生活保護の引き下げは憲法に違反しているとして、全国規模で展開されている「いのちのとりで裁判全国アクション」。
2020年6月以来、全国の地方裁判所、高等裁判所で行われている合わせて45の裁判は、6月末までにすべての裁判所の判決が出そろう“終盤戦”を迎えている。
3月27、28日には一連の裁判の帰すうを左右する東京訴訟(一審東京地裁)、さいたま訴訟(同さいたま地裁)の判決がそれぞれ東京高裁で出される。
これを前に、さいたま訴訟を戦う弁護士らが17日、都内で会見を開き、改めて争点などを語った。
「行政訴訟では前代未聞」原告勝訴相次ぐ約201万人――。厚生労働省が2月に発表した生活保護の被保護実人員数(保護を受けた人員と保護停止中の人員の合算、昨年11月時点)だ。
病気などさまざまな事情で収入を得られない、あるいは収入が低い人たちにとって、生活保護は生きていくための“いのちのとりで”と言える。
生活保護のうち食費など生活費に該当する「生活扶助費」について、国は2013年8月から2015年4月まで3度にわたって総額670億円の削減を実施。受給者は、平均6.5%、最大10%の引き下げを強いられた。
この引き下げに対し、国民の生存権(※)に反していることを訴える違憲訴訟「いのちのとりで裁判全国アクション」が全国で開始された。
※憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」
およそ1000人の原告が全国29の地方裁判所で提訴。
2020年6月の名古屋地裁を皮切りとした裁判は、地裁レベルでは原告側19勝11敗、高裁レベルでは原告側3勝4敗(3月17日時点、東京高裁含め残り8判決が6月末までに出される予定)となっている。
これに対し埼玉弁護団の小林哲彦弁護士は、「地裁では圧勝、高裁でも拮抗(きっこう)した判断が出されている。一審で違法と判断した判決が多く出されているのは、行政訴訟としては前代未聞だ。日本では行政に追随する判決が多い中、これだけ違法判決が出ているということは、(引き下げ判断の)中身に問題があるのではないか」と指摘した。
引き下げは選挙公約に“忖度”したもの東京高裁判決を控えるさいたま訴訟も、原告勝訴の判決の一つだ。さいたま地裁では2023年3月に判決が出され、引き下げの取り消しが認められた。
一方、「健康で文化的な最低限度の生活」に満たない生活を強いられ、精神的苦痛を被ったとして国に対し原告(21人)1人あたり1万円の支払いを求めていた損害賠償は認められず、控訴した。
また、昨年2月の三重・津地裁判決では、ある見解も示された。
生活扶助費の引き下げが「(自民党の)選挙公約に忖度(そんたく)」したものであったと判断されたのだ。
2012年12月の衆議院議員総選挙にあたって、自民党は生活保護制度に対する国民の不公平感・不信感を背景に、「生活保護給付水準の10%引き下げ」などを掲げていた。
国の「引き下げ根拠」など争点厚労省が生活扶助基準額引き下げの根拠としているのが、「デフレ調整」と「ゆがみ調整」だ。
「デフレ調整」では、2008~2011年の3年間に物価が下がっていることを理由に一律4.8%の減額が行われた。
小林弁護士は、「デフレ調整が一番の問題。裁判の中心の争点と言っても過言ではない」と説明する。
その理由は、原油高で物価が一時的に高騰した2008年を算出の起点としたことで、「(それ以降の年は)下がる率が高くなるのが当然だ」(小林弁護士)。
また、「ゆがみ調整」とは、生活保護を受給していない低所得者世帯の消費水準に支給額を合わせようというもの。
しかし、実態は「低所得者世帯の水準の指数が半分(2分の1処理)にされていた」。このため、消費実態からかけ離れた金額の調整が行われていたという。
また基準を「一律」に引き下げたことについても原告側は、「要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮」することを定めた「生活保護法8条2項に反している」とも主張している。
引き下げられた3900円…「3日分の食材費にあたる」毎月8万円ほどの生活扶助費(単身世帯の場合)で暮らす生活保護受給者。
記者会見では、さいたま訴訟の原告の一人、佐藤晃一さんが改めて扶助基準引き下げの残酷さを訴えた。
「(生活扶助基準の引き下げで)生活費が1か月3900円も引き下げられた。私にとって3900円は、3日分の食材費にあたるとても大きなお金です」
東京高裁に続いて広島、福岡、名古屋各高裁でも判決が控えている。さらに、その後で予定される最高裁判所での判決に向けて「いのちのとりで裁判全国アクション」は4月3日、都内で決起大集会を開くとしている。