各社があの手この手で顧客を奪い合っている脱毛サロン業界。そうした中、全国47都道府県で100店舗以上を展開する某メンズ脱毛サロンAで展開されている広告について、SNS上では「やりすぎ」といった声が上がっている。
X上では「もはや風俗店の広告みたい」の声競争激化によるものなのか、顧客獲得戦略の一環なのか、その理由は定かではないが、Aの名前で展開されている広告には、アダルトな表現を用いたものも目立つ。
当該の広告を見たであろうX(旧Twitter)のユーザーらは、「水着だか下着だかになっている」「明らかに性的な含みのある広告」といった感想を投稿。
その過激さから、なかには「もはや風俗店の広告みたいになっている」「スタッフからしたら勘違いした客が来て迷惑なのでは」との指摘もあがっているほどだ。
公式HPではお笑い芸人起用、広告の意図を取材も…ただ、Aの公式HPは、上述した投稿で指摘されているような、過激でアダルトなテイストは一切感じさせない作りになっている。
イメージキャラクターを務めるお笑い芸人の画像やWEB CM、料金表などが並んでおり、ごく一般的な脱毛サロンのサイトだ。
SNS上で指摘されているアダルト要素を含んだ広告は、実際にAによって展開されているものなのか。そうだとすれば、どのような意図があるのか――。弁護士JPニュース編集部では、この点についてAの運営会社にコメントを求めたが「取材には応じられない」との回答であった。
厳しい業界事情、倒産件数は過去最多を更新回答がないため、同社の関与は不明だが、脱毛サロン業界を取り巻く環境の厳しさが、グレーな広告を展開する一因となった可能性はありそうだ。
帝国データバンクが昨年12月に発表した調査結果によると、脱毛サロン業界では昨年1月から11月までの間で12件の倒産が発生。
さらに、この発表のあった昨年12月には医療脱毛大手「アリシアクリニック」を含む2件が倒産し、年間の累計倒産件数は過去最多を更新した。
アリシアクリニックの倒産は9万人に影響を与えたといい、また、脱毛サロンの利用者のうち、直近2年間で少なくとも27.1万人が経営破たんによる被害を受けたとしている。
同調査では、倒産件数が増加した原因について、業界内の競争激化や芸能人を起用した広告費による負担増を指摘。
「新規顧客の獲得を図ろうと知名度の高い芸能人を起用するなど、宣伝広告に資金を投入したものの計画通りに進まず、出店費用など固定費の回収や店舗運営などの資金調達が困難になって事業継続を断念する脱毛サロンやクリニックの倒産が目立っている」と結論づけた。
脱毛サロンが広告で“性的サービス”示唆すれば法に抵触する可能性も…X上では、「こういう広告を取り締まれないの?」といった声も見られるが、果たして法的な問題は存在するのだろうか。
消費者問題や企業法務に詳しい宮寺翔人弁護士は、脱毛サロンが性的なサービスを思わせる広告を出すことについて、「景品表示法や特定商取引法に抵触する可能性がある」と指摘する。
「事業者が消費者向けに広告を行う場合には、景品表示法の広告規制が適用されます。
“アダルトな表現”がどの程度なのかにもよりますが、脱毛サロンが性的なサービスを提供するわけがないでしょうから、不当な表示の禁止(同法5条)に該当する可能性が考えられます。
また、1か月を超える期間にわたって脱毛サービスを提供する場合には、特定商取引法に定義される『特定継続的役務提供』に当たります(同法第41条)。
この場合、実際には行われない性的なサービスを示唆した広告を掲載することは、役務の内容について、著しく事実に相違する表示にあたるとして、誇大広告等の禁止(同法第43条)に該当する可能性があるでしょう」(宮寺弁護士)
もしも“誤解”した客がサロンを訴えたら…?では、万が一にも、SNS上の広告を見た客が、性的サービスの提供があると誤解してAを利用し、「そのようなサービスはなかった、詐欺ではないか!」と訴えた場合、裁判ではどのような判断が下されることになるのだろうか。
宮寺弁護士は「一般論にはなりますが」と前置きしつつ、次のように解説する。
「契約の取り消しについて争う場合を想定してみますと、景品表示法の違反に対しては、措置命令や課徴金納付命令などの行政処分が行われますが、個々の契約については、景品表示法違反があったとしても、当然に解約(詐欺取り消し)が認められるわけではありません。
一方で、『契約の重要な事項についてうそがあった(不実告知)』場合には、消費者契約法に基づき契約取消できる可能性があります。
また、特定商取引法違反に該当するケースですと、訴訟ではありませんが、クーリングオフで対応することができますし、上記と同様に不実告知があったとして契約取消権(同法49条の2)を行使することも考えられます」(宮寺弁護士)
ただ、必ずしもこうした訴えが認められるわけではないようだ。
「あくまでも私見にはなりますが、仮に事業者がそのような表示をしていたとしても、脱毛サロンの広告から性的サービスを期待することが正当ともいえません。
よって、表現の程度によっては、重要な事項についてうそがあったといえるかどうかが裁判で争点となり得るかもしれません」(同前)