29年前の変死事件、捜査報告書などの開示認められず 「もんじゅナトリウム漏れ事故」で内部調査担当の男性遺族が請求

29年前に夫を亡くした女性が、当時の捜査報告書などの開示請求を却下した都の処分の取り消しと文書の開示を求めた裁判で、2月25日、東京地裁は原告、西村トシ子さんの訴えを退ける判決を言い渡した。
同日、西村さんとその支援者が都内で会見。支援者の男性は「いい裁判をしていましたが、最終的には却下となり残念です」と述べた。
会見翌日に遺体で発見死亡した西村さんの夫(以下、夫)は当時、動力炉・核燃料開発事業団(動燃、現・日本原子力研究開発機構)の幹部(総務次長)で、遺体は都内のビジネスホテルで発見された。
動燃では1995年12月に高速増殖炉もんじゅのナトリウム漏れ事故が発生。事故後に、現場の様子を撮影したビデオが隠蔽(いんぺい)され問題になるなか、夫は事故の内部調査を担当していた。
そして調査結果を公表するため、1996年1月12日に記者会見に出席。ビデオが発見された日時について虚偽ともとれる説明をした翌日に、遺体で発見された。
事件を捜査した警視庁は、夫の死因について自殺と判断していたが、原告側はこれを疑問視。
警視庁が「ホテルから飛び降りた」としていたものの、西村さんは夫の遺体の状況から、「もし飛び降り自殺をしたのであれば、相当の衝撃を受けるはずで、夫の遺体のようにはならない」として、事件性があると主張している。
損害賠償請求訴訟などで敗訴西村さんは2002年、夫が第三者による犯罪行為により死亡したとして、犯罪被害者給付金制度を利用し、給付金の支給を申請。東京都公安委員会は夫の死は自殺によるものであり、犯罪行為は認められないとして支給しない裁定をしていた。
裁定を受けて西村さんは2003年、国家公安委員会に対し不服を申し立てたが、この際、東京都公安委員会は国家公安委員会に対し、捜査報告書などの文書の写しを裁定資料として提出。国家公安委員会はこれらの個人情報を受領したことを西村さんに通知していた。
また、西村さんは、男性が動燃側から記者会見で虚偽の説明をするよう強いられており、それが原因で死亡したとの主張も展開。2004年に動燃側を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こした。
この裁判で1審東京地裁判決(2007年5月14日)は、夫の遺書に動燃への批判や不満が書かれていていないことなどから「動燃側が虚偽の事実の発表を強いたと認めることはできない」と判断。
2審東京高裁判決(2009年10月29日)も「男性が自殺すると予見できたとはいえない」と動燃側の安全配慮義務違反を否定し、2012年1月31日に最高裁が上告を退けたことで、西村さん側の敗訴が確定していた。
また、2015年には都を相手に遺品の引き渡し等を求める訴訟を提起していたが控訴審を経て2017年に敗訴が確定。
2019年11月には旧動燃側に遺品の返却を求める訴訟を起こし、都に対しても個人情報の提出を求める申し立てを行っていたが、却下されている。
「殺人罪の捜査資料として取り扱うべきであったとは認められない」これらの訴訟や申し立てを受け、西村さんは2020年2月、男性の個人情報について、警視総監に対し、都の個人情報の保護に関する条例(令和3年東京都条例第87号による改正前のもの)13条1項に基づく開示請求を行った。
警視総監は同年3月、請求を受けたすべての文書の開示を却下、もしくは非開示を決定。西村さんは決定の取消を求めて審査請求をしたが、2021年7月に請求を棄却され、2023年に提訴した今回の裁判でも、裁判所は請求をいずれも棄却した。
都は夫の捜査報告書や死体取扱報告書について、保存期間が経過したことから文書は破棄されたと説明。
一方で西村さん側は夫の死は殺人によるものであり、警視庁公文書管理規程27条などにより、これらの文書は殺人事件の公訴時効完成まで保管されるはずで、破棄されることはないと主張していた。
双方の主張に対し、裁判所は、警察が男性の死は事件性がないと判断し、その後も殺人事件として捜査が行われたことをうかがわせる事情も認めらず、「文書を殺人罪の捜査資料として取り扱うべきであったとは認められない」とした。
「文書は保存期間の経過により廃棄された」とする都の主張には合理性があるとし、その他の文書についても西村さん側の主張を退けた。
原告側「もう一度、控訴審で訴えていきたい」支援者の男性によると原告側は控訴を予定しているという。
「わたしたちが警視庁の情報開示センターに話を聞いたところ、変死事件の場合には『殺人の疑いが浮上した場合には、捜査する必要が出てくるので、中央警察署や担当検事の許可を得ないと、資料は廃棄できない』と言われました。
言うならば、資料が存在し保存されていることの“証言”でもあると思いますが、このことが十分に審議されないまま、裁判が終わってしまいましたので、もう一度控訴審で訴えていきたいです」

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