「タケノコ王」としてバラエティー番組などで親しまれながら、昨年静岡・富士宮市の直売所「風岡たけのこ園」を閉店した風岡直宏さん(51)が、タケノコ農家に復帰する。古傷の状態の悪化などにより“農家引退”を選んだ風岡さんが、なぜ再び竹林へ足を踏み入れる決意を固めたのか。スポーツ報知の取材にその理由を明かした。
今年2月23日。自身のインスタグラムに直筆の文章をアップした。「昨年引退した私ですが訳あって今年筍をやることを決めました」。タケノコ農家への「現役復帰」を高らかに宣言した。
ピンクのタンクトップ姿と明るいキャラクターが印象的な風岡さん。日本テレビ系「沸騰ワード10」(金曜・後7時56分)などに出演し一躍人気者に。フィギュアスケートの元世界女王の浅田真央さんとも共演した。しかし、「タケノコで1億円稼ぐ男」という華やかなイメージの裏で、過酷な労働により両手のしびれや右足首の状態が悪化。昨年7月21日に直売所を閉店し、都内の芸能事務所に所属しタレント活動を行うとしていた。
「芸能界に自信があったんですね」。だか、現実は甘くなかった。所属予定だった芸能プロダクションからの仕事の紹介がこなかったのだ。「全く仕事がこなかった。自分は生活があるのに…」。途方に暮れた。
自分の生活だけでなく、働かなければならない理由があった。昨年5月、元妻で現在はパートナーとして自身を支える友紀さんにステージ2の乳がんが発覚し、2か月後に手術を受けた。「仕事がないまま店を閉じちゃったし、そっち(友紀さん)の面倒もみなきゃならないんです」と切実な胸の内を吐露。現在も抗がん剤(全22回)の治療を受けている友紀さんを助けたい思いが「現役復帰」を後押しした。
復帰の理由は、それだけではない。昨夏の閉店前、通信販売で注文していた客が広島からやってきた際のことだ。「名前と顔が初めて一致して。農家をやっていて一番うれしかった。よっぽどおいしくなかったら来ないと思うんですよね。タケノコ王じゃなくて風岡直宏に会いに来てくれた」。これまでにない喜びがあふれた。
「農家の声にならない声を僕が代弁し、農家にスポットをあてて見直すきっかけになれば」と復帰へ力を込める。バラエティーの出演で、気付かされたこともあった。飲食店を回る収録で、ロケ弁が用意されていた。出演者へのもてなしであると理解しつつ「食えないじゃないですか。もったいないから、みんなが残した分まで家に持って帰って、家族で食べて…。そういう人が食レポやってるのが実態。おかしいじゃないですか」。サンドイッチにきゅうりが入っていた。「捨てられるために作ったんじゃないと思うんですよね。農家がこの現実を知ったらどう思うんだろうと。その現実でいいのか」
復帰決断までの8か月、講演会や婚活パーティー、忘年会のゲストの依頼を受けた。鉄の廃品回収も行い、収入の一部にしたこともあった。本業だったタケノコに関する仕事にも遭遇。物流会社が竹の幹を粉末化する事業を始め「アドバイザースタッフになってほしい」と頼まれた。竹を粉にする世界初の機械でパウダー化し飼料にして、静岡発のブランド牛やブランド豚を作るという取り組みにも携わった。
挫折も経験し、やり場のない怒りを覚えたこともあったが「今までの僕は怒りによってスイッチが入って、見返してやろうという思いで伸びてきたんですけど。今までと違うのは、お客さんへの感謝の気持ちの方が上回っているということ」。“外の世界”を経験してみて、改めて直売農家の良さも実感している。「直売って農家にとってステージみたいなものですね。おいしいものがあるからこの街に来る。また買いに来るっていうリピートが、一番人を呼び込むための手段だと思います。タケノコの味の向上に努めてきた。自分の歩んできた道、目指してきた道が間違いじゃなかったなと証明された。食べておいしかったから、生産者に会いたくなる…そうやって味の向上を目指す農家が増えたら、日本の農業も変わるんじゃないかなって僕は思うんです」
◆風岡 直宏(かざおか・なおひろ)1973年11月9日、静岡・富士宮市(旧芝川町)生まれ。51歳。短大時代にトライアスロンを始め、23歳までプロチームに所属し、国内レースで13勝。引退後は工場勤務などを経て、01年から「風岡たけのこ園」を営み、24年7月に閉店。直売所の再開は3月中旬を予定している。右足首は「いい状態。自分でインソールを作って工夫しました」。185センチ、75キロ。