「無人機どっさり空母」の艦載機は“中東製!?” 「石油がいつ消えてもいいように」無人機メーカーに 産油国の凄み

アラブ首長国連邦のEDGEグループが、同国で開催された防衛装備展示会で新型の戦闘用無人航空機(UCAV)を発表しました。石油という巨大な経済面での武器があるにもかかわらず、同国が防衛産業に注力する理由とは一体何なのでしょうか。
UAE(アラブ首長国連邦)のEDGEグループは、2025年2月17日から21日までUAEの首都アブダビで開催された防衛装備展示会「IDEX2025」において、「戦闘用無人航空機(Unmanned Combat Air Vehicle:UCAV)」の「JENIAH」を発表しました。JENIAHは全長11m、主翼幅7mのジェット推進のUAS(無人航空機システム)です。志向速度は1000km/h以上で、最大480kgの精密誘導兵器や偵察機材などを搭載できます。
「無人機どっさり空母」の艦載機は“中東製!?” 「石油がいつ…の画像はこちら >> ブラジル海軍の空母「アトランティコ」(画像:ブラジル海軍)。
+ 現在、こうしたUCAVの研究開発は各国で進められています。オーストラリアとボーイングはJENIAHとほぼ同じ大きさのMQ-28「ゴーストバット」の初飛行にまで駒を進めており、すでにオーストラリア政府は13機を発注しています。
UAEは莫大なオイルマネーを武器に、アメリカ、ロシア、中国、ヨーロッパ諸国などから高性能兵器を買い集めてきました。このためUAE政府が望むのであれば、おそらくMQ-28は入手できるでしょうし、外交上の理由などでそれが不可能なのであれば、中国やロシアが開発を進めているUCAVを手に入れることもできたはずです。
にもかかわらず、JENIAHのような実用化へのハードルが高いUCAVの国内開発に取り組むのは、自国の軍隊が使用する兵器の海外依存度を下げて、将来的には兵器輸出国になろうとする強い意思を示したものと思われます。
筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は2015(平成27)年にUAEを初めて訪れました。当時からUAEは兵器の国内開発・生産に積極的に取り組んでいましたが、政府系企業の乱立により、複数の企業が同種の兵器開発を行うなど、お世辞にも上手くいっているとは言えませんでした。
UAEもこの問題点は把握していたようで、2019(令和元)年に乱立していた防衛企業の整理・再編を行いました。その結果誕生したのがEDGEグループというわけです。
EDGEグループは日本での知名度こそ高くはありませんが、トルコのバイカル・テクノロジーが開発し、ウクライナ軍がロシアとの戦いで使用して一躍有名になった「バイラクタルTB2」に匹敵するUAS「Reach-S」や、徘徊型弾薬(自爆ドローン)の「SHADOW5-TJ」などのUASを市場に送り出しています。
これらのUASの主な顧客はUAE軍ですが、国外からの受注も獲得しており、その取引規模は数十億ドルに達しています。
ブラジル海軍が進める多用途空母「アトランティコ」にUASを搭載する構想にも、EDGEグループが関わっています。ブラジル海軍は2025年2月から、国内企業のステラ・テクノロギアが開発した偵察用UAS「アルバトロス」を艦載機とするための地上試験を開始していますが、攻撃能力も備えた本格的な艦載UASは、EDGEグループと共同開発することが決まっているのです。
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防衛装備展示会「IDEX2019」で展示されたUAEの国産USVの実大モックアップ(竹内修撮影)。
EDGEグループ公式WebサイトのJENIAHの紹介ページには、同機が洋上作戦能力を持つと記載されており、同機をベースにした艦載UASが「アトランティコ」の艦載機になるのかもしれません。
ブラジル国内には前に述べたステラ・テクノロギアのようなUASメーカーや、UCAVの開発構想を持つエンブラエルのような航空機メーカーがあるにもかかわらず、ブラジル海軍が艦載UASの開発パートナーにEDGEグループを選んだのは、同社の技術力を高く評価したことの証左でしょう。
EDGEグループは2024年に、陸上自衛隊も試験用に導入するUGV「テーミス」などを開発したエストニアのミルレム・ロボティクスに対し、株式の過半数を取得して事実上の親会社となっています。株式買収によるシナジー(相乗)が現れてくれば、EDGEグループはUGVメーカーとしての存在感も今後増していくと考えられます。
筆者が初めてUAEを訪れた2015(平成27)年の時点から、UAEの造船メーカーはUSV(無人水上艇)の開発にも積極的に取り組んでいました。当時のUAE造船メーカーには中小企業が多く、開発資金や営業力に限界がありましたが、業界再編によりそれらの多くはEDGEグループの一員となったため、今後はスケールメリットを活かして、USVの分野でも強みを見せてくる可能性もあります。
同グループはイタリアの造船メーカーであるフィンカンティエリや、スペインの総合防衛企業であるインドラと合弁企業を設立しており、NATO(北大西洋条約機構)非加盟国向けの艦艇やレーダーの開発・製造にも乗り出しています。
真偽のほどは定かではありませんが、アブダビ市街地の地下には現在のペースで生産しても50年以上は枯れることがないという手つかずの油田が眠っているという話があります。
これはサウジアラビアやカタールなどにも言えることなのですが、これほど天然資源に恵まれているにもかかわらず、いつの日か原油という経済上の強力な武器が尽きたときに備えて重工業国へと脱皮して自国と自民族の生き残りを図り、そのための有効な手段として兵器産業に投資していく……というはるかな未来を見据えた戦略には、うならされるものがあります。

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