東海道五十三次の県内にある地点ごとに注目のスポットなどを取り上げる企画(随時掲載)の今回は、静岡県内22か所ある中で16番目の「掛川宿」。伝統工芸の葛布(くずふ)が伝わる地域で、素材となる植物の「葛」は繁殖力が強く、一部で悩みの種となっていた。工房を営む「小崎葛布工芸」が編み出した方法がSDGsだけでなく、後継者育成にもつながっていると知った。
小崎葛布工芸に並ぶ伝統工芸品を手に取った。「葛」は江戸時代に掛川藩でも食材に用いられ、この地でなじみのある植物。繊維にするには選別した茎を煮て、水につけ、発酵した上で表皮と茎を取り除く必要がある。取れる量は原材料の10分の1ほど。ただ、上品な光沢で涼やかさも感じさせる一品を見ると、その手間も納得だった。
小崎隆志代表に話を聞いた。差し出された名刺を見ると「伝統工芸保全と地球環境保護の一環で名刺の一部に未利用資源である葛を利用しています」と記されていた。葛布ならぬ葛紙。小崎さんが見いだしたSDGsにつながる取り組みだ。
始まりは約10年前、東名高速道路付近に生い茂った葛の有効利用の相談だった。「根は葛根湯、茎は繊維、花は二日酔いの薬と余すことないが、繁殖力がすごいことから米国では『グリーンモンスター』と呼ばれている」と小崎さん。焼却するしかなかった植物を紙にする発想は約3年前に形になった。二酸化炭素削減につながる取り組みは、まず名刺として実現。今では大手通信会社のソフトバンクなど約30社が使用。今後は市内の小・中学校の卒業アルバムでも使われる予定で、着々と軌道に乗っている。
利益は伝統工芸保全に充てられる。伝統産業が抱える問題の一つとして職人の後継者不足がある。葛布の工房は2軒に減少。工房の職人は10人いるが、最高齢は90代で最年少は40代半ばと高齢化が進む。人材確保のため、美大生を対象にした体験教室を開催したが「やりたいと言ってくれる人がいても、小さい会社なので育成にかかる費用を捻出する余裕がない」のが実態だ。小崎さんは「伝統を次世代につなぐためには、現代のニーズにあった取り組みをしていく必要がある」と決意を明かした。(伊藤 明日香)
◆掛川宿 東海道26番目の宿場町。室町時代に築城された掛川城を中心に繁栄していた。明治維新に伴い廃城となったが1994年に日本初の「本格木造天守閣」として復元。940年(天慶3年)、藤原秀郷により討伐された平将門一門19人の首を弔った「平将門十九首塚」もある。
◆小崎葛布工芸 営業時間は午前9時から午後5時(日祝は午前10時から開始)。定休日は火曜。住所は掛川市城下3の4。JR掛川駅から徒歩8分。