関東バスと奈良交通が共同運行する、夜行高速バス「ドリームスリーパー東京・大阪奈良」号。扉付き個室を備えた、国内最高峰の豪華バスです。ただし、奈良発着となったのは2022年から。利用実態はどのようなものでしょうか。
高速バスの豪華設備のなかで頂点に立つのが、1人掛け座席+通路+1人掛け座席の配置でしょう。いわゆる1+1列設備です。そのうち扉付きの「個室バス」となっているのは、昼行の全但バス「ラグリア」号、夜行の「ドリームスリーパー東京・大阪奈良」号のみです。
個室バス運転はベテランが担当!? 奈良発着になった「ドリーム…の画像はこちら >>2025年2月現在は関東バスと奈良交通が運行する「ドリームスリーパー東京・大阪奈良」号(安藤昌季撮影)
夜行高速バス「ドリームスリーパー」は2012(平成24)年、横浜~広島間で運行を開始しました。この時は半個室で、車体の前半と後半で個室サイズがやや違うという仕様でした。ウリは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の理論に着想を得た「ゼログラビティシート」で、腰部分がV字型に凹んだところに収まり、足が水平に伸ばせるというもの。筆者(安藤昌季:乗りものライター)は座席鉄として感動しました。
そして2017(平成29)年より、扉付きの完全個室を備えた「ドリームスリーパー東京大阪」号が運行を開始します。運転席側にモニター、個室内にカメラを設けることで、緊急時は個室内の様子を運転士が確認できるようにしたことで、個室化を実現できたのです。
わずか11席しかなく、「運行開始から通年でもほぼ満席」(関東バスの乗務員)という人気を博しましたが、新型コロナの感染が拡大した2020年に運行休止に。ちなみに、東京(横浜から変更)~広島線は現在も運休しています。
東京~大阪線は運行を再開しましたが、毎日運行から、新宿発は金曜日のみ、奈良発は土曜日のみと縮小されています。2022年より、池袋駅西口~新宿駅西口~難波~大阪駅前~門真車庫間から、バスタ新宿~難波~大阪駅前~大和西大寺駅南口~JR奈良駅東口間へ変更されました。
インバウンド需要の増大と宿泊費高騰で、夜行バス利用が増えているとの報道がありますが、「ドリームスリーパー」はどうでしょうか。筆者は2025年2月、JR奈良駅から乗車しました。
奈良駅東口に「ドリームスリーパー」が回送されてきたのは、発車15分前の21時20分。周囲は繁華街なので、飲み屋やコンビニは営業しています。
Large figure2 gallery65
JR奈良駅東口(安藤昌季撮影)
JRの2階建てバスが先にいたため、4番のりばにバスが停車したのは21時25分。カートを引いた女性客など、4人がバスを待っていました。乗務員がトランクを開け、大型荷物を引き受けます。以前乗車した際に、個室内には荷物置き場が少ないことを知っていたので、筆者も荷物を預けました。
入口には「ウェルカムアロマ」とかわいい人形が設置され、乗務員が乗客を出迎えます。乗車日はバレンタインデーが近かったため、チョコレートがサービスされました。高級感とはこうした「人によるおもてなし」が生み出すのだと感心する瞬間です。
スリッパに履き替え絨毯を踏む体験はホテルの一室のようです。今回は車体の中央部に位置するA3個室を予約しました。乗り心地に優れるうえ対面にトイレがあるからです。
乗務員が設備の説明のためにやって来ました。オススメの個室はあるのか尋ねると、「少しだけですが、個室内の広さが異なります。A1、B1個室は足元がやや広く、窓枠がないので、景色が見やすいです。B3個室も足元がやや広い個室ですね。B5個室は非常口があるため、景色がやや見にくいのですが、洗面所が近い利点があります」とのことでした。
「景色が見やすい」「洗面所がある」というのは、一般の夜行バスにはない利点です。夜行バスは遮光のためにカーテンが閉まっていますが、「ドリームスリーパー」は完全個室のため、カーテンや照明を乗客が自身の好みで自由にできるのです。
Large figure3 gallery66
車内の様子(安藤昌季撮影)
また、トイレとは別に洗面所があるのも特徴です。アメニティグッズに歯ブラシセットがあるので、寝る前に歯を磨けるのは大きなメリットです。洗面所は安全のため、折りたたみ椅子を展開しないと電気が付かない構造。中は清潔で、ティッシュ、ペーパータオル、紙コップも備わります。
発車後、A3個室を計測すると、長さは1.65m、幅は90.5cm、折り畳みテーブルの横幅は35.5cm、奥行は46.3cm(滑り止めの縁があるので、有効幅は横31.4cm、奥行きが38cm)。座席上の荷物置き場は、幅29cm、奥行63cm、側窓横のテーブル幅は13cm、側窓は縦96cm、横1.65mでした。
「ゼログラビティシート」は、座席幅56.7cm、背もたれ高さ75cm、肘掛け幅が6cm。西陣織の座席表面は質感とクッション性がよく、枕も柔らかくて筆者の好みです。座席をリクライニングさせ、レッグレストを最大まで上げると、つま先が壁面に少し干渉するので、角度をやや下げました。以前乗車したB1個室では体感できなかったので、「これが乗務員の話す少しの広さの差か」と思い至りました。
座り心地ですが、腰が収まり足を水平近くに伸ばせる点は、この座席最大の特徴でユニーク。ただ長時間乗車すると、腰が動かずに位置を変えにくいので、疲れやすくなります。網棚の上にルームウェアと予備毛布があるので、毛布を腰の下に入れ凹みを小さくすることで、個人的には寝やすくなりました。
アメニティグッズが豊富なのも「ドリームスリーパー」の魅力でしょう。ミネラルウォーター、スピーカーカバー、温かい香り付きのアイマスク、ウェットタオル、フェイスマスク、耳栓が備わります。
Large figure4 gallery67
充実したアメニティ類(安藤昌季撮影)
21時52分、大和西大寺駅南口で1人が乗車。半数が奈良県からの乗車ですが、「普段は難波や大阪駅からが多い」(乗務員)そうです。
22時43分、南海なんば高速バスターミナルから3人、23時8分には大阪駅前桜橋口から3人が乗車し、バスは満席になりました。隣の個室からせき込む音が聞こえますが、壁で隔離されているため、感染の恐れなどないのが個室バスの良さ。加えて空気清浄機もあります。
日付が変わった午前0時20分に草津パーキングエリアで休憩がありましたが、誰も降りません。乗り心地はよく、筆者は安眠できました。運転のコツについて乗務員は、「扉付きの個室もあるので、扉が空いたりしないように気を遣います。アクセルもブレーキもゆっくり踏むようにしていますし、基本的にはベテランが運転しています」とのことです。
6時40分、バスタ新宿に到着。9時間5分の乗車でしたが、疲れも残らない快適な一夜でした。事情はあるのでしょうが、毎日運行に戻ってほしいと筆者は願っています。