生活保護の引き下げは「違法」東京高裁 受給者らの訴え認めるも“賠償金”はなし…判断は最高裁へ

「勝訴」――。そう力強く書かれた白地の旗を弁護士らが掲げると、東京高裁前を埋めたおよそ100人の原告と支援者から一斉に歓声が上がった。
生活保護引き下げの憲法違反を訴え、全国規模で展開されている「いのちとりで裁判」。さいたま訴訟(一審さいたま地裁、原告21人)の控訴審判決が3月28日、東京高裁で言い渡され、一審と同様、引き下げ処分を取り消す判決を行った。
東京高裁での判決は、同じく引き下げ処分を取り消した前日27日の東京訴訟(一審東京地裁)に続く2件目。今後、6月末までに広島、福岡、名古屋と高裁の判断が5件続き、さらに“戦い”の場は最高裁へと移される。(榎園哲哉)
引き下げ処分取り消し求める“10年の戦い”精神疾患をはじめとする疾病などで働きたくても働けない。そうした人たちにとって、まさに“いのちのとりで”と呼べる生活保護制度。その被保護実人員数(保護を受けた人員と保護停止中の人員合算)は200万人にも上る。
しかし国は、生活保護のうちの食費など生活に直結する「生活扶助費」計670億円を、2013年8月から2015年4月まで3度にわたって削減した。受給額は受給者平均6.5%、最大で10%引き下げられた。
この背景には、2012年12月の衆議院議員総選挙にあたって、自民党が「生活保護給付水準の10%引き下げ」を掲げていたことがあったとの指摘もある。
およそ1000人の原告は、引き下げが国民の「生存権」を定める憲法25条(※)に違反しているとして、2020年6月の名古屋地裁を皮切りに全国29の地方裁判所で提訴した(高裁を含めた6月末までの裁判数は45)。
※憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」
一連の裁判では、地裁で原告が19勝11敗と大きく勝ち越している。原告代理人・小林哲彦弁護士らによると、この勝率は、行政に追随する判決が多い行政訴訟においては「前代未聞」だといい、現時点で高裁でも6勝4敗と勝ち越している。
物価高騰時を起点とした「デフレ調整」で「勝つ」厚労省が生活扶助基準額引き下げの根拠とした「ゆがみ調整」と「デフレ調整」。一審に続き、控訴審でもこの二つが大きな争点となった。
このうち、生活保護を受給していない低所得者世帯の消費水準に支給額を合わせる「ゆがみ調整」は、目安となる低所得者世帯の消費水準指数が実際の半分(2分の1処理)にされていた。
一方の「デフレ調整」は、2008~2011年の3年間に物価が下がっていることを理由に、一律4.8%の減額を行った調整で、原油高で一時的に高騰した2008年を算出の起点(それ以降の年は下がる率が高くなる)としたことをそれぞれ問題視。。原告らは、引き下げの根拠にならないと訴えていた。
さいたま訴訟の一審(さいたま地裁)では、「ゆがみ調整」が違法だとして引き下げの無効を認めたが、「デフレ調整」の違法性については認めなかった。しかし、控訴審(東京高裁)では一審判決と異なる判断がなされたとして、原告代理人の古城英俊弁護士は判決後に開かれた記者会見でこう説明した。
「(ゆがみ調整の)2分の1処理については国(厚労大臣)の裁量権の範囲内とし、デフレ調整については裁量権の逸脱、濫用があったとした。一審とは逆にデフレ調整で(裁判に)勝った」
同・小林哲彦弁護士は、これまで地裁、高裁で勝訴している裁判の多くが「デフレ調整」を根拠としていることに触れ、東京高裁の判決に対しても「全国の裁判の勝訴判決の趨勢(すうせい)を左右する重要な判決」と評価した。
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判決後に記者会見に臨んだ原告代表と弁護士ら(3月28日 都内/榎園哲哉)

国家賠償請求は一審に続いて認められず一方、憲法25条が保証する「健康で文化的な最低限度の生活」に満たない生活を強いられ、精神的苦痛を被ったとして原告(21人)1人あたり1万円の支払いを求めていた国家賠償請求は、一審に続き控訴審でも認められなかった。
原告や支援者らおよそ100人が埋めた判決後の報告集会では、国家賠償請求を求める引き続きの“戦い”への思いも語られた。
一連の裁判を支援する全国組織「いのちのとりで裁判全国アクション」事務局の田川英信さんは、「(支給しないよう)水際作戦を行っている所(自治体等)はいっぱいある。一生懸命に頑張っている職員もいるが、一部の心無い職員が生活困窮者を追い返している。何とかこの状況を変えたい。生活保護を受けることは国民の権利だ」と、言葉に力を込めた。
精神疾患のため、生活保護に頼る原告の佐藤晃一さんは、「(生活扶助費引き下げから)10年以上にわたって戦っている。これまでに亡くなった人もいる。(東京高裁の勝訴は)みんなの思いが届いたと思う」
一方、原告の女性は「私の暮らしは決して、健康的でも文化的でもない。それぞれ少しずつあきらめて生活している。今は受給していなくても、これから貧困に陥るかもしれない人たち、生活保護を受給するかもしれない人たちもいる。(最低限の生活を)皆さんも一緒に考え、あるべきことを追求していただければと思う」と国家賠償の必要性を訴えた。
さいたま訴訟を戦う原告団、弁護団は国家賠償を求めて最高裁への上告を決めている(日程等は未定)。また、大阪、名古屋両高裁判決を受けた最高裁への上告は、5月27日に弁論が開かれることが決まっている。
「生活」を勝ち取ることができるか。「いのちのとりで」を守る戦いは続く。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。

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