化学メーカーDIC(東京都中央区)は26日、千葉県佐倉市で所有・運営するDIC川村記念美術館(同市坂戸)を東京都内へ縮小移転する方針を発表した。国内屈指の現代美術コレクションで名高い同美術館のあり方について資本効率の観点などを踏まえて検討した結果、保有作品を4分の1まで減らした上で、集客増が見込める都内での運営が望ましいと判断した。現在の美術館は来年4月に休館する予定。現地存続を求めて同市主導の署名運動も展開されてきたが、佐倉での開館から30年超の歴史に幕を下ろすこととなった。
佐倉市の西田三十五市長は同日にコメントし、署名への協力などに謝意を示した上で、「力及ばず市内からの移転が決定したことは大変残念であり、大きな喪失感がある」などとした。
この日の同社取締役会で移転方針を最終決定した。移転先の詳細は交渉中であるとして都心部の「公益性が高い団体の施設」との説明にとどめた。移転後はこの団体と連携して運営する考えで、来年3月末までの公表を目指すとしている。
保有作品は4分の3を売却する方針で、一部は来年にも着手し、少なくとも100億円の収益を見込む。一方、移転後の敷地内の庭園などの利用については同市と協議していくとした。
美術館を巡っては、運営のあり方を審議するため社外取締役らでつくる「価値共創委員会」を今年4月に創設。同委員会から「現状のまま美術館を維持、運営することは難しい」との助言があり同社は8月、資産効率の観点から都内への縮小移転を軸に検討を進めるとの中間報告を公表、運営中止も選択肢に含めて年内に結論を出すとしていた。
一方、佐倉市は地元財界代表や市内にある国立歴史民俗博物館の館長らと9月から11月末まで現地存続へ署名活動をし、国内外から5万8千筆超を集めた。西田市長らが署名簿を手に同社本社で幹部に“直談判”した他、12月の市議会定例会でふるさと納税を活用した運営支援基金の創設構想などに触れていた。
同社は8月の中間報告で美術館を来年1月下旬に休館するとの方向性を併せて示していたが、休館予定を公表後に来館者数が急増したことから、翌9月には休館に入る時期を当初から2カ月先送りし来年3月下旬にすると発表していた。
同美術館は1990年開館。モネやピカソをはじめとした20世紀美術のコレクションで知られており、所蔵作品754点のうち同社保有の384点の資産価値は計112億円(簿価ベース、6月末時点)に上る。