中日・根尾昂投手(24) 異例のピッチャー転向を「正解に」~決断下した立浪和義前監督「間違っていない」ドラゴンズ入団7年目の決意

2024年12月中旬、深夜。私は眠れずにいた。「根尾選手って、なんて呼んだらいいんだろう。ちょっと待てよ、もうピッチャーだからそもそも根尾投手か。いやいや、硬過ぎるよなぁ。歳は3つ下なんだよなぁ。じゃあいっそアキラ君!?いや友達か!相手はプロ野球選手だし。根尾君…?根尾っち…」私は入社5年目、普段は「サンデードラゴンズ」のディレクターをしている。根尾投手には、これまで何度もインタビューをさせてもらったことはあるが、改めて名刺を渡し、自己紹介を済ませてから頭を下げた。「根尾さん!折り入ってお願いがあります!僕に5分ください」12月18日、場所はナゴヤ球場。自主トレ終わりの根尾投手を直撃した。「いいですよ!5分ですね、じゃあよーいスタート!って嘘です。なんですか?」スマホを片手に持つ根尾投手の表情は、明るい。
「単刀直入に申します。根尾さん、密着取材をさせてください。そのお願いをしに来ました。来年が根尾さんにとって、とてつもなく大事な年になる事も、なんで今、このタイミングなのか?という事も百も承知でお願いしたいです」「いきなりプライベートを撮らせてください、とは言いません。信頼関係を築いたうえで根尾さんに認められて、初めて撮影できると思っています。それでもとにかく、今しか撮れない根尾さんの姿を皆さんに届けたいんです。お願いします!」根尾投手のチャームポイントである眉毛が上がる。発せられた言葉は…
「僕!?」心なしか、嫌そうではなかった。「分かりました、でも一旦考えさせていただいてもいいですか?」この時の真剣な表情を忘れることはない。年内くらいまでに返答をいただけないかと約束し、その日は別れた。ここからがディレクターの腕の見せどころ。返事を急かすわけではない。こちらの誠意を伝えようと、寒空の下、ナゴヤ球場で何日か待った。空振りに終わった日もある。お願いをしてから一週間後の12月25日。ナゴヤ球場に根尾投手が現れた。先に口を開いたのは根尾投手だった。
「よろしくお願いします」深々と頭を下げてくれた。唐突な言葉に少し驚いたが、私の顔を見ただけで声をかけてくれたことが嬉しかった。何年振りかのクリスマスプレゼントは、根尾サンタから。この瞬間から密着取材が始まった。まずは2か月間の取材分をまとめて、2月24日にCBCテレビの「チャント!」で放送した。
クリスマスの後、根尾投手に会ったのは1月3日。三重県鈴鹿市にある神社だった。(中日ドラゴンズ 根尾昂投手)「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
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(根尾投手)「今年も一年間しっかりやるとだけ言います。上原さんは何をお願いするんですか?」(上原ディレクター)「根尾さんのご活躍です」(根尾投手)「あ~、そんなもったいないことを」
CBC
プロ7年目の2025年を「勝負の年」と位置付ける根尾投手。ズバリ、おみくじの結果は?(根尾投手)「めちゃくちゃ久しぶりに大吉を引きました。超嬉しかったです」大吉を引いた根尾投手。お腹が空いたみたいです。
(ディレクター)「ベビーカステラ、好きなんですか?」(根尾投手)「はい」
CBC
お目当ては、ベビーカステラ。我々スタッフにも、プレゼントしてくれました。口いっぱいに頬張る根尾投手。(根尾投手)「めっちゃデブみたいに映っていません?うまっ。地元の古川祭があるんですけど、だいたい土日なんですよ。野球でかぶって、お祭りに行ったことがほぼなくて」
CBC
岐阜県飛騨市出身。大阪桐蔭高校時代、投打の二刀流で甲子園を沸かせると、4球団競合の末、ドラゴンズに入団。(根尾投手 入団会見)「ショート一本でいかせてくださいと伝えました」ルーキーイヤーのキャンプはまさにフィーバー状態でした。
CBC
しかし、プロの壁は厚く思うような結果を残せません。根尾選手は、立浪監督が就任した2022年に外野一本でレギュラー奪取を狙いますが、4月にショートへの再コンバートを命じられます。そして、5月。(場内アナウンス)「4番ピッチャー根尾」日本中のプロ野球ファンをざわつかせた、“投手 根尾”。この決断を下した、立浪和義前監督は2月7日、取材に応じてくれました。
(立浪和義前監督)「全国区ですよね、彼の場合は。期待を背にドラゴンズに入団して、注目度がすごく高かった、周りの期待がすごく大きいので、焦りがあったと思う。ただ、その中で外野からの送球を見て、彼はピッチャーの方が大成するのではないかと思った。ただ本人は野手でやりたいという気持ちも強かったので、当然批判を覚悟で『根尾、ピッチャーでやってみないか?』と。既に一軍でバリバリ投げていれば良かったな となるんですけど」
(根尾投手)「いろいろありましたね、22歳は。バッターからピッチャーになって、他人と比べる事でもないけど、自分のやることによりフォーカスしてやらないとという気持ちでやっている」
全国区のスター選手に対する“異例の配置転換”。不安や迷いは、なかったのでしょうか?(立浪前監督)「不安よりも何とかピッチャーで成功させてあげたい、成功してほしいなという思いしかなかった」(ディレクター)「その決断は今も間違っていないと?」(立浪前監督)「そう思っています」
(根尾投手)「監督の方に矢がいっているのは自分でも思っていた。それは僕が投げることでしか変わらないので。どんどん結果を出していくことでしか正解にならないので」今年から背番号が7から30に変更。これまでポジションは何度も変わってきました。
報道陣の対応も、ルーキーイヤーと比べたら変わったかもしれません。それでも変わらないのは、ファンからの期待感。彼の登場で沸くドームがその証。(根尾投手)「7年目になるので一軍の舞台で結果を出して、一軍に定着して皆さんに勝っている試合で投げているところを見ていただきたい。応援よろしくお願いします」(ディレクター)「引き続き取材をよろしくお願いします」(根尾投手)「全然いつでも。朝とかでも来てもらっても大丈夫なので。僕が起きられたら」
プロ野球は、3月28日にシーズン開幕を迎える。根尾投手にこんなお願いをした。「シーズンに入ると、良い時も悪い時もあると思います。我々としてはその両方を取材させてほしいです。上手くいかない時は気分も上がらないと思うのですが、カメラの向こうにファンの皆さんがいる事だけ、心のどこかに留めておいてもらえると嬉しいです」要は「うまくいっていない時も取材をさせてくれ」という、選手からしたら迷惑なお願い。恐る恐る発した言葉に対して、根尾投手の答えは力強かった。「もちろんいいですよ!いつでも来てください!あっ、でも良い時しかないんでそもそも大丈夫ですよ!」これから始まるプロ7年目のシーズン。どんな根尾さんが撮れるのだろうか。私の気持ちは昂ぶっている。
【筆:CBCテレビスポーツ部 上原大輝】

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