国内3大メガバンクの一角を占めるみずほ銀行の行員(50代男性)が社内通報を機に5年もの自宅待機をさせられた上、懲戒解雇を命じられことに対して解雇が無効であることの確認と損害賠償を求めた裁判の控訴審判決が2月12日、東京高裁(相澤眞木裁判長)で言い渡された。
判決は、330万円の賠償金支払い(請求は1500万円)と懲戒解雇を有効とした昨年4月24日の一審判決(東京地裁)を維持するものだった。
社内通報を機に自宅待機、さらに懲戒解雇へ「働きたくても働けなかった」――。
関西圏の支店で勤務していた働き盛りの40代後半だった原告にとって、それは過酷な仕打ちだった。
2014年9月、原告は支店の上司が店頭から見える位置(席)で足を組み新聞を読んでいることに気付き、顧客から苦情があった旨も添えて支店長らにメールを送った。しかし、逆に上司から問題のある職員と見なされ、退職勧奨まで受けるようになったという。
自宅待機を命じられ、その期間は2016年4月から2021年5月までの5年以上に及んだ。一審、ならびに控訴審はこの期間のうち、2016年12月から2020年10月までの約4年間を不当な自宅待機と認定した。
自宅待機中は出勤できず、業務と呼べるものは朝夕1日2回の上司への電話、またはメールでの形式的な報告のみだった。
「実質的にみて、原告に対し退職以外の選択肢を与えない状態を続けたものといえ、 社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨であったといわざるを得ない」と判決でも指摘された自宅待機に加え、原告は合わせて11回も人事本部(東京、大阪)の個室に呼び出され、人事幹部による面談で繰り返し退職を強要され続けた。こうした会社側の対応により原告はうつ病を発症、現在も症状が続いている。
原告は不当な扱いを「みずほフィナンシャルグループ(FG)」の「社内コンプライアンス通報規定」に沿って、当時のFG会長やFGコンプライアンス責任者など経営陣にも通報したがその後、2021年5月27日付で懲戒解雇された。
判決一部評価も「懲戒解雇を有効としたことは大変遺憾」控訴審判決後に会見に臨んだ原告と代理人弁護士ら。中川勝之弁護士は一審とそれを維持した控訴審の判決について、許容される限度を超えた自宅待機命令を違法とし、慰謝料330万円の支払いを命じた点は「高く評価する」と述べた。
その一方で自宅待機期間中に「(出社等を求める)業務命令に応じていない」という被告側の主張を取り入れ、懲戒解雇を有効と判断したことについては、原告が不安定な精神状態であったことも踏まえ、「大変遺憾であり、不当だ」とも語った。
さらに、労働基準法19条(※)に基づいても解雇は無効であると主張していたが、「十分な判断がなされなかった」。
※労働基準法19条は「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間」等について「解雇してはならない」と定めている。
みずほ銀行へ「ガバナンスを取り戻す行動に踏み出して」代理人弁護士、そして原告が裁判を通じ繰り返し訴えていることは、銀行・FG側のコンプライアンスの不備だ。
中川弁護士は「被告は原告に対する違法行為について率直に反省してほしい」と述べ、さらに「メガバンクがこのような(ハラスメント)事態を引き起こしたことはわが国全体の深刻な問題」「国を代表するメガバンクにふさわしいガバナンス(健全な企業経営・管理体制)を取り戻す行動に踏み出してほしい」と求めた。
同代理人の笹山尚人弁護士も、「地裁と高裁が重ねて長期の自宅待機の違法性を認定した。この非常に重い判断をしっかり受け止めてほしい。こうした異常事態を二度と引き起こすことがないようコンプライアンス体制、ガバナンス体制を全面的に見直すべきだ」と述べた。
原告「最後まで戦いたい。上告したい」原告は会見の中で、「仕事を全く与えられず、隔離されていた。退職を強要されていることを社内規程に沿って会社や会長(当時)に対しても助けを求めたが、実態調査はなかった。なぜ調査が行われなかったのか、なぜ私にヒアリングをしなかったのか」と改めて銀行・FGに問うた。
なお原告は昨年5月24日、FG元会長に対しても、通報に対し適切な対応をとらなかったとして損害賠償を求め、東京地裁へ提訴している(現在係争中)。
不本意な自宅待機を余儀なくされた5年間。失われた年月を取り戻すためにも原告は、解雇の無効を求め「最後まで戦いたい。(最高裁へ)上告したい」と力強く語った。
一方のみずほ銀行は本件について、「判決内容を精査の上、今後の対応を検討してまいります」とコメントした。