アメリカ軍で導入が進む特徴的な兵器の一つに、コンテナ型ミサイル発射装置「MK 70」があります。これは、イージス艦などに装備されているMK 41垂直発射装置(VLS)をコンテナに収めたものですが、じつは日本も他人事ではないようです。
現代戦にとって欠かせない兵器が、各種の誘導ミサイルです。そして、それを運用するために欠かせない発射装置を、もしコンパクトなコンテナサイズに収めることができれば、スムーズかつ予想外の運用を行うことができるようになるはず。じつは、その「コンテナ型ミサイル発射装置」はすでに実用化されています。それが、「遠征型武器システム(ExWS)」こと「MK 70」です。
日本も導入? ナゾの箱型「どこでもミサイル発射装置」とは 海…の画像はこちら >> 戦闘艦「サヴァンナ」に搭載されたコンテナ型VLS「MK 70」から対空ミサイルSM-6が発射された瞬間(画像:アメリカ海軍)。
MK 70は、アメリカの大手防衛関連企業であるロッキード・マーチン社が開発したコンテナ型VLS(垂直発射装置)です。全長約12m(40フィート)あるコンテナ内部には、現在イージス艦などに装備されているMK 41 VLSが組み込まれており、コンテナ1つ当たりミサイル4発を装填できます。
MK 70の優れている点は、さまざまなプラットフォームにミサイル運用能力を与えられることです。たとえば、これまでVLSを装備してこなかった艦艇の甲板にMK 70を設置する、あるいは地上部隊が運用するトラックにMK 70をけん引させることで、瞬時にミサイル運用能力を付与することができるのです。
実際に、MK 70はアメリカ軍においてすでに各種プラットフォームへの統合が行われています。たとえば、陸軍ではトラックけん引式のMK 70である「中距離ミサイル発射システム(MRC)」の配備が始まっているほか、海兵隊では無人車両の上にミサイル1発を搭載可能な「長射程ミサイル発射システム(LRF)」を運用しています。
また、アメリカ海軍においてもMK 70の艦載運用試験が行われています。2021年には試験運用中の無人水上艦「レンジャー」で、そして2023年にはインディペンデンス級沿海域戦闘艦(LCS)の「サヴァンナ」で、それぞれMK 70から艦対空ミサイルSM-6を発射する試験を実施しています。
このように、MK 70はそれまで長射程のミサイル発射能力を有さなかった艦艇や部隊に対して、迅速にその能力を与えることができます。そして、これは次の2つの点において重要な意味を有しています。
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トレーラー搭載型のコンテナ式VLS「タイフォン」(画像:アメリカ陸軍)。
1つは、敵に対して大きな負荷をかけることができるという点です。あらゆる艦艇や地上部隊が長射程兵器の運用能力を持ちうるとなれば、敵はあらゆる方向からの攻撃を警戒しなければならなくなります。そのためには、ISR(情報・監視・偵察)能力をフル活用して各種艦艇や地上部隊の動向を探らなければなりませんが、これには極めて多大な労力を要します。従って、敵軍のISR能力に大きな負荷をかけることが期待できるわけです。
もう1つは、艦隊内でミサイルの数を増加させられるという点です。艦隊内のイージス艦を始めとした防空艦を軸に、MK 70搭載艦をネットワークで結ぶことができれば、状況に即して最適な位置に展開している艦艇からミサイルを発射できるほか、仮にイージス艦がミサイルを撃ち尽くしたとしても、MK 70搭載艦のミサイルをイージス艦が誘導することで、戦闘を継続することが可能になります。つまり、MK 70があれば、艦隊内における各種ミサイルの数を底上げできるのです。
そして、こうしたメリットは日本にとっても他人事ではありません。現在、日本は海洋進出を強める中国に対抗すべく、防衛力の強化に勤しんでいます。なかでも、中国海軍と直接対峙することとなる海上自衛隊において、艦艇が装備できるミサイルの数は非常に重要となります。
日本もやはりMK 70のようなコンテナ式のミサイル発射装置に注目しています。実際に、2024年には「コンテナ式SSM発射装置に関する技術調査」の契約に関する公募が行われました。これは、艦対艦ミサイルをコンテナ式発射装置に組み込み、それを平時の警戒監視を主任務とする哨戒艦など、ミサイルの配備が予定されていない艦艇に搭載しようという試みです。
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ロッキード・マーチンの工場内で製造されるMK 41(画像:ロッキード・マーチン)。
じつは、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は2024年にアメリカのニュージャージー州モーレスタウンにあるロッキード・マーチン社の施設を取材し、実際に製造中のMK 41やMK 70を見学する機会を得ました。そこで、MK 70の担当者は次のような説明をしたのです。
「我々は、日本におけるMK 70のライセンス生産に関する初期の議論を行っています。ただ、日本はMK 70の導入を決めていません」
日本では、すでに三菱重工がMK 41を世界で唯一ライセンス生産しており、VLSを国内で製造する能力を有しています。そこで、MK 70に関しても、ライセンス生産を行うとすればおそらく三菱重工がこれを担当することになると思われますが、仮に本当にこの話が現実化するとすれば、海上自衛隊の艦艇向けにMK 70の搭載が本格的に議論されることになるのかもしれません。