ロシアが「特別軍事作戦」と称して隣国ウクライナに軍事侵攻を開始してから、きょうで3年になる。
米国のトランプ政権が調停に乗り出したことで、事態は戦争終結に向け大きく動き始めた。
だが当事国のウクライナは、交渉のスタートとなる米ロ高官協議の場から外された。
米側からはロシア寄りの発言が相次ぐ。
「ウクライナの領土の全土奪還と北大西洋条約機構(NATO)加盟は現実的ではない」「戦後の安保体制については、欧州が責任を持つべきで、米軍は関与させない方針だ」
ウクライナのゼレンスキー大統領が米ロ主導の和平交渉に不快感を示すと、トランプ氏は、ゼレンスキー氏を「選挙を経ていない独裁者」だと言い放ち、ゼレンスキー氏の支持率は「4%」だとこき下ろした。
大統領選でも見られた虚実ない交ぜの「口〓」を外交交渉に持ち込んだのである。
ロシアに対しては、交渉する前からロシアの欲しがるものを与えた。
その一方、ウクライナに対しては、将来の安全をどのように保障するかという切実な声には応えていない。
トランプ政権が持ち出したのは金目の話だ。
希少な鉱物資源の供与に合意しなければ、ウクライナ軍が通信に使う米衛星インターネット接続サービス「スターリンク」を遮断するぞ、と露骨な脅しをかけたと報じられている。
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ウクライナは経済的にも軍事的にも余力を失いつつある。
戦闘で手足を失った兵士も多く、武器・弾薬、人員のいずれをとっても戦線を維持するのは容易でない。
ウクライナの街には今も、連日のように空襲警報が響き渡り、市民はその都度避難し疲弊している。
停戦を実現し、領土を取り戻した上で、将来の安全を確かなものにする。ウクライナにとっては、それが最も望ましい形になる。
交渉は難航が予想される。戦後の国際秩序を形成する上で、重要なのは「公正な和平」を実現することだ。
米ロ2大国の合意が無理やりウクライナに押し付けられ、ロシアの独り勝ちを制度化するような停戦案であってはならない。
それは、軍事侵攻した国に褒美をやるようなもので、国際秩序そのものの破壊につながる。
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ロシアがウクライナに軍事侵攻したのは、2022年2月24日のことである。 見過ごしにできないのは、トランプ氏の「ウクライナは戦争を始めるべきではなかった」との発言だ。
その日、何があったのか。ウクライナがロシアに侵攻したのではない。ロシアがウクライナに侵攻したのだ。
その事実すら曖昧化され、ロシアの主張がトランプ政権を通して世界に拡大していくようでは、1万2千人余りともいわれるウクライナの民間人犠牲者は浮かばれない。
※(注=〓は撃の旧字体)