ドイツメディアが、F-35戦闘機にアメリカの判断で機能を停止できる「キルスイッチ」が仕掛けられている可能性があると報じました。こうした懸念は果たして本当なのでしょうか。
2025年3月8日、ドイツの大衆紙『ビルト』は、ドイツが導入を予定しているF-35戦闘機には、アメリカの判断で機能を停止できる「キルスイッチ」が仕掛けられている可能性があると報じました。この報道は瞬く間にヨーロッパの防衛関係者らに波紋を広げ、特にアメリカの軍事技術に依存する同盟国の関係性を揺るがすほどになりました。しかし、こうした懸念は果たして現実のものなのでしょうか。
米国の一存で戦闘力ゼロになるってマジ!? 独メディア「F-3…の画像はこちら >>飛行するイギリス空軍のF-35戦闘機(画像:イギリス国防省)。
結論からいえば、そのような機能は存在しません。では、なぜこのような疑念が生じたのでしょうか。
『ビルト』の報道が出る以前にも、F-35をめぐる「キルスイッチ」疑惑はたびたび浮上しています。特にスイスがF-35を次期戦闘機として選定した際、一部の関係者から「アメリカが意図的に機体性能を制限できるのではないか?」という懸念が示されていました。しかし、スイス政府は公式にこの疑問を否定しそのような機能は存在しないと明言しています。
この疑念が再燃した背景には、ウクライナにおけるロシアの侵略戦争と、それに伴う米欧関係の変化があります。特に2025年3月、トランプ米大統領がウクライナへの軍事支援を一時停止したことで、ウクライナ空軍のF-16運用が困難になる可能性が浮上しました。この事態を目の当たりにしたヨーロッパ諸国は、「アメリカが政治的判断で戦闘機の運用を制限できるのではないか?」という疑念を抱くに至ったと考えてよいでしょう。
F-35に物理的な「キルスイッチ」が搭載されているという証拠は一切存在しません。しかし、F-35が極めて高度なネットワークを基盤とする機体であることは事実で、これが疑念の根拠となっているとも言えます。
F-35はネットワーク化された後方支援システムによって管理され、運用データは常時アメリカ側のシステムと連携しています。これにより、機体の状態、兵站支援、整備情報が共有されることで、効率的な運用を可能にしています。しかし、仮にアメリカがこのネットワークから特定の国のF-35を切り離すような措置を取った場合、運用は著しく困難になる可能性があるのです。
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F-35戦闘機には「キルスイッチ」なるものは存在しないが、兵站システムがネットワーク化されており同様の機能を実現できる可能性がある(画像:アメリカ空軍)。
例えば、必要なソフトウェア・アップデートが提供されなかったり、整備データが取得できなくなったりすれば、F-35は短期間で機能不全に陥る可能性があります。これは物理的な「キルスイッチ」ではないものの、結果的には同じような影響を及ぼすことになると言えるでしょう。
ただし、これはF-35に限った話ではなく、現代のあらゆる先進的な兵器システムに共通する課題です。戦闘機だけでなく、ミサイル防衛システム、サイバー戦能力、電子戦システムなど、あらゆる軍事技術はネットワークを通じて連携し、依存する形で運用されています。したがって、「キルスイッチ」の問題をF-35固有のリスクとして捉えることはナンセンスだと言えます。
F-35に「キルスイッチ」が搭載されているという噂は、技術的・軍事的な誤解と、アメリカによるウクライナへの軍事支援停止を「ヨーロッパに対する裏切り」と受け取った西欧諸国が生んだ「幻」なのではないでしょうか。
今後、各国は過度な「アメリカ依存」のリスクを最小化するために、代替システムの構築や、独自の戦闘機開発により一層重点的に取り組む必要があると考える可能性があります。F-35の「キルスイッチ」疑惑は、単なる陰謀論として片付けるべきではなく、より大きな視点で「ネットワーク依存型軍事技術の脆弱性」を再考する契機となるべきなのかもしれません。