JR東日本は久留里線の末端区間である久留里~上総亀山間の廃止を表明しました。JR発足時、輸送密度で823人/日だった同区間は、現在は64人/日。行き止まり路線の末端の利用状況を見てみます。
JR東日本は2024年11月27日、木更津~上総亀山間32.2kmを結ぶ久留里線のうち、末端区間となる久留里~上総亀山間9.6kmについて「新たな交通体系」の検討結果を公表し、事実上の廃止方針を示しました。
廃止やむなし? JR久留里線「末端区間」には何があるのか ご…の画像はこちら >>JR久留里線のE130系気動車(2024年12月、安藤昌季撮影)。
同区間の1日あたりの平均通過人員(輸送密度)は、JR東日本が発足した1987(昭和62)年の823人/日に対して、2023年は64人/日。100円の収入を得るのに1万3580円の経費を必要とする、同社で最大の赤字区間です。同区間は1日17本の列車が運行されていますので、1列車平均では3.8人しか乗車していないことになります。
存続する木更津~久留里間も、1987年の1日あたりの平均通過人員が4446人/日だったのに対し、2023年は1072人/日と、こちらも大幅な減少です。ただし、同区間の1日17往復は1987年から変わりません。
JR東日本は久留里線に対して、イベント列車の運行や「駅からハイキング」などの利用促進施策を行い、2012(平成24)年には新型気動車キハE130形100番台も投入しました。路盤をコンクリート枕木へ交換するなど、安全性への投資も行ってきました。増加する赤字の中でも経営努力を重ねてきたといえます。
しかし、地元自治体とJR東日本が久留里線末端区間について話し合う「沿線地域交通検討会議」では、「自動車中心の交通体系への移行により、より利便性の高い地域公共交通が実現する」という報告書が出され、廃止は避けられない情勢です。
では現地の今はどうなっているのでしょうか。
久留里~上総亀山間は下り8往復、上り9往復のみの運行で、日中では最大5時間39分も列車がない時間帯があります。
上総亀山は亀山湖や温泉もある立地ですが、東京~上総亀山間で乗車しようとすると、例えば東京駅5時55分発の快速で千葉駅に6時33分着、6時45分発の快速で木更津駅に7時22分着、7時25分発の久留里線で上総亀山駅8時33分着となり、東京からだと2時間38分、千葉からでも1時間48分という距離感です。
ちなみに千葉駅と鴨川市を結ぶ高速バス「カピーナ号」は、上総亀山駅から徒歩6分の亀山・藤林大橋を経由し、久留里線の駅がある松丘、平山、久留里にも停車します。しかも、千葉駅を列車より遅い6時50分に発車して、亀山・藤林大橋に8時10分着(所要1時間20分)です。
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上総亀山駅は木造駅舎とトイレだけの設備(2024年12月、安藤昌季撮影)。
東京駅からでも、例えば10時10分にバスターミナル東京八重洲を出る高速バス「アクシー号」は、上総亀山駅から徒歩20分ほどの笹に12時8分着(所要1時間58分)ですから、対東京、対千葉ともに高速バスの利便性が勝ります。
筆者(安藤昌季:乗りものライター)は土曜日、安房鴨川駅12時50分発の「カピーナ号」に乗り、亀山・藤林大橋13時13分着で亀山に入りました。なお、東京と鴨川市を結ぶ「アクシー号」の場合は、東京から上総亀山に入る場合は笹で降りられますが、安房鴨川発だと笹では下車できないので注意が必要です。
上総亀山駅に近づくと、途切れている線路が見えました。計画では、小湊鐵道と国鉄木原線(現・いすみ鉄道)の上総中野駅まで延伸されるはずだった線路ですが、もうその日は来ないでしょう。
上総亀山駅前には酒屋以外の商店はありません。駅は木造駅舎とトイレだけの設備ですが、トイレは綺麗に保たれていました。元々は1面2線+側線があった駅です。現在では1面1線の棒線ですが、22時到着の最終列車は滞泊して翌朝6時に折り返します。
13時20分ごろに到着した駅には3人の鉄道ファンがいて、駅設備を撮影していました。14時11分の列車到着前には、クルマで駅に来た鉄道ファンが増えました。
列車が到着すると、予想以上に多くの人が降りてきました。数えると147人。家族連れもいます。普段は1列車平均3.8人の区間ですから、ほぼ全て廃線を聞いて乗車した人々ではないでしょうか。
定期券を車掌に見せていたのは2人でしたから、これが普段の利用客数だと思われます。久留里線はSuicaなどの交通系ICカードは使えないため、乗り歩きで便利なのは自動券売機で買えるフリーきっぷ「休日おでかけパス」(2720円)です。
降りた乗客の一部は駅を離れました。宿泊施設は亀山温泉ホテルだけですが、立ち寄り湯もあるので、行楽地としては楽しめます。大半が折り返し列車に乗車し、上総亀山14時27分発の列車には92人が乗車。3扉ロングシートのキハE130形の座席は大半が埋まりました。筆者も同乗します。
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平山~久留里間。カーブが多く、川を越え野を越えといった車窓(2024年12月、安藤昌季撮影)。
車窓右側は田園風景、車窓左側には小櫃川が流れますが、川は列車からはあまり見えません。踏切を越えると森が深くなりました。ほぼ人家を見ないまま、14時34分に上総松丘駅着。かつては交換設備があった駅で、ホームの跡も残っています。乗降はありませんでした。
列車はカーブが多い区間を30~40km/h程度で走ります。ソーラーパネルと田んぼが森の中に見え隠れしますが、人家はあまり見えません。14時35分に小櫃川を鉄橋で越え、14時39分に平山駅到着。待合室だけがある1面1線の無人駅ですが、おじいさんが列車にカメラを向けていました。
車窓右側は平山の集落です。集落から離れると水路を鉄橋で越え、大きくカーブ。14時54分に久留里駅に到着しました。ここまで下車客はなく、上総亀山~久留里間の乗客はほぼ鉄道ファンだったと思われます。
筆者は木更津駅に戻り、折り返しの15時53分発の上総亀山行きに乗車しましたが、こちらは36人が乗車。当日は土曜日でしたが、見たところこの列車では鉄道ファンを含む行楽客はそれほど多くなく、久留里駅から上総亀山方面への継続乗車は20人でした。
末端区間を利用しての感想ですが、駅の近辺にはそれほど人家がなく、この地域では予約制デマントタクシー「きみぴょん号」も300~500円で利用できるため、観光利用以外の鉄道利用客は望めないように映りました。沿線地域交通検討会議の「自動車中心の交通体系への移行により、より利便性の高い地域公共交通が実現する」を否定しがたいと感じます。
一方の木更津~久留里間は学生を含む地元利用客もそれなりに見られ、こちらが存続できるよう願う次第です。