富士通グループ元派遣労働者の訴えを棄却する地裁判決 原告側は「無期転換を回避する脱法スキーム」の存在を主張

過去に富士通のグループ会社などに派遣されており、別会社への転籍後に解雇された元労働者が「虚偽の説明によって転籍に同意させられた」として労働契約上の地位確認や未払い賃金などを求めた訴訟で、3月12日、東京地裁は原告の請求を棄却する判決を出した。
無期雇用の権利を得ていたが別会社に転籍本訴訟の被告は、電機メーカー・ITベンダーの大手である「富士通株式会社」(以下「富士通」)と、そのグループ会社である「FUJITSU UT株式会社」(以下「UT」、親会社は富士通ではなく「UTグループ株式会社」)。
原告の男性は、2005年、富士通の子会社であった「富士通ビー・エス・シー」(以下「BSC」)に派遣労働者として登録。ネットワークエンジニアとして、富士通のグループ会社などに派遣されていた。
男性は2018年7月には労働契約法18条に基づく無期転換申込権を取得しており、BSCに無期転換の申し込みを行っていた。原告側の説明によると、本来ならこの時点で同社の無期契約労働者となり、また2021年4月にBSCが富士通に吸収合併されたことから、現在は富士通の無期契約労働者になっていたはずであるという。
ところが、2018年7月30日、男性はBSCからUTに転籍する旨の合意書に署名。以降UTに籍を置く派遣労働者として働いていたが、2022年7月に解雇された。
原告側は、男性が転籍に合意したのは会社側から虚偽の説明を受けたからであり、また、転籍後には説明された労働条件と異なる取り扱いをされたとして、労働契約上の地位確認や未払い賃金を請求。
しかし判決では未払い賃金の一部のみが認められ、「転籍合意には錯誤・詐欺があり、労働者の自由な意思に基づいてなされたものではなかった」とする原告側の主張は退けられた。
「自由な意思に基づく合意でないから転籍は無効」との訴えは棄却原告側は、日本のIT企業である富士通の子会社から、半導体の製造派遣が主であり、ITの実績がほぼなかったUTグループの子会社への転籍は、男性にとって多大な不利益があると指摘。
また、2018年7月30日に行われた面談で、BSCの人事部長が虚偽の説明を行い、男性を「BSCは無期転換の申し込みを拒否することが可能」「転籍に同意しなければ実体不明の契約社員となり、同年8月以降就業できなくなる」などの錯誤に陥れた、と主張。労働者の自由な意思に基づくものではないから転籍は無効である、と訴えていた。
これに対し被告側は「人事部長は虚偽の説明をしていない」と反論。判決でも「原告に錯誤があったとは認められない」とされた。
原告側は「無期転換を回避する脱法スキーム」の存在を主張訴訟では、そもそも男性が無期転換申込権を行使していたか否かも争点になっていた。判決では「権利の行使がなされた」と事実を認めたうえで、男性は自由な意思で転籍に合意したとされている。
判決後の記者会見で、原告代理人の海渡(かいど)雄一弁護士は「考えてみてほしいが、自分が安定した地位で無期契約労働者になれるというのに、関係のない会社に転籍することに合意するだろうか」と疑問を呈した。
また、代理人弁護士らによると、富士通側からは多額の和解金の申し出があったという。原告側としては勝訴を確信していたのであり「そういう意味では意外な判決だ」と海渡弁護士は首をかしげた。
訴訟において、原告側は「派遣労働者について無期転換申込権行使を回避し、雇用責任を免れようとする脱法スキーム」が「富士通グループ全体」に存在しており、UTもその一環を担っていると主張していた。海渡弁護士は「スキームの違法性については完全に立証したつもり」と語る。
判決文でも「BSCないし被告富士通が、事業の移管により、有期の登録型労働者と富士通グループを構成するBSCとの雇用関係を解消しようという一定の意図を有していたことはうかがわれる」と認められたが、「このような意図自体が直ちに違法なものとまでは言えない」と判断された。
原告代理人の秦(しんの)雅子弁護士は「企業側が労働者に不利益な合意をさせる事態は蔓延(まんえん)している」「無期転換を阻止するため、手を替え品を替え雇い止めをしようとする事案が後を絶たない」と危惧した。
原告男性は「無理やりに転籍や解雇をさせられた人は自分以外にもたくさんいる。その人たちと共に、今後も戦っていければ」と、控訴の意思を語った。海渡弁護士も「高裁で雪辱を果たしたい」と、意気込みを示す。
本件について富士通にコメントを求めたが、現在まで回答は得られていない(12日18時時点)。

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