北海道せき損センター“移転”計画に「突然のこと」地元美唄市は困惑も…年度内に方向性まとまる?

脊髄損傷に対する手術治療や、最先端の脊損医療を行う医療施設「北海道せき損センター」(北海道美唄市、以下センター)の移転構想をめぐり、議論が進んでいる。
センターが移転する理由とはセンターは、元は炭鉱災害などの脊髄損傷や骨折、頸椎(けいつい)損傷などの治療を中心とした美唄労災病院として1955年に開設された。
変遷を経て2016年に現名称となり、労働者健康安全機構(川崎市)が総合せき損センター(福岡県飯塚市)とともに運営。整形外科や泌尿器科、脳神経外科などと連携して専門的な医療を提供している。移転計画は後述する理由のため、2023年ごろに表面化した。
本稿記者がセンターの担当者に取材したところ、移転計画の主な理由について以下のような回答を得た。
(1)冬期間は雪の影響でドクターヘリを飛ばすことができないこともある。時には受け入れを断念せざるを得ず、患者搬送ができない頻度が多いため
(2)重篤な合併症、患者の搬送先となる砂川市立病院・岩見沢市立総合病院には車で30分ほどかかり、距離があること
(3)再生医療を行うために連携が必要な北海道大学病院(札幌市)などから遠いこと
病院・センターの開設からは70年ほどがたっており、建物の老朽化も進行しているという。本稿記者が現地に行き見た限りでは、たしかにセンターの建物はボロボロだったように感じられた。移転には耐震性など、患者そして職員の安全確保の観点から、早急な建て替えが必要になっていることも背景にあるのだ。
市「突然、移転の話をされても」と困惑この移転構想に対し、美唄市はどのような姿勢なのか。
取材に応じた美唄市の担当者によると、23年にセンターの院長が美唄市役所を訪問。「センターを札幌市に移転するため、24年度中に移転に関する方向性を確定させ、具体策の協議を早急に進めていきたい」と説明を受けたという。
そのうえで、担当者は困惑した口調で話す。
「具体的な話が出たのは突然のこと。センターを建て替える考えがあることは聞いていた。しかし、美唄市外に移転するとの話には驚いた。市にとってはセンターがあって成り立っている地域医療だと考えており、移転の話を突然されても困る」
市によると、センターの院長が美唄市役所を訪問する2年前、老朽化のため建て替えを計画していた市立美唄病院の計画を取りまとめることになったという。その際、センターは存続することが前提だったため、当時の美唄市長が機構を訪問。センターの存続に関する要望書を提出し、①新しい病院の建設状況についての進捗説明、②センターの建て替えを検討する際の現地建て替え、を要望している。
市の担当者は、市民が納得する明確な理由の説明が必要だと強調。「センターがこれまで長く美唄市に立地しているため、センターに通う患者も相当数いる」とし、もしセンターが移転する場合には患者らにも説明責任を果たすべきとの姿勢だった。
ただ、老朽化などによる建て替えは「理解できないわけではない」として、「すべて反対しているわけではなく、議論を重ねたうえで皆が納得する形であれば反対することは決してない。それができるように継続的に話し合いを続けているところだ」と議論の現状を教えてくれた。
一方、センター側はどのような認識なのか。前出の担当者は「移転はもともと検討しており、せき損医療を今後も進めていくためには札幌市への移転がベストだろうと考えた。そして23年4月、対外的に説明・調整を始めた」と経緯を説明。
「せき損医療を進めていくためには札幌が好都合、というところは美唄市側もあまり大きな異論はないだろうと思う。ただ、それ以外の地域医療がどうなるか。仮にセンターが移転したとしても、地域医療をある程度継続していけるよう協力すると美唄市側とも話している」(同)と議論の内容を明かした。
移転の議論はどのように帰着するかセンターによると、センターに入院する患者は全道から来るといい、特に隣町の岩見沢市から来る患者らが多いという。一方で外来は「地元の病院で診察してほしい」と考える患者が多く、美唄市民の割合が多いとした。
過去、美唄市が炭鉱で栄えていた際は人口が1960年には8万7345人だったが、3年後には三井美唄炭鉱が閉山。85年には3万7414人と人口が大幅に減り、その後人口が2万人を割り込んだ。2025年1月末現在、美唄市の人口は1万8387人となっている。
この人口減少と地域医療の維持のバランスをどう取っていくのだろうか。地元住民も「なくなったら大変だ」と話すセンター移転の議論がどのように帰着するのか、注視していきたい。

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