「もはや政権は火だるまだ…」閣僚の後任人事には“首相の身内びいき”の声も。裏金問題で議員辞職ドミノとなれば、補選ラッシュで自民はさらなる大逆風必至

中央政界を大きく揺るがしている自民党の派閥による政治資金の裏金問題。検察は近く安倍派や二階派の事務所を家宅捜索するなどの強制捜査に乗り出し、国会議員らの立件に向けて証拠固めを進める方針だ。こうしたなか、岸田文雄首相については予算成立後の退陣論も浮上し始めている。
「ついに底が抜けた」と自民党関係者はため息をついた。時事通信が12月14日に発表した世論調査で、岸田内閣の支持率は17.1%となり、報道各社の世論調査の中で、初めて2割を下回る結果となった。2割を切るのは、民主党に政権の座を明け渡した2009年の麻生内閣と同水準の支持率の低さである。岸田政権は裏金問題が噴出する前からも、「増税メガネ」と揶揄されるなど支持率が低迷していたが、自民党内で蔓延していた「政治とカネ」の問題が明るみに出たことを受けて、さらに拍車がかかったかたちだ。岸田首相は臨時国会閉会を受けた13日の記者会見で、裏金問題について「国民の信頼回復のために火の玉となって自民党の先頭に立ち、取り組んでまいります」と述べたが、永田町では「『火の玉』というか『火だるま』のような状態だ」とも。
いまや“火だるま”と揶揄される岸田文雄首相(共同通信より)
こうしたなか、14日に断行されたのが「安倍派外し」の閣僚人事だ。裏金問題において特に安倍派では、収支報告書に記載せず、議員にキックバックして裏金化する行為が組織的に行われていたと見られ、検察も厳しく捜査にあたっている。この安倍派から閣僚に起用されていた松野博一官房長官、西村康稔経産大臣、鈴木淳司総務大臣、宮下一郎農水大臣が14日に一斉に辞表を提出し、事実上の更迭となった。ほかにも、安倍派の副大臣5人、政務官1人、首相補佐官1人、防衛補佐官1人も交代を余儀なくされた。
身から出たサビとはいえ、今回の閣僚人事については安倍派から反発する声も上がっている。特に、政権の要である内閣官房長官に岸田派の林芳正氏を就けたことについては「身内びいきだ」(自民党関係者)との声も根強い。「今回の裏金問題では確かに安倍派が目立っているが、二階派や岸田派の政治資金パーティーの収入の過少記載も検察の捜査線上に挙がっている。それなのに官房長官という重要ポジションに岸田派の林氏を就けたことには、もはや呆れの声が広がっている」と永田町関係者は指摘する。官房長官については一時、無派閥議員の起用も検討されていたようだが、結果的に首相の身内を優遇する人事となってしまったのだから、党内の不満がたまって当然だろう。今回の人事に対する安倍派の反発を象徴する出来事といえるのが、安倍派の萩生田光一政調会長が先んじて辞表を提出したことだ。岸田首相は、自民党の政策の責任者である政調会長について、来年度予算案を閣議決定した後の22日に交代させる方向で調整している。しかし、萩生田氏は「出処進退は自分で決める」と記者団に明言し、14日に安倍派の閣僚らとともに辞表を提出。そのため、岸田首相は「次の政調会長を決めるまでは責任を持って仕事を進めてほしい」と萩生田氏にお願いせざるを得なくなった。これについて永田町関係者はこう解説する。
辞表を提出した萩生田光一政調会長(本人Facebookより)
「閣僚や党役員が辞める際には、実際に交代する準備が整ったタイミングで辞表を提出するのが一般的だ。それなのに、先んじて辞表を提出したのは、もう安倍派議員が岸田首相の言うことを聞かなくなってきている表れではないか」そもそも、岸田首相が臨時国会閉会直後の14日に、事情聴取などの捜査を受けるのは安倍派だけだと決め打ちして、早期の幕引き人事を行ってしまったことについては非難の声もある。検察の捜査は二階派や岸田派にも広がっていることから、仮に安倍派の閣僚を外したところで、後から他派閥の現職大臣や副大臣などが事情聴取を受ける事態となる可能性があり、そうなれば再び交代人事が求められることになる。岸田首相としては、松野氏や西村氏など安倍派の事務総長経験者が事情聴取を受ける前に、内閣から外すことで政権へのダメージを減らそうとしたのだろうが、検察の捜査が本格化する前に先んじて人事をやったことが吉と出るか凶と出るかは見通せない。
一連の裏金問題で混沌とした雰囲気が漂う自民党だが、永田町では来年度の予算成立後の岸田首相の退陣論が囁かれ始めている。その背景には、来春に予定されている補欠選挙の日程との関係がある。来年には細田博之前衆院議長が多臓器不全で死去したことを受けて、島根1区で4月16日告示、28日投開票の日程で補欠選挙が行われる見込みだ。ただし、もし検察の捜査によって裏金問題について立件される議員が出た場合、年内に略式起訴や略式命令によって罰金刑が確定し、議員辞職をせざるを得なくなる可能性がある。このとき、辞めた議員が選挙区選出だった場合には、その欠員を埋める補欠選挙が来年4月のタイミングに組み込まれ、島根1区の補選と同時に行われる公算が大きいのだ。
岸田首相とともにポーズをとる故・細田博之氏(本人Facebookより)
仮にそうなると、4月補選は裏金問題がテーマになることが必至で、自民党にとっては逆風の選挙となるだろう。そのため、補選に入る前に岸田政権が退陣し、新しい総理総裁のもとで選挙戦を戦うのでは、との観測がすでに出始めているのだ。今回の裏金問題については「令和のリクルート事件」と呼ばれることも多いが、リクルート事件の際には竹下登内閣が予算成立後に退陣をしている。場合によっては岸田内閣もリクルート事件の際と同じ道を歩むことになるかもしれない。透明とは程遠い政治資金の運用をしていた報いで、ついに司直のメスが入ろうとしている。裏金問題によって、一体どれだけの議員がバッジを外すことになるのか。永田町にとっては戦々恐々の年末となりそうだ。取材・文/宮原健太集英社オンライン編集部ニュース班

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