約148万羽処分「鳥インフルエンザ」収束に“自衛隊”の活躍…“クリスマスの食卓”も救う「災害派遣活動」の知られざる舞台裏

クリスマスの食卓を彩るチキン料理。牛や豚と比べ、価格優位性が高く、年間の消費量も増加している。しかし、そんな鶏肉の供給に影響を及ぼしかねない「鳥インフルエンザ」が静かに猛威を振るっている。
鳥インフルエンザは今年(2024年)も全国的に発生し、農林水産省調べでは、10月17日に北海道厚真町の養鶏場で1例目が確認されて以来、12月15日までに11道県で13事例が発生し、合わせて約148万羽の鶏が処分された。処分の活動の一端は、災害派遣も任務とする自衛隊の部隊が担っている。
感染が発生した養鶏場の鶏は全羽処分される鶏に感染し高率で死亡させる「高病原性鳥インフルエンザ」をはじめとする鳥インフルエンザは、感染した鶏に触れるなどした場合、極めてまれに人にも感染することがある。
農林水産省は「家畜伝染病予防法により、発生農場の鶏や卵は出荷されません」(同省ホームページ)と安全性をアピールする。感染が発生した養鶏場の鶏は、防疫上、全羽処分されることが義務付けられているからだ。
さらに、同省は「万一、食品中にウイルスがあったとしても、食品を十分に加熱(食品全体が70度以上になる。鶏肉などにピンク色の部分がなくなるまで)して食べれば感染の心配はありません」(同省HP)とも伝える。
自衛隊が派遣要請を受け対処する「鳥インフルエンザ」鳥インフルエンザは、厚労省や農水省など、各省庁・自治体が横断的に対処・対策にあたっている。防衛省・自衛隊もそのうちの一つだ。
鳥インフルエンザが発生した場合、多い時には30~40万羽にも及ぶ大量の鶏を極めて短期間のうちに処分する必要があるが、自治体職員らだけで対処するのは現実的ではない。そうした場合に、首長からの災害派遣要請を受けて、自衛隊が任務にあたる。
自衛隊は、国の防衛・国際平和協力活動、さらに災害派遣を任務の“柱”とする。このうち災害派遣は、今年1月に発生した石川・能登半島地震で陸・海・空自衛隊の「統合任務部隊」が現地で救助・支援活動にあたったことが記憶に新しい。
自治体首長による災害派遣要請の法的根拠は、自衛隊の任務などについて定めた自衛隊法の第83条に定められる。
※自衛隊法第83条「都道府県知事その他政令で定める者は、天変地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる」
要請を受け、派遣に必要な「3要件」(緊急性、非代替性、公共性)が総合的に勘案され、やむを得ない事態と認める場合に、部隊等が派遣される。
今季の鳥インフルエンザでは、10月に島根県大田市の養鶏場で、また11月に新潟県胎内市の養鶏場で、それぞれ現地の陸上自衛隊部隊が活動を担った。
自衛隊180人が「鳥インフルエンザ」処分活動に従事 入隊3か月目の新隊員もともに30万羽を超える処分が必要となった島根県と新潟県の養鶏場。このうち、新潟県の養鶏場では、陸上自衛隊新発田駐屯地に置かれる第30普通科連隊の隊員約180人が活動を担ったという。
連隊長兼駐屯地司令の郡山伸衛1等陸佐はこう振り返る。
「(連隊は)鳥インフルエンザに伴う災害派遣をこれまで複数回経験しておりノウハウも保持していた。ローテーションにより、24時間態勢で(処分等を)実施したが、その活動シフトは、活動の効率性を追求しつつも適切な休息を含ませるなど、隊員の安全・健康面に留意して計画した」
中には、9月に連隊に配置されたばかりの新隊員を含め初めて災害派遣に参加する隊員もおり、個人防護具の適切な装着や消毒方法など、感染拡大防止対策の実技教育を徹底したという。
また、隊員の食事を提供する駐屯地業務隊に鶏肉料理や卵を一定期間は避けるよう食事のメニュー変更を指示するなど、細心の注意を払った。
さらに、慣れない任務にあたった隊員に対しては活動後のメンタルヘルスケアも徹底した。日々の活動後に、小グループごとに分かれ解除ミーティング(その日の出来事や感じたことを情報共有したり、互いに心身の健康状態を確認し合ったりすること)を行い、メンタル不調を訴えた数名の隊員には、部内および部外のカウンセリングを受けさせた。
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活動後に解除ミーティングを行う隊員(提供:防衛省統合幕僚監部)

「12~1月が感染のトップシーズン」今年だけですでに約148万羽(12月15日現在)の処分が行われているが、鶏肉の出荷、市場への影響は少ないようだ。
農林水産省畜産局食肉鶏卵課の担当者によると、処分のうち、肉用鶏(ブロイラー)の数は約22万羽。これは全国の年間出荷数約7億3000万羽の33万分の1ほどに過ぎず、「全体の供給量のごく一部。鳥インフルエンザによる供給への影響はない」と語る。
ただ、担当者は「鳥インフルエンザのトップシーズンは12月から1月。油断はできない。防疫対策の徹底を呼び掛けるなど、できるだけ発生させないことに注力している」と気を引き締める。
前述した第30普通科連隊は11月6日から同8日まで、24時間態勢で活動し、処分が必要な約35万羽のうち約14万羽に対処し、任務を完了した。
厚労省や農水省など関連省庁・自治体の対処や自衛隊の災害派遣活動。そうしたあまり目にすることのない“見えない”活動が市民生活を支えている。
災害派遣活動を終えた郡山1等陸佐は、最後にこう語った。
「市民の皆さまの生活の安全、安心に寄与できたことは隊員一同、ほっとし、喜びとするところです」

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