N国党の「名誉毀損」の訴え、二審・東京高裁も“棄却”…度重なる「敗訴」でも訴訟提訴が繰り返されてきた“理由”とは?

「NHKから国民を守る党」(立花孝志代表、以下「N国党」)がジャーナリストの「選挙ウォッチャーちだい」こと石渡智大氏(以下「ちだい氏」)を名誉毀損で訴えていた訴訟の控訴審で、東京高裁(鹿子木康(かのこぎ やすし)裁判長)は18日、N国党側の控訴を棄却する判決を言い渡した。
判決後の記者会見で、被告のちだい氏と代理人の石森雄一郎弁護士は、一審、控訴審の判決の意義について語った。
一審は「口頭弁論2回」のみで結審、原告敗訴N国党側の主張は、昨年7月に施行された東京都知事選挙でのN国党による選挙掲示板の使用につき、ちだい氏がSNSで同党を「反社会的カルト集団」などと論評したこと等が「名誉毀損」に該当するというもの。
一審においてちだい氏側は、N国党を「反社会的カルト集団」と評した根拠となる18の事実を主張した。これに対し、N国党側はそれらの事実関係を争わなかったため「裁判上の自白」(※)が成立し、口頭弁論は2回で結審、東京地裁は原告敗訴の判決を言い渡していた。
※相手方が証明責任を負う自己に不利益な事実を認めること、または争わないこと。裁判所の事実認定を拘束するとともに、自白した当事者がそれに反する主張をしても排斥される(民事訴訟法179条、159条1項参照)。
判決では、18の事実のうち17について「各行為等があったことが認められる」と認定された(残りの1つについては別の訴訟で「真実相当性」が認められている)。それを前提として、ちだい氏の表現について「公共の利害に関する事実」「目的の公益性」「真実性」が認められ、「意見あるいは論評としての域を逸脱したものではなく、違法性を欠く」とした。
控訴審で「現在のN国党とは“別の団体の時の出来事”」と主張N国党側は控訴したが、一審判決の事実認定については争わなかった。なぜなら、すでに一審で前述のとおり「裁判上の自白」が成立している以上、控訴審で一審判決の事実認定を争っても法律上排斥されるからである(民事訴訟法179条参照)。
その代わりに「補足的主張」として、以下の趣旨の主張を行った(判決文P2参照)。
「反社会的カルト集団」という表現は「事実の摘示」にあたる仮に「意見ないし論評」にあたるとしても、相当程度の年数を経過しており、出来事の大半は控訴人の前身である別の団体(政治団体または政党)の時のものなので、現在のN国党に対する「意見ないし論評」としての域を逸脱している控訴審は口頭弁論1回のみで結審し、東京高裁はこれらの主張をいずれも退けた。
控訴して争う姿勢を見せたのは「支持者向けのパフォーマンスにすぎない」ちだい氏の表現の適法性を基礎づける事実(評価根拠事実という)について、一審でN国党側が争わず「裁判上の自白」が成立していた以上、N国党が控訴しても事実認定を覆すのはほぼ不可能だった。
また、控訴審でN国党側が行った「前身の時の出来事」という主張も、判例・実務において「法人格否認の法理」(※)など実質を重視する判断枠組みが定着していることからすれば、同様の判断方法により排斥される可能性が高かったといわざるを得ない。
※法人格が形骸化している場合や濫用されている場合等に、法人とその背後の者(代表者・株主等)を一体として扱う法理(最高裁昭和44年(1969年)2月27日判決等)
控訴審ではN国党に代理人弁護士が付いており、上記の点はその弁護士からのアドバイス等により容易に予測できたとみられる。しかし、立花氏は一貫して控訴審で勝利する強い意欲と自信を見せていた。
この点について、ちだい氏は、「支持者向けの『パフォーマンス』にすぎない」と断じた。
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選挙ウォッチャーちだい(石渡智大)氏(3月18日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

