中国の航空機市場は拡大が続くため、今後、旅客機パイロットが不足するであろうといわれています。そこで操縦士養成に多くの練習機が必要だと予測し、このたび新型機が披露されました。ただ全くのオリジナルというわけでもなさそうです。
中国の大手航空機メーカー、中国航空工業集団(AVIC)は、2023年11月下旬に珠海金湾空港で開催された「アジア汎用航空ショー2023」で新型練習機AG100を公開しました。
AVICは中国の国営企業で、傘下には小型機メーカーから大型機メーカーまで多くの会社がある巨大企業グループです。その中で小型機を生産しているのが、エアショーの地元である珠海市に本社を置く中航通用飛機です。
ただ、同社はアメリカの老舗航空エンジンメーカーであるコンチネンタル・モータースを2009年に買収したことで発展した企業で、2011年には先進的な小型機メーカーとして知られるシーラス・エアクラフトも買収し、傘下に収めています。
「どっかで見たような…」中国国産の新型練習機デビュー “国営…の画像はこちら >>2023年11月下旬に珠海金湾空港で開催された「アジア汎用航空ショー2023」で展示された新型練習機AG100(細谷泰正撮影)。
シーラスは、1980年代に航空機設計者であり製作者でもあったクラプマイヤー兄弟がウィスコンシン州で創業した新興の航空機メーカーです。同社は斬新な空力デザインと複合材料を使用した意欲的な機体のキットを販売していましたが、現在はミネソタ州で完成機を生産するメーカーに生まれ変わっています。
機体構造に複合材料を使用した意欲的な設計の機体はパイロットから高く評価されており、それまで小型機の分野では王座に君臨していたセスナ社を、シーラスは単発機の受注数で追い抜きました。
今回発表されたAG100は、こうした企業を傘下に収めるAVICが発表した新型機になります。
中国では最近、国産旅客機の運航が国内航空路線で始まりましたが、旅客機の市場が拡大しているため、今後は大量のパイロットも必要になるでしょう。ゆえに、それらパイロットを養成する飛行学校や大学向けに多くの練習機需要が発生すると予想されていますが、そうした需要に応えるために開発されたのがAG100です。
今回公開されたAG100は、141馬力のロータックス社製エンジンを搭載した3人乗り。前席に練習生と教官が乗り、その後ろにオブザーバー席があります。
ロータックス製エンジンが採用された理由は、航空燃料以外にも自動車用燃料が使用できるメリットがあるからです。中国国内では航空ガソリンの価格は日本より高いため、代わりに自動車燃料を使用することで飛行コストを低減させることが可能になります。
なお、中国ではAG100は国内開発機と発表されていますが、機体の形状とコックピットのデザインはシーラス社のヒット商品、SR20シリーズに酷似しています。それもそのはず、シーラスの担当者自身が、機体は親会社であるAVICとの契約に基づいて自分たちが開発したモデルだと明言したのです。
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2023年11月下旬に珠海金湾空港で開催された「アジア汎用航空ショー2023」で展示された米シーラス製の練習機SR20(細谷泰正撮影)。
つまり、AG100は中国企業の機体ではあるものの、実体はアメリカで設計・開発されたモデルだと。えるでしょう。アメリカではSR10の名で開発され、すでにFAA(米国連邦航空局)の型式認証も取得しています。そのSR10の開発に並行する形で、中国でもAG100の開発が進められたというのが実情です。なお、すでに中国でも型式認証の取得に向けて飛行試験が始まっています。
ちなみに、シーラスはSR10を開発したものの、同モデルをアメリカ国内で販売する計画は今のところないとのこと。その理由は、SR20シリーズの受注が好調で、生産に余力がないからだといいます。そのため、シーラスとしては当面、SR10の機体コンポーネントを中国へと輸出、同国国内で組み立てられた機体がAG100として販売される模様です。AG100はすでに受注も獲得しており、型式認証の取得に続いて受注した機数が生産される見込みです。
このようにAG100は、実はアメリカメーカーであるシーラスとの共同開発という体で誕生しています。ただ、このやり方はAVICと中国民用航空局にとっても大きなメリットをもたらします。というのも、シーラス製の機体を自分たちが扱うことで、世界的に遵守されているアメリカの安全基準と認証方法、関連ノウハウなどを習得することが可能になるからです。
そのため、AG100に続く機体は名実ともに中国国内で開発・生産され、世界中に輸出されるようになるものと筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)は考えています。
これらを鑑みると、セスナを筆頭に欧米メーカーがシェアのほとんどを占めている軽飛行機の分野でも、中国が台頭するのはそう遅くはないようです。