「退職者増加に拍車が掛かっている」――。
看護師、介護士ら医療・介護現場で働くケア労働者の低過ぎる賃金の改善を求め、日本医療労働組合連合会(医労連、加入人員数約16万人)は、全国の3000か所以上の病院・診療所等に呼び掛け、3月13日に全国統一ストライキを行うことを決めた。
2月10日には医労連幹部が東京都内で記者会見を開き、ストライキを行わざるを得ない医療・介護現場のひっ迫した実情や、ストライキの実施方法などを語った。
低賃金「大量離職、医療崩壊にもつながりかねない」記者会見で医労連の佐々木悦子中央執行委員長は、看護現場の実態調査を紹介するとともに、危機感を募らせた。
医労連が全国で行った「看護職員の入退職に関する実態調査」(昨年4~5月)によると、調査した32都道府県・125施設のうちの約7割(67.2%)にあたる84施設から、看護職員が「充足していない」との回答があったという。
さらに、看護職員が不足している医療機関の半数(51.2%)が「患者サービスの低下」につながると回答している。
こうした状況に佐々木委員長は、「(医療現場から)看護師の離職が止まらない、という声を聞く。離職を止めて人材を確保しなければ病棟閉鎖や病棟数の削減が進み、地域住民が必要な時に必要な医療を受けることができない状況となり、医療崩壊につながる」と訴えた。
大量離職の原因とも言えるのが、ケア労働者の低い賃金だ。
全国の医療機関・介護施設の昨年の年末一時金(ボーナス)支給では、大幅引き下げの回答が続出した。
日本労働組合総連合会(連合)の昨年の年末一時金は、同会HPによると組合員1人あたり74万1142円(昨年同時期73万8017円)。一方、ケア労働者については、医労連によると、559の加盟組合のうち451組合から回答があり、正職員で昨年実績から5万998円マイナスの47万6185円となった。
昨年春の賃上げ状況も、全産業の平均が1万1961円であるのに対し、医療福祉の平均はそのおよそ半分の6876円となった。
ストライキは「国に対する要求行動」サービス向上や新商品開発などにより利益を追求できる民間企業と異なり、財源を国の公定価格、社会保障関係費の診療報酬・介護報酬に頼る医療・介護機関。
医労連など関係する労働組合は、ケア労働者の賃上げを公費で行うことなどを求め、昨年11月13日には、財務省などの前でもアピール行動を行った。春闘の回答指定日(3月12日)の翌日に設定している全国統一ストライキもその一環だ。
記者会見でストライキの目的・意義について医労連の森田進副執行委員長は、「使用者に向けたストライキであると同時に、政府に対しての要求行動でもある。国の制度・政策を変えない限りわれわれ(ケア労働者)の賃上げは成り立たない」と強調した。
事業所の決議を「可視化する」取り組みも医労連には加盟する900から1000ほどの単組支部、さらにその支部のもとに医療機関、介護事業所、調剤薬局等があり、そうした事業所単位の総数は3000を超えるという。
全国統一ストライキに向け、医労連は特設サイトを設け、日本地図(イラスト)上にストライキ決議を行った全国の事業所を“マッピング(印をつける)”していく(http://irouren.or.jp/strikemap/)。
「地図上にマッピングされていく状況を確認することでストライキに向けた流れを『可視化したい』」(森田副委員長)
また、期間限定でLINE上に「オープンチャット」(メッセージのやり取りサービス)も開設。ストライキを行う事業者からの相談などを医労連の担当者が可能な範囲で返答する。
さらに、現在オンライン署名サイト「change.org」上では、看護・介護サービスを利用する国民らに向け、署名も募っている。
ストライキは患者・利用者の安全、安心に最大限配慮昼夜を問わず、24時間・365日態勢で献身的に看護・介護にあたるケア労働者たち。処遇改善のためのストライキとはいえ、目の前の患者が“放置”されるようなことがあってはならない。
当日までに、ストライキを行うことを都道府県知事等へ届け、ストライキは患者・利用者の安全、安心に最大限配慮するとしている。
ストライキは命に関わるような部署等では行わないほか、組合員以外または組合員の中から指名する職員に「保安要員」を選任し、危急の患者への対応は行う。ストライキ中は、たとえば、患者・利用者の入浴などは少し待ってもらうことになるという。
前述したオンライン署名サイトでは、国民に向けこう記している。
「患者さんや利用者さんをケアしたい思いでこの職業に就きました。迷惑を掛けたくない思いでいっぱいです。ストライキに決起することも苦渋の決断でした。患者さん、利用者さんの安全・安心に影響が出ないように最大限配慮をしながらストライキの準備を進めます」