ちだい氏:「今回の訴訟でも、裁判制度を理解している人が見ればN国党が敗訴濃厚なのは明らかだが、そうでない一般人には分からない。立花氏はそこに付け込もうとしている。
気に入らない相手に裁判を起こし、そのたびに『あいつが悪いんだ』と支持者にアピールする。また、控訴することによって、支持者に向け『勝つかもしれない、あいつが悪い』という印象操作ができてしまう。
N国党にとっては、相手の悪印象を植え付けるのが一番の狙いであり、裁判に勝つか負けるかは関係ないと考えられる」
「勝訴した」という誇張表現なお、立花氏はSNS等で、これまでにちだい氏に対する訴訟で「1勝した」と称し、それが一部で流布されている。ちだい氏はこの点についても、誇張が含まれていると指摘した。
ちだい氏:「(その元ネタと思われる訴訟において)立花氏はそもそも原告ですらなかった。
判決内容も、10本1320円のマガジン購読料の1本分の132円について返金しなさいという判決。しかも、その132円の返金を受けるのに原告には1000円近い手数料がかかる。これを『勝訴』と呼ぶのは自由だが、一般的に『勝訴』と表現する人はいないのではないか」
一般人、士業を巻き込んで「犯罪行為・不法行為」を助長ちだい氏の代理人を務める石森雄一郎弁護士は、ちだい氏の表現の適法性が認められたという一審判決・控訴審判決の結論以上に、それらの前提となった事実認定が重要だと説明した。

石森雄一郎弁護士(3月18日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

石森弁護士:「一審判決では、N国党が数々の不法行為を行い、そこに一般人を巻き込んで犯罪行為・不法行為を行わせたという事実を認定している。また、控訴審判決でも『不法行為や迷惑行為をサービスとして一般人に提供したり促したりしていた』と断じている(判決文P4)。
たとえば、『集金人おびき寄せ作戦』と称して、NHKの集金担当職員の容姿を撮影してインターネット上にさらす行為を一般人に対し推奨した。その結果、この行為に関わった一般市民が訴訟で330万円の損害賠償命令(※)を受けている(東京地裁令和3年(2021年)6月15日判決)。
その後、N国党は『請求書代理受領サービス』を顧問の司法書士や弁護士とともに展開した。これは、受信料を支払う意思がなくてもNHKと受信契約を行い、NHK受信料の請求を放置し、あとの対応を司法書士や弁護士に委任できるというサービス。とある動画では1万人以上からの依頼があったと報告している。
しかし、実際には司法書士らは何の対処もせず、結局、NHKから本人に払込用紙と督促状が自宅に送付された(【画像】参照)。
このように、N国党は一般市民を犯罪行為・不法行為に巻き込んで、あたかも政治活動かのように行ってきており、それがある種の求心力になっている。これからも一般市民が巻き込まれる可能性があり、彼らが何をしていくかは注意深く見てほしい」
※立花氏らと連帯して支払うこととされた(民法719条参照)

【画像】NHKから契約者本人に送付された督促書面の写し(石森弁護士提供)

「火元は小さなうちに断つべき」石森弁護士は、本判決の社会的意義について、次のように語った。
石森弁護士:「本件訴訟でのテーマとして、N国党による多方面の犯罪行為や違法行為をしっかり判決という形で記録することが目標だった。意義深い判決だ。
小さなうちに火元を断たないと大きな火事になってしまう。7月に予定されている参院選も含め、われわれは注意しなければならない。
捜査機関も、『政治活動の自由』に及び腰になるのではなく、人身攻撃となる名誉毀損にはっきりした態度を示すべきだ。そうしないのは間接的な支援と同じだ。
社会的危機があり、どう対応するか、マスコミにも警察にも問われている。及び腰になれば日本の秩序は大きく害される。『反社会的カルト集団』という表現ばかりがセンセーショナルに扱われるが、単なる1つの判決として流さないでほしい」

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