〈横浜“元子役”女子大生ストーカー殺人〉SNSのアカウント名を被害者女性の名前にして復縁を迫ったDV男の今。友人も「もう二度と会うことはない」…求められるDV防止法の改正

横浜市鶴見区の大学1年で、元子役女優でもあった冨永紗菜さんが自宅マンションの駐車場で刺殺された事件から半年が経った。度重なるDV被害から何度も警察沙汰になり、復縁を迫る元交際相手から付きまとわれた末に惨殺された典型的なストーカー殺人だ。殺人罪などで起訴され、初公判を控えて横浜拘置支所に勾留されている伊藤龍稀(はるき)被告(23)を訪ねてみた。
事件は6月29日に発生。神奈川県警鶴見署が同日、殺人容疑で伊藤被告を緊急逮捕し、横浜地検が7月20日、殺人や窃盗、横領、住居侵入の罪で横浜地裁に起訴した。起訴状などによると、伊藤被告は6月29日、マンション敷地内の車両用通路脇で冨永さんの首、胸、腹を包丁で4回突き刺して殺害した。死因は出血性ショックだった。また、冨永さんが伊藤被告のアパートに置き忘れた鍵を横領して事件直前にマンションの部屋に侵入、凶器の包丁は同日、鶴見区内の店舗から盗んだものだった。
現場となったマンション(住人提供)
事件の1週間ほど前に2人は交際関係を解消していたが、伊藤被告は復縁を迫って何度もメールを送りつけたり、冨永さんのアルバイト先に押しかけるなどしていた。事件当日は横領した鍵を使って部屋に侵入、いったんは促されて外に出たがその後も付近で待機し、冨永さんが通学のために父親に車で送ってもらおうと外に出たところを襲ったとされる。伊藤被告は調べに対し「よりを戻したかったが説得できず、悲鳴を上げられたので刺した」などと供述していた。事件に先立ち、神奈川県警はこの2人の交際トラブルで4回通報を受けて対応にあたっていたが、冨永さん本人から被害届が出されるまでには至らず、立件されなかった経緯がある。約2年に及んだ交際期間中も伊藤被告のDVが絶えず、冨永さんが「馬乗りになって殴られた」などと友人に漏らすこともあった。
伊藤被告(知人提供)
DVは伊藤被告のアパートなどで行われ、2021年10月から今年6月22日までに計4回、冨永さんや友人、激しく言い争う声を聞いた住人などから通報が寄せられ、県警が対処。このうち昨年12月のケースで冨永さんは「別れるなら殺すと言われ、首を絞められた」と説明したが、被害届提出の意思はなかったといい、県警はストーカー規制法に基づく禁止命令は行わなかった。
警察庁によると、昨年1年間の配偶者による暴力(DV)の相談などの件数は前年比1.8%増の8万4496件。ここから事件にまで発展して摘発されるケースはおおむね10分の1程度で、2001年のDV防止法施行以来ほぼ一貫している。特に同居歴のない未婚の交際相手らによる暴力はDV防止法の規制の対象外で、法改正を求める声も強い。逮捕当時、伊藤被告の中学時代の同級生は、冨永さんと破局した際の伊藤被告の異常な執着ぶりについてこう証言した。
中学時代の伊藤容疑者(知人提供)
「ハルキは紗菜さんに対してDMを送るためだったり、アピールするためにインスタのアカウントをいくつもつくっていました。自分も全部フォローしてるわけじゃないですけど、『3737』だったり『ソーリーサナ』ってアカウント名もありました。何とかしてよりを戻すために、そうやって紗菜さんに思いを伝えようとしていたんだと思います。昔からハルキのことは知ってます。ハルキの家は複雑で、あいつ自身はマザコンかって思うくらい母親が好きでした。ただ、その一方で母親が再婚すると『母親のことが許せない』という気持ちもあったようでした。そういう背景もあって家出を繰り返しながら友達の家を泊まり歩いてました。中学時代から誰かに暴力を振るっているのは見たことがありません。周りで友人たちがケンカをしていても、ハルキは『殴るのも殴られるのも嫌だから』と加勢することも一切ありませんでした。それだけ暴力を嫌がってたのに…」
復縁を迫ったインスタのアカウント(知人提供)
サッカー部でキーパーをつとめていた伊藤被告は、高校に進学するも中退。その後は仕事を転々とし、飲食店で働いていた際に冨永さんと出会った12月、改めて同級生の元を訪れたが、こう口を濁した。「事件当時は、ハルキがあんなことをやるなんて信じられないという友達も多くいました。『あんなことやれるやつじゃないと思ってた』という意見も含めてハルキのことがたびたび話題になりましたが、今は誰もハルキの話題は出さなくなりましたね。もちろん、立ち直ってほしいという思いがないわけではないんですけど…」
伊藤被告がアルバイトをしていた立ち飲み屋の店長は、事件発生当時は取材を始めると話すほどに感情がたかぶったのか、涙をこらえるのに必死だった。「ハルキは家庭環境が複雑で、いつも妹と弟をいつも守ろうとしてる感じがあった」「仲間思いのいいやつだった」と伊藤被告をかばった。しかし、今回は至極淡々とした対応だった。「ん? ああ。うん。あれから何も話題になってませんよ。お客さんも誰もあの事件のことは話しませんし、私も話しません。事件当時は話題にする人もいましたが、もう誰もあの事件のことを考えないんだと思います。自分も今何か思うとかもありませんし、もういいですかね?」
殺害された富永さん(本人SNSより)
伊藤被告は事件発生から約1ヶ月後に民放テレビ局の取材に応じ、面会室で「今でも数秒に1回くらい彼女のことを思い出すので全然寝られていない」「基本的に何も考えたくないので小説を読むか、何も考えずに目をつぶるかしている」などと心情を吐露する様子が伝えられた。しかし、今回は、横浜拘置支所で面会の受付を済ませ、待合室にいた記者の前に、伊藤被告は姿を見せなかった。刑務官は記者にこう告げ、踵を返した。「本人が会いたくないと言っていて、面会拒否しております」
※「集英社オンライン」では、今回の事件について取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:shueisha.online.news@gmail.comTwitter@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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