NISAで積み立てるだけで大丈夫?債券を組み合わせたポートフォリオ運用のススメ


とりあえずS&P500やオルカンといった、定番インデックスファンドに投資しているものの、意外と値動きがあって不安になっている、という方もおられるのではないでしょうか。それはそうです、大事な大事なお金を投資されているのですから。

不安、つまりリスクを少しでも減らし、コントロールしていくには、債券という選択肢があります。本稿では、意外を知られていない債券について、投資のプロ中のプロである、一般社団法人日本金融サービス仲介業協会 代表理事会長の中村 仁さんに教えていただきたいと思います。

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皆さん、こんにちは。株式会社400Fの中村と申します。弊社は”オカネコ”というお金に悩んでいる方とお金の専門家をマッチングするプラットフォームを運営しており、その中で金融サービス仲介業を通して個人の皆様に資産形成に関するアドバイスを提供しています。

そんな中で今回は、金利環境の影響などによってここ最近非常に相談の多い債券投資について解説をしていきたいと思います。日本では新NISAが開始したことなどに伴い資産運用への関心が高まっており、書籍やYouTuberなどで様々な情報発信が行われています。

しかし、これらの中の多くはインデックスファンドへの積み立て投資を推奨するものであり、債券を活用したポートフォリオ(資産をどう分けて運用するかの組み合わせ)全体に関する内容は少ない印象です。インデックスファンドへの投資自体は非常に良いものでありますが、投資家としてリスクコントロールをするときに債券は無視してはいけない資産であると考えます。
そもそも債券って何?

債券とは、簡単に言うと「お金を貸して、そのお礼として利子をもらう仕組み」の投資です。国や企業にお金を貸す代わりに、一定期間ごとに利子を受け取り、満期になれば元本が返ってきます。

つまり債券は、基本的には借用証書の一種であり、政府や企業が資金を調達するために発行する証券です。そして債券には色々な種類があり、発行者の業態の違いで分類すると以下のようになります。

国債
国が発行する債券です。
地方債
都道府県、市町村などの地方公共団体が発行する債券です。
社債
民間企業が発行する債券です。

債券投資のメリットは?

では、実際に債券を資産運用に組み込むことのメリットはどのようなものがあるのでしょうか?
リスク分散(資産配分)

債券は株式とは異なる値動きを示すことが多いため、ポートフォリオに債券を加えることでリスクを分散し、市場の変動に対する全体的な影響を減少させることができます。
安定した収入源

一般的な債券は定期的に利子(クーポン)が支払われるため、投資家は比較的予測可能で安定した収入を得ることができます。
安全性

債券は一般的にあらかじめ満期が決められていて、満期がくると元本が返済されることが発行体の信用力において約束されているため、信用力の高い発行体が発行する債券は、元本の安全性が高い傾向にあります。これはリスク許容度が低い投資家にとって魅力的です。
インフレ対策

一部の債券、例えばインフレ連動債(TIPSなど)は発行日を基準としたインフレ率の変動に応じて元本が調整されるため、インフレの影響を緩和することができます。

投資は将来の不確実性との戦いです。株式のみに依存するポートフォリオは、市場の波に大きく左右される可能性があります。しかし、債券を組み込むことでリスクを分散し、安定性を高めることができます。

ただし、債券投資にもリスクが伴います。金利が上昇すると債券の価格は下落しますが、特に長期債券は市場の金利変動に敏感です。また、発行体の信用リスクやデフォルト(債務不履行)のリスクも考慮する必要があります。そのため、投資家は自身のリスク許容度、投資目標、そして市場の状況を考慮して、適切な債券を選択することが重要です。債券の銘柄選びには様々な注意点等もあるため、こちらについて次ページにて説明いたします。
債券を組み込んだ代表的なポートフォリオ事例は?

では、債券を組み込んだポートフォリオ事例にはどのようなものがあるのでしょうか?今回は年金積立金管理運用独立行政法人(通称:GPIF)のポートフォリオを紹介いたします※1。

※1: 年金積立金管理運用独立行政法人のHPはこちら

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、私たちの年金を運用している公的機関です。実はこのGPIF、株式だけでなく、債券も約半分組み合わせて資産を運用しており、安定したリターンを出しています。

そして、GPIFはこれまで現役世代が納めた年金保険料のうち、年金の支払いなどに充てられなかったお金を年金積立金として預かり、将来世代のために運用しています。2023年9月末におけるGPIFの年金積立金は223.8兆円あります。そのうち国内株式と外国株式の資産額はそれぞれ54.9兆円、55.3兆円となっております。全体に対する比率としては24.52%、24.72%となっております。

残りの資産は国内債券と外国債券に投資されており、それぞれ59.4兆円、54.1兆円となっています。それぞれの比率は26.56%、24.19%となっており、大体株式と債券で半分ずつの資産割合となっております。

このようなポートフォリオにおいて市場運用開始以降(2001年度~2023年度第2四半期)の収益率は+3.91%(年率)となっており、累積収益額は+126兆6,826億円となっています。

GPIFは私たち国民の年金を長期的に運用しています。長期的な運用においては、短期的な市場の動向によって資産構成割合を変更するよりも、基本となる資産構成割合を決めて長期間維持していくほうが、効率的で良い結果をもたらすことが知られています。皆さんは市場の短期的な値動きに一喜一憂して売買などはしていませんでしょうか?

