2月13日、認定NPO法人「DxP」(ディーピー)は、奨学金を利用して大学などに通う学生(奨学生)を対象にした、家計や食生活に関するアンケート調査、および実施した食糧支援プロジェクトの結果を発表。
近年の物価上昇が、経済的な困難を抱えつつも勉学に励む奨学生らの生活に深刻な影響を及ぼしている実態が明らかになった。
「ユース世代」を対象にした支援活動に取り組むDxPは2012年に設立され、2015年に法人格を取得した。現在、アルバイトを含むスタッフは46名で、月額寄付を行う支援者は3400人以上。
13歳から25歳の「ユース世代」は、不登校やいじめ、家庭内不和や虐待、経済的困難や失業などさまざまな原因によって孤立する場合がある。特に日本では若年層を支援するための予算は割かれづらいことから、DxPは子どもや若者の孤立という社会課題の解決に取り組む。
主な活動として、大阪・道頓堀のグリコの看板下(通称「グリ下」)に集まる若者の居場所づくりを目的に、グリ下から徒歩5分の場所に「ユースセンター」を設置・運営。また、親を頼れず生活に困窮する全国の若者を対象に、食糧支援や金銭的支援を実施している。
さらに、ユース世代の子どもや若者を対象に、LINEを活用した進路・就職・生活相談サービス「ユキサキチャット」も提供する。
9割以上が物価上昇により食生活に影響今回発表された「給付型奨学生食糧支援プロジェクトアンケート」は、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が実施する給付型奨学金を受給している奨学生124名を対象に行われた。応募期間は2024年10月16日から同月29日まで。
その結果によると、「最近の物価上昇について、家計に対する影響はありますか?」の質問には約92%の奨学生が「苦しくなった」または「非常に苦しくなった」と回答している。
物価上昇が「奨学生」に深刻な影響…「食事を抜く」「長時間のア…の画像はこちら >>
9割以上の奨学生が「物価上昇により家計が苦しくなった」と回答(DxP 提供)
また、週に4日以上、朝食をとらない日がある奨学生は約48%。昼食は約22%、夕食についても約8%の奨学生が、とらない日が週に4日以上あると回答した。
そして、約51%の奨学生は、肉や魚などを食べない日が週に4日以上あるという。さらに、野菜や果物についても、同じく約51%の若者が週に4日以上は食べていなかった。
DxPは昨年11月から今年1月にかけて、アンケートに回答した奨学生らに食糧を発送。その後、94人の奨学生が追加のアンケートに回答し、うち約88%は、発送された食糧が生活状況の改善に役立ったと回答した。
経済的な問題に苦しむ奨学生の現状多くの奨学生は、奨学金で補填(ほてん)できない分の学費や食費・生活費を稼ぐためアルバイトをしている。アンケートの自由回答欄には、長時間アルバイトを続けたために体調不良で働けなくなった奨学生や、学業とアルバイトの両立が難しく成績不振になった奨学生の声が寄せられた。
また、奨学生の家庭は住民税非課税世帯など金銭的に困窮していることが多い。自由回答欄には「母子家庭であり父親からの金銭的援助は一切ない」「母親が障害者で父親も体を壊し働けず、生活保護を受給している」「母子家庭であったが3年前に母が亡くなった」などの困難な状況が記載されていた。さらに、働いて稼いだアルバイト代を親に取られてしまう奨学生もいる。
公的支援に関して「何が自分に適用されるかわからず、相談をどこにしていいのかもわからない」との悩みも寄せられている。ある奨学生は「非営利団体や公的サービスなど何かしらの形で支えてくれる団体や仕組みは存在しているが、しかしその情報にたどり着けない人がいる」と記載した。
DxPの今井紀明理事長は「社会保障制度について存在を知らない若者や、相談に抵抗感を抱いている若者も多い」と指摘し、「この国にはセーフティーネットがあるようで、ない」と表現する。
そして、経済的に問題のない家庭に育った周りの若者たちとの格差に悩む奨学生や、将来の返済を不安に感じる奨学生も多数いる。アンケートには「大学や専門学校など、学びの場の費用は全て無料にしてほしい」「大学までの授業料は国が全額負担するような制度があるとよい」などの要望も記載されていた。
103万円の壁の見直し、奨学金の増額を提言アンケートの結果を受け、DxPは「103万円の壁の見直し」と「給付型奨学金の給付金額の増額」を提言する。
現在では、年収が103万円を超えると所得税が発生する。奨学生にとって、所得税が発生するか否かは、税負担のみならず奨学金の受給資格や返済免除にも影響する。特に給付型奨学金を受給している場合、翌年の支給が減額・停止されるリスクもあるという。
奨学金は本来、入学金や授業料に充てることを目的としており、食糧品などの物価上昇とは直接の関係がない。しかし、物価上昇により奨学生らの家計支出が増えていることから、相対的には奨学金の必要性が増している、と今井理事長は指摘。さらに、近年では公立・私立を問わず大学の学費値上げが全国で拡大していることから、給付金額の増額が急務であるという。
「欧米各国に比べて、日本という国は、子どもたち・学生たちに予算を割けていない。民間による支援を広く募り、困窮状態にいる若者や学生たちを支える仕組みをつくりたい」(今井理事長)
DxPは、今後も給付型奨学生への食糧支援を継続する予定。現在、最大200名に3か月間の支援を実施するため、1000万円を目標として寄付を募っている。