渋谷“若者の街”ではなくなるのか?「年末カウントダウン5年連続中止」の先にある“着地点”

「若者の街でなくなった」。渋谷についてそんな声がよく聞かれるようになった。歴史をたどれば、確かに渋谷に制服姿の学生も含め、若者があふれていたイメージはある。いま、若者以上に街中で目に付くのは外国人や服装が緩めのビジネスパーソンだ。
「 “若者の街でなくなった”というより、時代の変化とともに、以前よりも若者以外の幅広い年齢層の方々や外国人の方々が来街されている印象です。それでも依然として渋谷には多くの若者が来街されていると感じています」
こう話すのは渋谷センター商店街振興組合理事長の鈴木達治氏だ。同組合はパトロール隊による防犯活動や1年365日の清掃活動などでセンター街の美化と治安を保ちながら、渋谷の移ろいを見守り続けている。
80‐90年代に特に若者が目立った “情報発信都市”さかのぼれば1970年代に、渋谷パルコや109などの商業施設が開業し、80年代にかけ、渋谷は音楽やファッション、アートなどのトレンド発信地としての地位を確立した。寛容で情報感度の高い人の集まる街。そんな空気が若者を引き寄せた。だが2000年代に入るとそのイメージは徐々に薄れていく。
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街の寛容さを反映しながら加えられていった条例

渋谷駅周辺の再開発が進み、2000年4月には「オトナ発信地」をコンセプトにした渋谷マークシティーがオープン。その後もビルの建設ラッシュは続き、かつての街並みを覆うように渋谷ヒカリエ、渋谷スクランブルスクエア、今年7月には渋谷サクラステージが全面オープンするなど高層ビルが駅周辺に次々建ち並んだ。若者の絶対数が減少したことも無関係ではないだろう。

ヒカリエ、スクランブルスクエアなどが立ち並ぶ“影”には昔ながらの雑多な“渋谷”も残る (弁護士JP編集部)

「街の地形構造が渋谷駅を底としてスリバチ状になっていることで、渋谷はむかしから自然と多くの人たちが訪れやすい街だと言われています。特に駅(スクランブル交差点)を中心として円状に回遊、融合しやすいという点があり、原宿などとなり街も楽しみながら歩いて行き来できる点が魅力だと思います。
現在、大規模開発によって渋谷駅周辺は大きく変貌してきていますが、その中でもセンター街や道玄坂、宮益坂、公園通り、中央街など路面を有する多くの商店街が大規模高層ビルとともにうまく調和している点が多くの大人、若者、ファミリー、外国人に愛されている理由ではないでしょうか」(同組合)
外国人に愛される街へ確かに “いまの渋谷”は新しくできた高層ビルで洗練された空間を楽しみつつ、一歩外へ出れば路面の店舗がにぎやかな商店街とシームレスにつながっており、飽きずに街の多面性を感じながら散策を楽しめる。先端都市の洗練さと昔ながらのごちゃごちゃ感。この2つを同時に楽しめる街なみは、かつての風景を知らない外国人にとってはより新鮮で、魅力的なのだろう。
多くの外国人が訪れることは、渋谷区も歓迎している。区が目指すのは、ロンドン、パリ、ニューヨークなどと並び称されるような「成熟した国際都市」。その実現のための価値観として、「ダイバーシティとインクルージョン」を掲げ、人種、性別、年齢、障害を越え、渋谷区に集まるすべての人の力が街づくりの原動力になると考えている。
そうしたなか、この数年でインバウンド回復に伴う訪日外国人が急増し、路上喫煙・飲酒が問題となる。23年にはそうした行動を規制する、公共の場における飲酒禁止条例が施行された。
外国人観光客の路上などでのマナー違反が目立つことによるやむを得ない決断だが、これまでの区の方針にのっとれば違和感はぬぐえなかった。この点について、前出鈴木氏は温かい視線を送る。
「インバウンドによる外国人の多くの来街は大変ありがたく思っています。マナーに関しても大概の外国人は常識の範囲では問題ないと感じます。
ただし、異国の地ではどうしても開放的になりがちです。その自治体の法律や条例を知らないという点もありますが、歩行喫煙や路上飲酒をする方はおられます。
といっても、注意をしたらすぐにやめる方が多いです。むしろマナーについては国や自治体が外国人に対して法律や条例をもっと知ってもらうようアピールしていくことが効果的だと思います」
ハロウィーン騒動はなぜ問題か渋谷の治安維持にも尽力する同組合が問題視するのは、それよりもハロウィーン関連の騒動だという。

2022年コロナ禍のハロウィーンにも関わらず渋谷に群衆が押し寄せた(弁護士JP編集部)

「ハロウィーン騒動に関しては、初期の頃(まだそんなに酷くない頃)から寛容だったわけではありません。むしろ嫌悪感を持っており、根の小さい段階から行政に対して進言していました。ですから、雑踏事故防止における警備体制に関しては初期の頃から渋谷は完璧であると思っています。
しかし、ハロウィーン騒ぎを目的として来街される人が年々多くなるにつれ、さまざまな問題(路上飲酒が原因によるトラブル等)が起き、商店街で心配していた通り、デメリットしかなくなってしまったのです。そこで条例ができたのですが、秩序が乱れた状態を規制して正していくのは当然の事。われわれ商店街としては、ハロウィーンの10月31日が元の状態に戻り、一般の方々が普通にその日に渋谷に来られるようになることを願っています」
いつから渋谷は “騒いでもいい街”と捉えられるようになってしまったのか…。2002年の日韓W杯では、日本代表の活躍に押されるように、フェイスペイントにユニフォームを着用した人などが渋谷に大量に押し掛けた。新宿でも池袋でもなく、吸い寄せられるように群衆は渋谷を目指した。
ハロウィーンが渋谷で大々的に行われるようになったのは2009年頃といわれている。なにかきっかけがあれば、騒ぎたい人が集まる。そんな空気が、イベントとして一つの形に集約された。それがハロウィーンだったのかもしれない。
イベント “自粛”を続ける渋谷の今後その結果、渋谷は、大きなイベントのたびにトラブルと大量のごみに悩まされることになる。いまでは条例による規制も含め、大きな催事は基本、自粛のスタンスをとるに至っている。
2024年のハロウィーンはついに「来ないで」と異例の呼びかけを行った。間近に迫った年末カウントダウンは、「渋谷駅・渋谷スクランブル交差点周辺に『年末カウントダウン』を目的とした来街者が一定数、集まってしまう可能性が懸念されます」として、中止を発表。これで5年連続だ。
参考:渋谷区「路上飲酒規制」に賛否両論国・自治体が 文化の有無を判断するのはありか?
どんな理由であれ、無秩序が許容されることはない。だが、常識にとらわれずに物事を全力で楽しむ。それをある程度受け入れる弾力性が渋谷の魅力でもあった。

渋谷二丁目西地区第一種市街地再開発事業(東京建物発表資料より)

大規模な再開発は、2029年度の竣工を目指す渋谷二丁目プロジェクトを区切りに4棟のビル建設が予定されており、渋谷の街並みは今後もさらに変貌を遂げる。その頃までに、イベントを存分に満喫しながら、同時に秩序を保つという「成熟した騒ぎ方」をどのように浸透させられるのか。街並みの整備と併せ、秩序を守れる街に成熟できれば、真の意味で長きにわたった再開発プロジェクトは「完結」することになる。

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