沖縄戦から80年、戦争を知る世代が県人口の1割を切る中、平和のための資料館や美術館など8施設でつくる「沖縄・平和と人権博物館ネットワーク」が設立された。
忘れてはならない記憶の継承を目的とする施設が連携し、学徒隊、疎開、ハンセン病など多面的・重層的に平和発信を図ろうとの試みには大きな意義がある。
設立を呼びかけたのは、ひめゆり平和祈念資料館の普天間朝佳館長と、対馬丸記念館の平良次子館長。
賛同した南風原文化センター、ヌチドゥタカラの家、愛楽園社会交流会館、佐喜眞美術館、不屈館、県平和祈念資料館の計8施設が名を連ねる。
9日に開かれた設立会議では「戦争の凄絶(せいぜつ)さ、戦後の米軍政下の体験から希求した命の尊さ、人権の大切さを発信する」取り組みの必要性が確認された。
なぜ今、ネットワークなのか。
背景にあるのは、ウクライナ危機や中国脅威論から「軍事力を強化すべき」「抑止力を高めよう」などとの声が、地上戦を体験した沖縄でも聞かれるようになったことである。特に若者の意識の変化に危機感を持つ。
家族に戦争体験者がいない世代で、沖縄戦についても聞く機会がない。
若い世代ほど米軍基地や軍備強化を容認する傾向にあるのは、沖縄戦やその後の米軍統治など歴史体験の違いによるところが大きい。平和教育の在り方も問われている。
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安全への脅威が対抗措置を求める空気を生むが、抑止力を過信し防衛力増強を続ければ、「安全保障のジレンマ」に陥り、地域の緊張は高まる。
もし戦争が起きたとき、犠牲になるのは誰なのか。
沖縄戦では敵を攻撃すれば数倍の反撃が返ってきた。島が再び戦場化すれば住民犠牲は避けられない。
会議では「戦争体験者から受け取ったものを、うまく次世代に渡せていないのかもしれない」という葛藤のような言葉もあった。
2021年、ひめゆり平和祈念資料館がリニューアルした際のテーマは「戦争からさらに遠くなった世代へ」だった。若い世代へ伝わるようイラストなどを使い展示内容を刷新した。
県平和祈念資料館の更新作業も「自分に引き寄せて考えることができる展示」を課題に位置付けている。
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とっつきにくいと感じるテーマを分かりやすく、深く伝え、考える機会をつくり出していく。各施設が自分たちの取り組みを持ち寄り、相乗効果を生み出していくことを期待したい。
共通テーマを8施設がそれぞれの切り口で展開する横断的な取り組みがあってもいい。参加型の企画は体で感じるという意味で有効だと思う。
沖縄戦体験の継承は社会全体の課題であり、それこそ館を超えて取り組んでいく必要がある。
「平和・人権」という普遍的価値を沖縄から発信してほしい。