石丸伸二氏、都知事選での“公選法違反”疑惑「ボランティアだった」では済まない? 「買収罪」の成否を分けるポイントとは【弁護士解説】

昨年の東京都知事選挙に立候補して落選した、前広島県安芸高田市の前市長・石丸伸二氏に、公職選挙法違反の疑いが持ち上がっている。
その内容は、石丸氏のYouTubeチャンネルでライブ配信された決起集会の映像の撮影と配信を担当した業者に対し、陣営が97万7350円を「ライブ配信機材キャンセル料」の名目で支払っていたことが、公職選挙法の「買収罪」に該当するのではないかというもの。
買収罪の成否等について、どのような点に着目すべきか。元特捜検事の郷原信郎(ごうはら のぶお)弁護士に聞いた。
「本人が知らなかった」では済まされないまず、公職選挙法の規定を確認しておこう。公職の選挙の候補者が「選挙運動」に対し報酬を支払った場合、「買収」(公職選挙法221条1項1号、3項)に該当し、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金に処せられる。
加えて、公民権停止の制裁がある。罰金刑に処せられた場合は裁判確定から5年間(同法252条1項)、禁固以上の刑に処せられた場合(執行猶予も含む)は刑の執行が終わるまでの期間(執行猶予の場合は期間満了まで)とその後の5年間、公民権が停止される。
では、「買収」行為を行ったのが陣営幹部で、石丸氏自身が関与していなかった場合はどうか。石丸氏のケースでは、陣営幹部にあたると考えられる「事務局長」が違反を認めているとの報道がある。
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【画像】石丸伸二氏が落選した東京都知事選挙の選挙ポスター(2024年7月 都内/弁護士JPニュース編集部)

郷原弁護士:「『総括主宰者』『出納責任者』『組織的選挙運動管理者』等の陣営幹部等が買収行為を行い、禁錮以上の刑に処せられた場合、連座制が適用されます。
本人に連座規定が適用された場合、5年間、その選挙区から立候補できません(公職選挙法251条の2、251条の3参照)。
連座制による立候補禁止の効果は,検察官が本人等を被告として提起する行政訴訟を経て発生するので、連座制対象者の有罪が確定し次第、高等検察庁が本人の当該選挙区での立候補を5年間禁止するよう求める訴えを起こすことになります。
陣営幹部が『総括主宰者』と認定され有罪となった場合には、連座制の適用のため訴訟提起をする必要はなく、裁判所から本人に刑の連座対象者への刑の『通知』がなされればよいことになっています。
本人がその認定に不服だった場合、通知日から30日以内に当選が無効とならないことの確認を求めて高裁に提訴できます。提訴しない場合や、その訴訟で敗訴が確定した場合は、その時点で立候補禁止となります(253条の2、210条参照)。
石丸氏のケースで違反を認めたとされる『事務局長』も『総括主宰者』と認定される可能性があります。
一方で、陣営幹部等が確定判決では『総括主宰者』に認定されなかったが、検察官が『総括主宰者』に該当すると判断した場合や、『組織的選挙運動管理者等』に該当すると検察官が判断した場合には、前述のとおり、判決確定日から30日以内に立候補禁止を求めて高裁に提訴することになります」
「キャンセル料」を支払ったが、「役務の提供」は受けた石丸氏のケースでは、陣営が「ライブ配信機材キャンセル料」としてお金を支払ったにもかかわらず、業者がライブ配信を行っており、結果的に契約上の債務が履行され、その対価として報酬が支払われたのと同じことになっている。
報道によれば、キャンセルの理由は、陣営内部で、業者に有償でライブ配信をさせることが「買収」にあたるのではないかという懸念が持ち上がったからであるという。
つまり、石丸氏の陣営では、専門的な技術を用いて相応の人員を投入し動画を撮影して配信する業者の一連の業務が、主体的・裁量的な選挙運動に該当し、それに対する報酬の支払いが買収に該当するとの認識が共有されていたことになる。
これらの点をどのように評価するべきか。郷原弁護士は、「金員の支払いを『ライブ配信機材キャンセル料』という形にした経緯が問題だ」と指摘する。
郷原弁護士:「まず、『ライブ配信機材キャンセル料』の名目ではあっても、主体的・裁量的に『ライブ配信』が行われ、その対価としての支払であることを両者が認識していたならば、買収にあたります。
仮にそうでなくて、一応契約はキャンセルしたとしても、実際に、映像の撮影と配信が行われたのであれば、その対価が支払われていないかが問題になります。『キャンセル料』の支払いの中に人件費としての支払いが含まれていた場合には、その分はキャンセル料とはいえず『ライブ配信』の対価と認められる可能性があります」
それでも「買収に当たらない」というためには?となると、石丸氏の陣営としては、買収にあたらないとするには、あくまでも全額が『ライブ配信機材キャンセル料』として支払われ、それとは全く無関係に、ボランティアで映像の撮影と配信が行われたと主張するほかない。そのような主張は認められ得るのか。
郷原弁護士:「業務への対価にあたるかどうかは、支払う側が設定した『名目』と無関係です。
もともと業として行ってもらう予定だった事柄について、お金を支払い、実際に行ってもらったことが選挙運動にあたるのであれば、陣営がどのような名目で金員を払ったとしても、それを受けて業者が実際にライブ配信を主体的・裁量的に行ったと評価される以上、買収を否定する理由にはなり得ません。
『予定していたけどキャンセルします。約束通りのお金をキャンセル料の名目でお支払いしますが、予定どおりやってください』と言えば適法になる、という理屈が通るならば、買収を禁じる公職選挙法の規定は意味がなくなってしまいます」
仮に「ボランティア」にあたるとしても処罰の可能性本件については10日、市民団体が東京地検に告発状を提出した。これに対し石丸氏は21日に記者会見を開き「人件費とわかって承認したわけではない」「業者にはボランティアとして協力してもらった」という趣旨を述べた。
しかし、郷原弁護士は、本件の業者による動画の撮影・配信は前述の通り「ボランティア」にあたるとは考えにくいと念を押したうえで、「石丸氏が『無償のボランティア』と説明しても、実際には、企業の業務として企業側の指揮命令によって行われていた場合には、結局は違法となる可能性が考えられる」という。
郷原弁護士:「業者による撮影・配信は、経済的価値のあるサービスをパッケージとして提供するものです。
ふつうのボランティアとは異なり、商品価値を具体的に算出できるものを無償で提供したことになります。
したがって、選挙運動収支報告書に対価相当額を『収入』として記載しないことは、虚偽記入罪に該当し『3年以下の禁錮または50万円以下の罰金』に処せられると考える余地があります(公職選挙法189条、246条5号の2参照)。
また、そもそも会社などの団体が政治活動に関する寄附を行うことは、政治資金規正法で禁じられています(政治資金規正法21条1項、参照)。候補者の側が寄附を受けることも禁じられています(同22条の2)。この規制に違反した場合、寄附をした団体の代表者と寄附を受けた候補者はいずれも『1年以下の禁錮または50万円以下の罰金』に処せられます(政治資金規正法26条1号・3号参照)」

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