日本生まれなのに「世界最大級のコンテナ船」が日本に帰れないワケ 物流の世界サイズ“受入れムリ”な現状

日本で建造された「世界最大級のコンテナ船」が続々と竣工。世界物流の幹線航路へ投入されますが、あまりに大きいため、造船所を離れると日本へ戻ってくることができません。これは、物流の世界における日本の立ち位置を象徴しています。
ジャパンマリンユナイテッド(JMU)呉事業所で2023年12月6日に竣工した2万4000TEU型コンテナ船「ONE INSPIRATION」は、世界最大級のコンテナ船であるというだけでなく、日本でこれまで建造されたコンテナ船の中で一番の大きさを誇ります。
日本生まれなのに「世界最大級のコンテナ船」が日本に帰れないワ…の画像はこちら >>竣工したONE INSPIRATION(深水千翔撮影)。
JMUと今治造船は2万4000TEU型を両社で合わせて計6隻建造しており、「ONE INSPIRATION」はその5番船。運航を担うのは海運大手の日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ事業を統合したオーシャンネットワークエクスプレス(ONE)で、まさに日本の海事産業を代表する船と言っても過言ではないでしょう。
同船の命名・引き渡し式には、ONEのジェレミー・ニクソンCEOやJMUの灘 信之社長、船主である正栄汽船の檜垣幸人社長(今治造船社長)ら約60人が参列しました。
さて、「ONE INSPIRATION」の具体的なスペックを見ていきましょう。
●船体・全長399.95m・全幅61.40m・エアドラフト(水面からマストの一番上までの高さ)73.5m(20階建てビルに相当)
日本海軍最大の戦艦である「大和」(全長263m、全幅38.9m)を遥かに凌駕するサイズですが、一方で乗組員の定員は34人です。実際、操船を行うナビゲーションブリッジに上がると、その広さと機器の少なさに驚かされます。
●積載能力・20フィートコンテナ換算で2万4136個。・オンデッキ(デッキ上):24列、最大13段積み・ホールド内(船倉):12段積み
海上コンテナの主力である40フィートコンテナは長さ約12m、高さ約2.6mなので、コンテナを満載したその姿は、まさに海を行く巨大な“壁”。船尾から船首に向けてずらっと立ち並ぶラッシング・ブリッジ(積載コンテナ間の足場となる設備)を見るとその迫力に圧倒されます。
船首の「ONE」と大きく社名が書かれた構造物は、「ウインドシールド」と呼ばれるもので、航行時に船首側からデッキ上のコンテナに向かってくる風の抵抗を減らし、燃料消費を低減する役割をもっています。「ONE INSPIRATION」ではウインドシールド内側の係留デッキ上にもコンテナ積載が可能となっており、燃費性能と積載性の向上を図っています。
ラッシング・ブリッジを注目してみると、冷凍・冷蔵貨物の輸送に使用されるリーファーコンテナの電源プラグが確認できます。「ONE INSPIRATION」では2000か所以上が用意されており、顧客のニーズに沿ったサービスをより柔軟に提供できるようになりました。もちろんコンテナ内に窒素を充満させて青果物の鮮度を保持したまま海上輸送が可能なCAコンテナにも対応しています。
従来の船ではレーダーやECDIS(電子海図システム)、主機リモートコントロールシステムなどさまざまな航海計器や操船機器類が別々に配置されていましたが、「ONE INSPIRATION」では少人数でも効率的な運航ができるよう、着座式の統合型航海システム(INS)が採用されています。そのため、ブリッジ内を移動することなく、航海情報の確認や機器の操作を手元で同時に行えるようになりました。
さらに、ブリッジは左右のウイングまで全て屋内に収められた全天候型となっており、離接岸時には床に設けられた窓から下を見ながら、ウイング端に設置されたジョイスティックを使い細かな操船をすることができます。
主機はドイツのMANが開発した最新の電子制御ディーゼルエンジンを搭載。SOx(硫黄酸化物)を回収するスクラバーに加え、荷役時にディーゼル発電機の運転停止を可能とする AMP(陸上電源供給システム)を搭載するなど、さまざまな環境規制に対応しました。これにより、燃料消費量は既存の2万TEU型に比べて、約20%減となっています。
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全長は約400m。通路の移動だけでもひと苦労(深水千翔撮影)。
「ONE INSPIRATION」が投入されるのは、「ザ・アライアンス(TA)」のアジア~欧州航路FE3です。アジアでは中国の寧波(ニンポー)、厦門(アモイ)、台湾の高雄、シンガポールなど、欧州ではオランダのロッテルダムやドイツのハンブルグ、ベルギーのアントワープなどに寄港。所要日数は84日間です。
2万TEUを超えるコンテナ船とあって、大量の荷物を降ろす欧州の港では2日から3日ほど停泊するとのことです。長期の航海となるため、船内にはお酒を飲めるバーカウンターを備えたラウンジや、トレーニングルームなども置かれています。
ONEは2020年12月24日に船主である正栄汽船と超大型コンテナ船の長期用船契約を締結し、2万4000TEU型を計6隻、建造することが決めました。ヤードはJMU呉事業所が2隻、今治造船の丸亀事業本部が2隻、同西条工場が2隻。2021年1月にはJMUと今治造船による商船営業・設計の合弁会社「日本シップヤード(NSY)」が設立されており、両社の技術を結集して開発・建造が行われました。
また、6隻のうち2隻は政府系海外向けインフラファンドの海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が新造船の建造をファイナンス面で支援するため42億円を出資しています。
ONEの2万4000TEU型は、JMU呉事業所で2023年6月に竣工した「ONE INNOVATION」に始まり、今治造船の西条工場で建造中の6番船「ONE INTELLIGENCE」が12月中に引き渡されると、全てが揃います。
そんなONEの新造メガコンテナ船ですが、残念ながら日本には寄港しません。ここに、世界の物流における日本の立ち位置と港湾の現状が表れています。
まず2021年のコンテナ取扱個数は、東京港が486万TEU、横浜港が286万TEUなのに対して、世界トップの上海港は4703万TEU、2位のシンガポール港は3747万TEUと大きく差を付けられています。北米・欧州方面への基幹航路の寄港回数でもシンガポール、上海、釜山の各港に比べると京浜港、阪神港ともに見劣りします。
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ブリッジから見たデッキ。船体の横方向に足場となるラッシング・ブリッジが林立している(深水千翔撮影)。
そもそも日本で2万4000TEU型の接岸が可能な水深18mの岸壁を持つコンテナターミナルは、横浜港南本牧ふ頭の2バースだけです。さらに言えば、メガコンテナ船に関しても日本はコスト競争力に優れている中国や韓国の造船所と競合しており、ONEを含む大手コンテナ船社が今後、2万TEUを超えるコンテナ船を日本の造船所で整備するかは不透明な状況です。
マゼンタカラーを海面に映して広島湾を進む「ONE INSPIRATION」。ONEが誇る2万4000TEU型シリーズの1隻として、効率的な国際物流の構築に向け活躍することが期待されています。

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