千葉県長生村で昨年7月、重い知的障害がある次男=当時(44)=の首を絞めて殺害したとして、殺人の罪に問われた同居の父親で無職、平之内俊夫被告(78)の裁判員裁判論告求刑公判が21日、千葉地裁(浅香竜太裁判長)であり、検察側は「殺害という手段を選択したことは強い非難に値する」として、懲役5年を求刑した。弁護側は「社会内で贖罪(しょくざい)に尽くす機会を与えてほしい」と、執行猶予付き判決を求めて結審した。判決は3月12日。(報道部・井田心平)
検察側は論告で「被告は『障害を持つ子は親が責任を持って介護すべき』という考えに固執し、訪問介護を頼んだりする手段を検討しないまま、犯行に及んだ。次男の生命だけでなく生きる楽しみも奪ったこの結果は、重大で取り返しがつかない」と指摘。犯行に至るまでの経緯に酌むべき事情はあるとしても「殺害という意思決定と実行は強い非難に値する」と主張した。
弁護側は「被告は、次男に愛情を持って育ててきた。次男は、家庭内で家電を壊したり、カーテンを引きちぎるなどし、家の外でも店舗内の商品を壊すなどの行動がエスカレートしていた」とし、被告が限界に近づいていたと説明。被告に前科がないことや、犯行後に自ら警察に通報していることも挙げ「被告だけが責められる問題なのか。十分な福祉も受けられず、過ちに陥った。重大な事件だが、社会内で妻と贖罪(しょくざい)に尽くす機会を与えてほしい」と求めた。
被告は最終意見陳述で「暴れているときも一時は警察を呼ぼうと思ったが、必ず迎えに行くことになり、同じことが繰り返されると分かっていた。どんなに苦しいか。今だって苦しんでいる。(次男には)本当に申し訳ないと思っている」と声を詰まらせながら心情を吐露した。
◆被告「限界を超えていた」
19日に行われた被告人質問によると、被告の妻が包丁を持ち出して「一家心中するしかない」と叫んだこともあった。「ギリギリで生きていた。限界を超えていたと思う」と被告は明かした。神奈川県から長生村への転居後、一時はおとなしくなった次男だが、2週間ほどで暴れるようになり、その頻度も増していった。訪問介護は「自分たちが大変なのに他人ができるわけがない」という考えから、選択肢にはなかった。「これで終わりにしよう。楽になりたい」と思い、殺害を決めたという。
起訴状によると、被告は昨年7月4日、長生村の自宅で、次男の首をテレビアンテナコードで絞め付けて窒息で殺害したとされる。
重い障害がある子の親が高齢になったとき、子の世話を誰がしてくれるのか。そうした不安の中で求める支援を受けられず、家族が追い詰められていく実態が浮き彫りになったこの裁判。裁判員らはどのような判断をするのか。