東京女子医科大・元理事長「実刑にならない」可能性? 悪質な背任行為も…“間に合わなかった”法改正

東京女子医科大学の新校舎建設工事をめぐって先月13日に背任容疑で逮捕された元理事長・岩本絹子被疑者が2月3日、別の工事でも建築士へ不正な報酬を支払っていたとして、背任容疑で再逮捕された。
報道によれば、背任容疑での立件額は、2度の逮捕で合わせて約2億8700万円に上るという。
特別背任ではなく、より“軽い”背任で逮捕された理由経営陣による過去の有名な背任事件といえば、次のようなものがあげられる。
大王製紙事件(特別背任、元会長に懲役4年の実刑判決)イトマン事件(特別背任、元代表取締役に懲役7年の実刑判決)北海道拓殖銀行事件(特別背任、元頭取らに懲役2年6か月の実刑判決)カルロス・ゴーン事件(特別背任、起訴されたが海外逃亡のため公判手続き停止状態)上記のように、取締役など責任ある立場の人が、任務に背く行為によって会社へ財産上の損害を与えた場合には「特別背任」の罪に問われることが多い。
刑法において、その法定刑が「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」であるのに対して、今回、元理事長の逮捕容疑となっている単純な「背任罪」の場合は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」と大幅に“軽い”。理事長という立場も、組織における責任は重大だと言えるが、なぜ特別背任ではなかったのか。
元特捜検事で企業法務に詳しい日笠真木哉弁護士は、次のように説明する。
「会社役員などの場合、会社法960条および961条に規定された特別背任罪に問われることになります。一方、元理事長は背任行為によって東京女子医科大学に損害を与えたとされるため、私立学校法が適用されます。しかしながら、本件犯行当時の私立学校法には、背任罪を処罰する規定がありませんでした。よって、刑法上の単純背任罪を適用できる犯罪行為での逮捕に至ったのだと思います」
私立学校での不祥事が相次ぎ法改正特別背任罪は、会社法以外に一般社団法人法などにも規定されている。報道によれば、警視庁は昨年3月、同大学同窓会組織の職員に対する給与の支払いについて、不透明な資金支出が行われた疑いが強まったとして、一般社団法人法の特別背任容疑(法定刑は7年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金)で家宅捜索に入っていた。これについて、日笠弁護士は以下の見解を示す。
「捜査機関としても、本当は特別背任で逮捕したかったと思います。ただし家宅捜索などによって、特別背任罪よりも背任罪を適用できる犯罪行為のほうで、より手堅い証拠が出てきたのではないでしょうか。
今のところ、元理事長は背任罪でのみ逮捕・再逮捕されていますが、今後、特別背任罪を適用できる行為について証拠がそろえば、そちらで再逮捕される可能性もあると思います」
なお私立学校法をめぐっては、日本大学幹部による背任・脱税事件など不祥事が相次いで発生したことを受け、学校法人の役員らによる背任行為や贈収賄に対する刑事罰を定めた改正法が2023年4月の参議院本会議で可決、成立。特別背任の法定刑は「7年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその両方」で、今年4月1日に施行される。
被害額は莫大だが…「執行猶予がつく可能性も高い」元理事長がこのまま単純な背任罪でのみ起訴された場合の量刑について、日笠弁護士は「損害を与えた分の金額をすべて返還できたとすれば、執行猶予がつく可能性も高い」という。
「今回の事件は、組織の責任ある立場の人が背任行為をしたけれど、法律上は特別背任の規定がないため背任容疑で逮捕されたという特殊な事案です。よって、形式的な量刑相場をお話しすることは難しいですが、罰則が重く実刑になりやすい特別背任罪に対して、背任罪は被害者の損害が回復していれば、執行猶予もつきやすいと思います」(同前)
報道によれば、元理事長の自宅や関係先からは多額の現金や大量の金塊が見つかっているといい、その額は約4億円相当とも言われている。
「私が元理事長の弁護人なら、もし現在逮捕されている事案以外にも背任行為をしていたとすれば、捜査機関へ発覚の前に被害額を全額返還するようすすめると思います。
逮捕の度に、その分を返すほうが手出しは少なくて済むかもしれませんが、毎回逮捕されるリスクは高くなり、ずっと釈放もされません。
捜査機関側も、できるだけ立件額を増やそうと一生懸命に捜査しています。先回りして返還し、できるだけ逮捕される可能性を少なくするほうが合理的でしょう」(日笠弁護士)
元理事長の逮捕後、報道各社が“女帝”と呼んだように、背任に手を染めた背景には独裁体制があったとされる。東京女子医科大学は再逮捕を受け、3日に声明を発表し、「全教職員のコンプライアンス意識の醸成をはじめガバナンス体制の再構築に取り組んでまいります」とコメントしている。

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