多くの人は、詐欺被害にあった人に対し、「なぜ怪しまなかったんだ」ととがめてしまうだろう。だが、詐欺師の「ワナ」は怪しまれることは百も承知で、そのうえを突いてくる。
本当に騙される人はスキだらけなのか…。身をもって詐欺を体験するなど、その実態を熟知するルポライターの多田文明氏が、実際の詐欺事案を提示しながら、その周到な手口を解説する。
※ この記事は悪質商法コラムニスト・多田文明氏の書籍『最新の手口から紐解く 詐欺師の「罠」の見抜き方 悪党に騙されない40の心得』(CLAP)より一部抜粋・再構成しています。
知人の親の被害でみえた詐欺Gの恐ろしさ「詐欺などの騙しの手口に対しては、点でとらえず、線でとらえることが重要だ」。そう強く感じたのは、知人の親が詐欺被害にあった事件がきっかけだった。
70代の高齢の父親のもとに、息子を騙る男から、「オレだけど、電話番号が変わった」と電話がかかってきた。その後、再び電話があり、「会社の金を使いこんでしまったので、今日中にお金を埋め合わせなければならない」という。
この緊急事態に慌てた父親は、すぐにお金を引き下ろすために、郵便局へ向かった。郵便局側は、普段行わない男性の高額な引き出しと慌てた様子を見て、「これは、振り込め詐欺ではないですか」と声掛けした。
すると、男性は怒り出す。
「何をいっているんだ! そうじゃない。自分の姉の治療費と今後の葬式代で必要なんだ!」。とにかく、「早く金を引き出したい」の一点張りだ。
なぜここまで頑ななのか。実は詐欺を行う側も、金融機関からお金の引き下ろしを止められることを想定しており、男性に対して金が必要な本当の理由は口にしないよう指示し、さらに葬式代と話すよう伝えていたのだ。
局員は必死に止めたが、男性は一向に話を受け入れない。結局、お金を下ろしてしまった。
残念ながら、得てしてこのような展開になることが多い。いくら忠告しても、「俺が騙されるわけがないだろう!」とだまされている側は強い口調で対応し、相手の諫言をはねのけてしまう。
「自分は絶対に詐欺に騙されない」。詐欺師にとって、そう思ってもらうほど都合のいいことはない。
その後、男は駅前に呼び出され、息子の代理と名乗る人物に200万円を渡すことになった。
それから3日ほどたち、本当の息子のもとに、父親から電話がかかってきた。おそらく、すでに詐欺犯の電話が通じなかったため、以前の番号に電話をしたのだろう。
「おい! こんなに大変な思いをして、お金を渡したのにお礼の電話もしてこないとはなんだ!」。父親は電話の向こうで憤る。当然、息子にはなんのことかさっぱりわからない。
全ては詐欺の仕業だったことがこの電話で発覚した。これが顛末だ。
詐欺は点ではなく、線でとらえることが必要。そう感じさせたのはこの4か月前の出来事だ。時間軸を遡ってみると、そのとき、次のようなことがあった。
打たれていた布石早朝、私のもとに知人から電話がかかってきた。何やら、少し慌てた様子である。
「父親が、勝手にリフォーム工事の契約をしてしまったんだ」
話を詳しく聞いた。
「近くで工事をしているのでご挨拶にきました」。知人の父親宅を、リフォーム業者が訪れてきたという。
「ついでながら、外から屋根を見たところ、問題があるようです。調べたいのですが、よろしいでしょうか?」
長年、住んでいる家だ。どこかにガタはきているだろうと認識している。タダで見てくれるというので、深く考えず「お願いします」と答えた。
業者は屋根に上がり、降りてきて、「屋根はこんな感じになっています」と、父親に割れた瓦を見せた。驚く父親に、「このままだと、雨漏りがするので、大変なことになりますよ」と業者は畳みかける。
「家に不具合があるのは困る」と不安になった男性に、業者は修理費用として、150万円ほどの見積書を提示してきた。父親はその金額で契約をした。
後日、たまたま家を訪れた息子がこの高額なリフォーム契約に気づいた。そして、私に相談の電話をしてきたのだ。
運良く、その日が、ちょうど契約から8日目だった。そこで私は、「無条件での契約解除ができる」と伝えた。知人男性はすぐにクーリング・オフの書面を出し、さらに業者に連絡して、契約解除を了承してもらった。
後日、念のため別の業者に屋根を調べてもらったところ、特に問題はなかったという。
こうして、息子は高齢の親が契約した悪質リフォームを阻止した。ところが、実はこの危機を回避した数か月後、振り込め詐欺の電話がかかってきて、結局、被害に遭ってしまった…。
単に運が悪かったのか?いやそんなことはないはずだ。
あくまで推測だが、この状況から悪質リフォーム業者と詐欺集団との連動性を疑わざるをえない。高齢男性がリフォーム契約をした時、この業者は会社を設立して1年目。その翌年にはホームページは削除され、当時のビルにはもう業者も存在していない。
悪質商法として十分にお金を取れなかった。そのため、会社自体が詐欺グループに変貌し、詐欺に及んだ。あるいは、悪質リフォームで契約した際の情報を詐欺犯たちに譲り渡した可能性も十分に考えられる。
つまり、数か月前のリフォームトラブルと冒頭の詐欺事案は、決して点と点ではなく、線でつながっていたと考えられる。
詐欺・悪質商法には常に「続編」がある実は、多くの詐欺被害は、今回のように、「トラブルを回避できた」と、安心しているところに再び騙しの魔の手が伸びてくることがある。
人は、安心してしまうと、警戒心を緩めがちになる。そのスキを詐欺師たちはわかっており、抜かりなくついてくるのだ。
おそらく、高齢男性もその息子も、一度は被害を免れたことで、ホッとしたことだろう。「まさか続けざまに詐欺などないだろう」と高をくくっていたのかもしれない。
そんな心の隙間を突かれたといっていい。 詐欺や悪質商法には、常に続編がある。そのことを肝に銘じておく必要がある 詐欺師たちは、「緊張からの緩み」を巧みに利用するのだ。
詐欺被害に遭った人は、「もう二度と騙されないぞ」と気を引き締める。だが、緊張した状態は長くは続かない。数か月もすると、しだいに緊張感は薄れ、心が緩んでしまう。
一方、詐欺師は、常にさまざまな業者を装い、電話をかけたり、訪問するなどのアプローチを繰り返しながら、相手の心の緩みの状態をチェックしている。そして「今がタイミング」と思ったその時点で、詐欺などの騙しを決行する。
ところで、親子が振りこめ詐欺の被害にあった後はどうだったのか。
息子さんによると、やはり親の元には、その後も怪しい電話がかかってきているという。親が書いたと思われる、マイナンバー再発行、印鑑証明書、保険証のコピーなどの走り書きのメモも見つかっており、さまざまな詐欺行為のアプローチが図られている形跡がみられるそうだ。
詐欺グループに目をつけられているのは明なことから、被害者の息子さんは<振り込め詐欺の対策電話をつける><玄関先に防犯カメラを設置して、怪しい人が入ってくれば、自分のスマホで見られるような機能も設置>するなどして、日頃から詐欺・悪質商法対策をしているという。
現代の詐欺を防ぐには、まず騙しの前兆に気づくことが肝要だ。もし本人が気づけない状況なら、周りが気付いてあげるより他はない。
いかに被害に遭わないよう目を配れるか。そして、本人のみならず、周りの人たちも「心のゆるみ」の状況を排除できるかが、被害軽減のカギとなる。