このため、公的年金運用では、各資産の期待収益率やリスクなどを考慮したうえで、積立金の基本となる資産構成割合(基本ポートフォリオ)を定めています。この基本的なポートフォリオは国内債券・外国債券・国内株式・外国株式をそれぞれ25%ずつ保有して、乖離許容幅を設定しています。

乖離許容幅とは基本ポートフォリオをベースとしながらも、合理的に無理のない範囲で機動的な運用を可能とする仕組みが不可欠であり、GPIFでは基本ポートフォリオからの乖離を許容する範囲を定めているものです。

さて、この記事をお読みいただいている皆さんの基本ポートフォリオはどのようになっていますでしょうか? 株式だけで運用などを行っている方も多いのではないでしょうか?

ご自身のライフステージなども加味しながら、GPIFの運用を参考にご自身の基本ポートフォリオを構築してみることが今後長期的に運用する中においては重要であると考えます。

次のページでは、実際に債券を選んでいく際に注意すべきことなどについて解説をしていきます!


前のページでは、債券を組み合わせたポートフォリオ運用のことについて書きました。では、債券運用を行う際に気をつけるべきことは何でしょうか?今回のコラムでは債券運用のリスク・注意するポイントについて説明いたします。
債券運用におけるリスク

このページでは債券投資にかかるリスクと、個人投資家としてポートフォリオ構築を行う際に債券を組み入れる際に注意すべきことという観点で説明をしていきます。

まず債券運用におけるリスクには以下のようなことがあげられます。
信用リスク(お金を返してもらえないかもしれないリスク)

債券を出している国や会社である発行体は、資金調達のために債券を発行します。その見返りとして利子を支払い、満期には元本を返還します。発行体の財務状況が脆弱であった場合に、期中の利子が支払われなかったり、満期時に元本が返ってこなかったりするリスクがあります。そのため、債券を選ぶときにはその発行体の財務諸表等を確認し、利払いやお金を返してもらうことを問題なく行える状況にあるかをチェックすることが大切です。

債券を購入する場合に参考にされることが多いのが「格付」です。「格付」は、民間の格付け会社が、発行体の財務内容等を評価し、ランク付けした意見です。このため、同じ債券であっても格付け会社によって評価が異なることがあります。格付けの例としては、以下のような図になります。一般的に格付けの高い債券ほど利回りは低くなり、格付けの低い債券ほど利回りは高くなります。そのため、利回りが高い債券が運用上必ず良いという訳ではありませんので、銘柄選びの際はご注意ください。

価格変動リスク(買ったあとで値下がりするかも?)

債券の価格も満期までの期間、発行体の信用力の変化、市場の金利の影響により変動します。一般的に金利が上昇すると既存の債券の価値は低下して、金利が低下すると既存の債券単価は上昇します。

例えば、100円で発行された債券で金利が年5%だったとします。そうすると年間5円の利子が支払われます。そういった中で世の中の金利が年10%に上がった場合、既に発行されている債券も同水準の利回りになるように市場で取引される債券の価格が下落します。年間5円の利子で年10%の利回りとなる債券価格は50円になります。このような仕組みにより、金利が上がる局面では債券価格が下落することになります。もちろん債券は満期まで保有すれば原則として元本が返ってくることになりますが、金利動向や発行体の信用力の変化によって運用期間中の価格変動リスクを負うことになります。
為替変動リスク(外国の債券は円との交換で損をすることも)

金利の低い日本と比較した際に相対的に高金利のドルやユーロなどで運用される債券に魅力を感じる方も多いのですが、外貨建て債券を購入する際には為替レートの変動によって円で換算した時の受取額が変動する為替変動リスクが発生します。なお、円金利と外貨の金利の差が拡大すると当該外貨高円安になり、縮小すると当該外貨安円高になる傾向があるとされています。
流動性リスク(売りたいときに売れないことも)

