「おむつを替える回数を少なく」「粉ミルクを薄くして飲ませる」 生活状況調査「貧困家庭における“乳幼児”の子育て」実態が明らかに

2月12日、公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」は「経済的に困難な状況にある世帯の乳幼児の生活状況調査」の結果を発表。経済不況や物価高騰の影響を受け、子育てに苦しむ親たちの厳しい現状が明らかになった。
調査の概要セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(以下「SCJ」)は、世界約120か国で子ども支援を専門的に行う国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の日本組織で、1986年に設立された。
SCJは2010年から「子どもの貧困問題解決事業」を行っている。具体的には、給食のない長期休みに食料品を届ける「子どもの食 応援ボックス」、妊娠中のひとり親や若年女性らに育児用品を無償提供する「ハロー! ベビーボックス」、経済的に困難な世帯を対象に中学・高校の入学に関わる費用の一部を支援する「子ども給付金 新入学サポート」などの取り組みを実施。
今回発表された調査結果は、全国のSCJの支援事業利用世帯のうち、3歳以下の乳幼児がおり経済的に困難な状況にある約500世帯(非課税世帯や児童扶養手当受給世帯など)を対象に、2024年夏に実施されたアンケートに基づくもの。
子育て必需品を購入することも困難調査の対象となった世帯の約49%が、経済的な理由により紙おむつを買えなかった経験があると回答。うち約75%は、おむつを替える回数を少なくする対応をとったという。
また、約40%が、粉ミルクを買えなかった経験があると回答した。うち約41%は粉ミルクを薄くして子どもに飲ませる、約28%が粉ミルクをあげる量を減らす、約27%は粉ミルクをあげる回数を減らす対応をとったと回答している。
希望する支援については「定期的な紙おむつやおしりふき、離乳食など赤ちゃんに必要な消耗品の受け取り」との回答が約87%と最も多く、乳幼児を養育するための必需品も満足に買えない家庭が多く存在する実態が浮き彫りになった。
SCJ国内事業部の川上園子部長は「赤ちゃんの健康や衛生、発育などに非常な悪影響がある」と危惧を示した。
孤独感を抱え、相談する相手もいない…調査対象の約72%は、育児に関して孤独感を抱くことがあると回答。「経済的な理由から適切な養育ができていないのではないかと思ったことがある」との回答も49%にのぼった。
また、母子保健法に基づき市町村が行う乳幼児健康診査では、子どもの健康や発達に関することのほか、生活や経済に関する不安や悩みごとについても相談が可能とされている。しかし、調査では「相談しようと思わなかった」や「相談したが、解決しなかった、気持ちが楽になることはなかった」などの回答が合わせて6割を超え、相談機能が十分に機能していないことが示唆された。
配偶者・パートナー以外で経済的に頼れる相手がいないと回答したのは約72%。「頼れる家族や親族がいる」と回答したのは約26%のみ。回答者の約7割がひとり親世帯であることから、妊娠・出産や産後の大事な時期にも、経済的不安を感じながら孤独に子育てを行っている親が多くいることがうかがえる。
生活保護について「利用している・利用したことがある」と回答したのは約22%。約37%は「利用するのに抵抗感があった」、20%が「利用の仕方がわからなかった」または「制度やサービスについてまったく知らなかった」と回答している。
SCJ国内事業部の北見美代氏は「生活保護制度そのものの認知が進んでいないことが課題となっている」と指摘した。
現物支給の拡大や相談対応の強化を提言SCJ国内事業部の田代光恵氏は、こども家庭庁をはじめとする関係省庁や全国の自治体に向けて、調査結果をふまえた四つの提言を発表した。
第一の提言は「経済的に困難を抱える世帯に紙おむつや必要に応じて粉ミルクなどの支援を」。一部の自治体では育児用品の定期的な支給がすでに実施されているが、乳幼児の健康に直接的に関わる問題であることから、全国的な取り組みを早急にスタートするよう求めた。
第二の提言は「紙おむつなどの支給と自治体担当者の訪問をセットにし、定期的な見守りを」。特に支援が必要な世帯については保健師や担当者が直接訪問することで、保護者との間に信頼関係が築かれ、必要な際には関係機関につなげるなどの効果的な支援が実現しやすくなるという。
第三の提言は「母子保健と児童福祉が連携し、相談しやすい対応の強化を」。乳幼児健診などにおいて保護者が相談しやすい環境をつくる、経済的な支援制度や地域の支援活動に関する知識を保健師が身に付けるなど、取り組みの必要性を訴えた。
第四の提言は「特に支援が必要な世帯に保育所などの優先的利用を」。経済的に困窮しているが就労意欲のある層が確実に子どもを預けて働くことができるよう徹底的な対策を求めるほか、子育て中の孤独感や育児不安を解消するために、行政の側から保育園の利用を促すなどの対応も必要であるという。
田代氏は「子どもたち自身は声を上げることはできない」と指摘し、国や社会に取り組みを求めることの重要性を強調した。
「体験格差」の拡大も深刻2000年頃から子どもの貧困問題を研究し続けている長崎大学教育学部の小西祐馬准教授は「これまで拾われてこなかった声・データが多数集められており、類似の調査がないという点でも非常に意義のある結果だ」と講評した。
研究が進んでいる欧米では、乳幼児期の貧困問題は将来にわたって重大な影響を生じさせることから、特に対処が必要であるとの理解が浸透しているという。
また、調査の結果、動物園や水族館への来園・来館、海水浴やテーマパークなどの体験活動についても、経済的な理由から制限されている世帯が多数存在することが判明した。小西准教授は、体験活動は子どもの自己肯定感や将来の生き方の可能性にも関わると指摘し、「体験格差」が広がる現状に危惧を示した。
「子どもは、生まれながらにして権利を持っている。
乳幼児は意見が言えない。しかし、泣いたり叫んだりすることで『食べたい』『清潔になりたい』『遊びたい』と要求している。その声に、大人は応えなければならない」(小西准教授)

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