元タレントの中居正広氏の女性トラブルに端を発したフジテレビ問題はひとまず、3月末をめどとする第三者委員会の調査結果待ちとなっている。どこまで全容に迫れるかが焦点だが、見通しは険しい。そうした中、テレビ業界全体に向けられる目も厳しく、業界特有の体質改善を求める世論も聞こえてくる。
フジテレビ問題の根深さフジテレビ問題の根深さは、局上層部が女性トラブルを把握しながら中居氏を1年以上も起用し続けたことに象徴される。「当該女性を守るため」を理由としたが、女性が受けた身体的・精神的ダメージの大きさを考えれば、適切な対応であったか疑問は残るだけに、いかに局の体質が世間と乖離(かいり)しているかがわかる。
当然、疑惑はテレビ業界全体へ向けられた。そこで、中居氏が女性と接点を持ったとされる「不適切な会食」に対し、他局も敏感に反応。TBSはフジテレビ社長らのクローズド会見(1月17日)翌日に「当社も実態を社内調査する」と、テレビ朝日は1月22日に、フジテレビ問題発覚前に実施していた社内調査の結果として「食事会等で不適切な行為はなかった」と公表した。
その他の局も追随し、調査の実施方針を発表。フジテレビ問題がいちテレビ局だけの問題ではないとして、真摯(しんし)に向き合う姿勢を示した。
危機管理といった生易しいものでない危機管理のプロとして、多くの企業の不祥事を見聞し、解決の道筋を指南してきたリスクコンサルタントでアクアナレッジファクトリ代表の角渕渉氏はこうした動きに厳しい視線を送る。
「コンプライアンスや危機管理のテーマとして扱われることが多いようですが、この事件はそのような生易しいものではないというのが私の見解。フジメディアHDの体質とそれに起因するガバナンスの問題であり、世間で言われる危機管理の失敗やコンプライアンスの機能不全というのは出てきた膿の一部でしかないということです。この先調査が進めば他の局も同じ穴のむじなとなる可能性も高いかもしれません」
経営における力量や経験の不足に起因する問題なら、改めての意思統一や規律等の再徹底などである程度の立て直しは可能だろう。だが、“上納疑惑”がまとわりつくフジテレビ問題については、そこに着手しても改善には程遠いというのが角渕氏の見立てだ。
日テレの調査結果公表にネットは否定的反応日本テレビは公式サイトで14日、「性的接触を伴う不適切な会食」に関するヒアリング・アンケートの結果を報告。調査は人数を絞り、女性アナウンサー25人、番組制作を主に担うコンテンツ制作局・報道局・スポーツ局の幹部・プロデューサーなど161人、合計186人を対象に行われた。
女性アナウンサーには直接聞き取りをし、制作担当者には、アンケートをとったうえで弁護士と相談。話を聞いた方がいいという人を抽出して一部聞き取りをしたという。その結果が、「該当するような不適切な会食はありませんでした」とあまりにとってつけたような内容だったことから、ネット上では否定的な声があふれた。
「安易な調査結果に納得できない」「とりあえず形だけはやりましたというような調査」「会社から出すコメントとして大変印象が悪い。出すなら“調査した範囲において確認できませんでした”くらいが組織イメージとしてよい」
同社としてはあくまでも第一報という意図だったのかもしれない。それでも、普通に対象者が質問されて「ありました」と答えるとは思えない設問によるアンケート調査といえ、結果、「ありませんでした」は、「とりあえず感」が強い印象はぬぐえない…。
「今回、各局の調査結果をみると“何もありませんでした”という発表が目立ちましたが、『調べに調べたが、何も見つからなかった。だから、調査を打ち切ります』ということなのか、とりあえずなにか調べるふりでもしなければまずいので、一応格好だけ付けたということなのかは不明。ただ、あまりに中途半端なら今後、内部告発等で明らかになる部分もあるかもしれません」(角渕氏)
信頼を取り戻すためのポイントとは会社の体質が世間とずれている。そう察知する社内の“正義”が内部告発という形で爆発する――。テレビ各局が生ぬるい対応でやり過ごすようなら、いずれ予期せぬ形で組織が崩壊するだろう。どれだけ歴史があろうが、規模が大きかろうが、それが必然であることはこれまで企業が盛衰してきた歴史が証明している。
そのうえで角渕氏はフジテレビ、ひいてはテレビ界が自ら体質を浄化し、信頼を取り戻すために取り組むべきポイントを次のように示した。
「まずフジテレビの事案については同社特有の問題として日枝久氏(取締役相談役)による独裁、そしてこれは他局にも言えることですが長年継続されてきた高級官僚の天下りや有力政治家の子弟の縁故入社などによる政府の後ろ盾をなくすことで、普通の会社が負うべきリスクを負う覚悟をもってビジネスを健全化することが必須といえます。
異論を一切許容しない統制により、周囲をイエスマンで固め、客観性のない独善的な経営はガバナンス不全の根源といえます。独裁的な権力が組織を腐敗させることは歴史を振り返れば明らかです。
業界全体にいえることとしては、TVメディアの特権意識を改めることも重要です。自分たちが報道しない事実は、存在しないのと同じであるというマスコミ権力の傲慢(ごうまん)さがあり、問題の隠ぺいに対してなんらの疑問も抱けなかったことが今回のトラブルの根源といえます。
併せて、芸能界の古い体質からも脱却する必要があります。今回は芸能関係の問題でしたが、芸能界自体に女性タレント(TV局においてはアイドル女子アナも同様)をあたかも愛玩動物であるかのように扱う忌まわしき旧弊が色濃く残っています。
これらが相互に作用しあい、膿があふれ出てきた。それが今回の事態の本質だと考えます。従って、これらを放置したままでは、いくら危機管理体制を構築しようが、コンプライアンス教育を行おうがなんの意味もないと思います」
テレビ業界は「オールドメディア」と揶揄されるほど、凋落が著しい。元凶のひとつはそれがスタンダードかのように、いまだにひきずる古い体質への固執であり、マスコミ権力を振りかざすごう慢さだ。
まずは3月末にも提示される震源地・フジテレビの調査結果、そして「ラスボス」の進退が積み上げられてきたユーザーの不信感を払しょくできるかどうかの分水嶺(れい)となるが、果たして…。