流動性リスクとは売買活動が極端に少なくなることで取引が成立せずに、希望した価格で売れないリスクのことをいいます。例えば、発行体の信用リスクが顕在化したときや天災などが発生したことで市場での取引が行われなくなってしまうような時に発生します。国債などの流動性が高い債券であれば市場で取引されている価格で希望するある程度まとまった量の取引が可能ですが、そうではない債券では市場実勢から見込まれる価格で売買ができなかったり、売りたいときに買い手が現れなかったりするリスクも考慮しておく必要があります。
カントリーリスク(その国の情勢に影響される)

国全体の経済や政治の不安定性のことをカントリーリスクと言います。外国債券の場合、発行体の国や地域の経済・政治環境の変化に起因する影響も考慮しなければなりません。

新興国の政治・経済・社会情勢は、先進国と比較して大きく変動する場合があり、政治不安、経済不況等が債券の価格や為替市場に大きな影響を与えることがあります。また、例えば、ウクライナへのロシアの侵攻、ガザでの戦闘などによって債券の元利金の国外送金が制限されたり、不可能となったりするといったようなこともあります。
個人が債券投資を行う際に気を付けたいこと

では次に、個人が債券投資を行う際に気を付けたいポイントについて説明します。
取引金額が大きい

1万円から投資できる個人向け国債や地方債、10万円から投資できる社債もありますが、一般的に債券の最低投資金額は投資信託や株式と比較して高くなっています。そのため一つの銘柄に投資をする際にある程度のまとまった資金が必要になります。結果として集中投資が行われることとなりポートフォリオの多様化が難しくなるリスクもあります。

ただし、個人がポートフォリオを検討する際には株式投資でインデックスファンドへの投資を中心に置くのと同じように債券運用においてもベーシックな債券を中心としたポートフォリオ構成が良いと考えられるため、そこまで多様な債券を数多く持つ必要はないと考えます。
債券の種類によっては思わぬリスクを抱えることになる

債券にはさまざまな種類があります。債券投資を検討する際に高い金利の債券が目に留まることもあると思いますが、高い金利には理由が必ずあります。リスクとリターンの関係は表裏一体です。リスクを低く抑えようとするとリターンは低下し、高いリターンを得ようとするとリスクも高まります。リスクが低く、リターンが高い(ローリスク・ハイリターン)金融商品はありません。そのため、なぜその債券の金利はそんなに高いのか?ということを理解しないといけません。

発行通貨が同じ、満期までの期間も同じ債券が同時に別々の発行体によって発行される場合、発行体の信用力の違いによって利率が変わります。信用力の高い発行体の債券の利率は低く、信用力の劣る発行体の債券の利率は高くなります。

劣後債と呼ばれる債券もあります。こちらは万が一、債券の発行体が破綻するなどした場合の元本と利子の支払いの順位(弁済順位)が普通社債と比べて低い(劣後している)債券のことを言います。劣後債は弁済順位が低いことと引き換えに金利が高くなっていることを理解しなければ、万が一の時に予期せぬ損失を被ることになります。
債券投資にかかる税金について

債券投資にかかる税金についても説明いたします。債券投資を行った時に得られる利子・譲渡益・償還差益に対しては税率20.315%が課税されます。なお、利子は利子所得(確定申告をしないで源泉徴収だけで済ませる確定申告不要制度を選択可能)として、売却や償還によって得られた譲渡益や償還差益は上場株式等に係る譲渡所得として申告分離課税の対象となり、上場株式などの利子、配当金や譲渡損益との損益通算が認められています。また、確定申告により譲渡損失の繰越控除の適用を受けることができます。

『投資情報メディア』より、記事内容を一部変更して転載。

中村 仁 なかむら じん 株式会社400F 代表取締役社長CEO、一般社団法人日本金融サービス仲介業協会 代表理事会長、日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA) 2005年野村證券入社。水戸支店で勤務後、2008年より2年間野村資本市場研究所ニューヨーク事務所にて米国リテール金融の調査に従事。帰国後、マーケティング部・営業企画部にて野村證券リテール部門の営業戦略の立案・企画・推進を担当。その後野村證券京都支店ウェルスマネジメント課にて上場企業オーナーを中心とした約2,000億円を担当する富裕層ビジネスに従事。2016年、ロボアドバイザーTHEOを提供するお金のデザインに入社。2017年、代表取締役社長に就任。総額100億円以上の資金調達やNTTドコモや地域金融機関20社以上との業務提携などを主導。2020年7月オカネコ(旧お金の健康診断)を提供する子会社400Fを個人にてMBOして独立。2021年5月一般社団法人日本金融サービス仲介業協会代表理事会長に就任。 最新の投資情報を発信する『投資情報メディア』のレポート・コラムなどで債券などに関する情報提供を行う。 この著者の記事一覧はこちら

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