[社説]生活保護減額訴訟 「生存権」脅かす判決だ

困窮者の実態に寄り添った判決とは言い難い。 国による生活保護費の基準額引き下げは、生存権を保障する憲法や生活保護法に違反するとして、受給者9人が那覇市を相手に減額処分の取り消しを求めた訴訟で、那覇地裁は受給者側の請求を退けた。 厚生労働相の判断を「裁量権の範囲から逸脱し、これを乱用したものとは認められない」としたのだ。 「裁量権の範囲を逸脱し、重大な過失がある」として原告側の主張を認め、国に賠償を命じた11月末の名古屋高裁とは真逆の判決となった。 同種の訴訟は29都道府県で起こされ、一審判決は23件目となる。このうち12件が減額処分を取り消した。控訴審判決は2件で、大阪高裁は、一審判決を取り消し、受給者側の請求を退けた。 今回の訴訟は、全国同様、厚労相が物価下落などを理由に2013~15年の3年間で、食費などに充てる生活扶助の基準額を平均6・5%、最大10%引き下げた判断に裁量権の逸脱や乱用があったかどうかが争われた。 那覇地裁の福渡裕貴裁判長は「(厚労相は基準の改定に)専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有する」として、国側の主張を認めた。 原告は消費者物価指数の下落率が沖縄は全国より大幅に低かったことを指摘したが、独自の物価指数を基にした厚労相の判断を容認した。原告が「不当」と憤るように、生存権を軽視した判決である。■ ■ 13~15年の生活保護基準額の減額は「引き下げありき」と当初から批判されていた。 12年、人気芸人の母が生活保護を受給していたことが激しい批判を浴び、国会議員らが「不正受給」と追及。当時野党だった自民党は同年の衆院選で生活保護費減額を公約に掲げ、政権に返り咲いた。 厚労省は、生活保護基準額の水準と消費実態との乖離(かいり)を解消する「ゆがみ調整」、物価動向を踏まえた減額「デフレ調整」などを行い、計約670億円を削減した。 原告勝利となった名古屋高裁判決は、検証に基づいた基準改定なしに一律処理でゆがみ調整が行われたことや、学術的裏付けがない独自指数を用いてデフレ調整が行われたことを指摘し「合意的関連性や整合性を欠き、裁量権の範囲を逸脱している」とした。 厚労相の裁量権を広く認めれば、恣意(しい)的に改定されかねない。名古屋高裁の判決の方がより客観的で妥当な判断と言えよう。■ ■ 昨年、生活保護費が減ると医療費が増えて、減額分を上回る可能性があるという研究結果が報告された。 生活保護は、個人の安全網であるだけでなく、社会の安全網であることが分かる。 那覇地裁の判決を受け、原告は控訴する方針だ。 県内の受給者は昨年末、3万9千人を超え、過去最多を更新した。生活保護は憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を具体化する重要な制度だ。高裁は、制度の本来の趣旨に立ち返り、司法判断してほしい。

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