将来、必要不可欠な防衛装備となると実感しました。