「グーグル」日本法人による解雇に対し元従業員が仮処分命令の申し立て 業務評価項目の“あと出し”は無効と訴える

2月11日、昨年末にグーグル日本法人を解雇された元従業員が、突如として付け加えられた業務評価項目に基づく解雇は無効だとして、雇用契約上の地位の仮の確認と、賃金の仮払いを命じる仮処分命令の申し立てを、東京地裁に行った。
最初に提示されたものとは別の課題を後から足される今回の仮処分命令の申し立ては、2024年12月にアメリカの大手IT企業「Google」(以下「米国グーグル」)の日本法人である「グーグル合同会社」(以下「グーグル日本法人」)を解雇された元従業員男性が、解雇後の未払い賃金の支払いと雇用契約上の地位の確認を求めて行ったもの。
2022年にグーグル日本法人に雇用された男性は、2024年1月に行われた人事評価で低評価を受ける。同年2月から、男性を対象とする業務改善プログラム「PIP(Performance Improvement Program)」が開始。
男性には「社内でのコミュニケーション」「業務遂行速度」「製品に関する知識」の3点が、目標を達成すべき課題として掲示された。その後、男性は達成を目指しながら業務に従事し、上司からも「改善傾向にある」「順調である」との評価を繰り返し受けていた。
7月に実施された評価面談でも、目標の3点については「改善傾向」と評価された。しかし、それまで提示されていなかった「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)」の課題が突如として付け加えられ、これについて改善を示せなかったと評価されたことから、PIPが継続した。
10月中旬から、男性は繰り返し退職勧奨を受ける。断り続けたところ、11月11日付けで、12月12日を解雇日とする解雇通知が交付。また、解雇日を待たずして、社内システムへのアクセスができなくなった。
男性は労働組合に加入し解雇の撤回を求めたが、12月12日をもって解雇を強行された。
「『不良社員』を対象にした解雇理由には該当しない」グーグル日本法人は、男性が就業規則の「就業状態、または意欲が著しく不良で業務に適しないと認められるとき」に該当したことを、解雇理由として主張している。
具体的には、最初のPIPで掲示された目標3点やソートリーダーシップの欠如、また「分析力」の欠如が、解雇理由として挙げられている。
一方、原告側は、PIPで提示された目標3点は改善傾向にあるとの評価を受けていたこと、「分析力」は解雇されるまでの経過で言及がなかったこと、ソートリーダーシップについても具体的な達成目標が設定されていないなど客観的な解雇理由にはなりえないことを指摘し、就業規則が定める解雇事由に該当せず解雇が無効であると主張している。
13日に開かれた記者会見では、原告代理人の吉田健一弁護士が「会社側が掲げている就業規則はいわゆる『不良社員』を対象にしたもの」であると指摘したうえで、誠実に業務をこなし改善評価を受けてきた男性は「不良社員」にはまったく該当しない、と語った。
また、日本金属製造情報通信労働組合(JMITU)アルファベットユニオン支部(※)の小林佐保(さほ)執行委員長は、「『ソートリーダーシップ』とは具体的に何を意味するのか、団体交渉で何度も説明を求めてきたが、いまだに明確な説明が得られていない」と指摘した。
※ 2015年より、米国グーグルは持ち株会社「Alphabet(アルファベット)」の傘下となっている。
「原告と組合活動を共にする中で、非常に真面目で、細かいところに気の回る優秀な人物だと感じている。とうてい、『意欲が著しく不良』といった表現が当てはまるとは思えない。
(会社と戦う)原告には勇気がある。こうした勇気のある人物を孤立させてはいけない」(小林執行委員長)
原告男性は「グーグルは憧れの企業だった。入社以来、すてきな日々を過ごしていた。しかし、2024年の出来事(PIPや解雇)によって、はしごを外されたように感じた」と語る。
「7月のPIPから3か月間、必死に努力して、課題を改善した。それなのに、いきなり曖昧(あいまい)な目標を課せられた。ソートリーダーシップとは何なのか、理解しようと努め、途中では上司からも評価されたが、結局は解雇された。
このような理不尽なPIPや解雇に泣き寝入りすることはできない。他のグーグル社員に対して、そして他の外資系企業においても同じようなことが起こらないよう、徹底的に戦い、公正な評価と解雇の撤回を求めていく」(原告男性)
「ジョブ型人事」が退職強要に利用される近年、日本政府は「ジョブ型人事」を促進している。しかし、JMITU本部の三木陵一執行委員長は、「ジョブ型人事は『人材の新陳代謝や労働力の入れ替えを加速させて企業を活性化させる』という名目のもとに、解雇が当たり前の企業体質を作ってしまう」と指摘する。
「今回の事件もジョブ型人事を利用したもの。最近では、PIPは外資系企業に限らずIT企業や大企業の間でも急速に広がりつつある。
だがPIPは、企業側にとっては雇用破壊や退職強要のための武器になっている。(それを問う点で)今回の申し立ては社会的な意義が大きい」(三木執行委員長)
2023年1月、米国グーグルは全世界で約1万2000人の従業員を解雇すると発表。同年3月、グーグル日本法人は対象となった従業員らに対し退職勧奨を行った。
今年1月31日、勧奨に応じなかった社員らに不当な扱いをしたとして、グーグル日本法人に総額約6300万円の損害賠償を求める訴訟が提起されている。また、育休・産休中の従業員にも退職を強要したことに対しては抗議の署名が約1万6000筆寄せられており、労働局による行政指導も行われた。
関連記事:「グーグル」日本法人の“退職勧奨”は違法として従業員らが提訴 約6300万円の損害賠償を請求
小林執行委員長は「グーグル日本法人で起きている、雇用に対してあまりに無責任な問題は、現地の法律に照らし合わせてコンプライアンスチェックを行う体制が不足している点に原因がある」と分析する。
「アメリカの感覚で解雇の判断が行われ、日本の視点でのチェックが入らないまま実行されていると感じる。
政府はジョブ型人事を推進しているが、その行き着く先を、日本の法律を軽視するものにさせてはいけない」(小林執行委員長)
本件についてグーグル日本法人にコメントを求めたが、現在まで回答は得られていない(13日午後6時時点)。

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