斎藤元彦知事が再選した兵庫県知事選をめぐり、斎藤氏がPR会社へ支払った約70万円が選挙運動の報酬にあたり、公職選挙法違反(買収、被買収)の疑いがあるとして神戸地検と兵庫県警に提出されていた告発状が、16日、受理されたと明らかになった。
騒動の発端は、PR会社社長が選挙戦後の11月20日、noteに投稿した記事。「広報全般を任せていただいていた」などとして広報・SNS戦略を公開したところ、その内容が斎藤氏から仕事の依頼を受けたようにも読み取れ、公職選挙法に抵触するのではとの指摘、批判が殺到した。
それから約1か月。斎藤氏が「70万円はポスター制作の費用」「(社長は)ボランティアとして参加した」など釈明した一方、社長はいまだ沈黙を続けているが、法的視点から、弁護士はこの状況をどう見るか。
「現時点では、誹謗中傷とも言い切れない」近年、SNSやインターネットでの誹謗中傷に司法も厳しい目を向けているが、本件においては「現時点では、多くの投稿について誹謗中傷だとも言い切れない」と、企業の炎上問題に詳しい杉山大介弁護士は指摘する。
「まず、本件は選挙に関わる犯罪行為の疑いがあるため、公共性の高い話題です。基本的に、一定の事実が前提となっているのであれば、違法性を帯びにくいという特性があります」
その上で、社長に寄せられている批判を、次のように整理する。
「現状として、反・斎藤氏側からは、社長自身がnoteに投稿した内容に基づいて『早く犯罪を告白するべきだ』と言われています。一方、斎藤氏を支持する側からは『勝手な行動で知事の足を引っ張った』などの言葉が投げかけられていますが、社長自身がポジションを明確にしていないため、こちらも事実に反した評価だとは言えない状況です」
一部では、社長はクライアントからの「GO」を受けて投稿したのではとの推測もあるが、仮に社長が今後、それを主張したとしても、少なくとも斎藤氏の陣営は否定するだろう。
「誹謗中傷に対する受忍限度(どこまでの言論を受忍しなければならないか)は、自身の先行行為などに基づいて上がっていきます。
さらに、本件の公共性の高さも踏まえると、現時点では社長に対する批判について、事実に反した誹謗中傷であるとか、違法であると断言できる場面は少ないという評価にならざるを得ません」(同前)
炎上後、沈黙を続けるメリットは…こうした炎上騒動に巻き込まれた場合、無言を貫くのは“悪手”なのだろうか。
杉山弁護士は、「ケース・バイ・ケース」とした上で、次のように説明する。
「一般的には、早急にポジションを表明、前提となる事実自体にかなりの争いがあることを明らかにして、特にテレビメディアが静観するような流れを作ると、沈静化しやすくはあります」
なお、当事者が丁寧な説明と謝罪をすることについては、炎上鎮火に功を奏することはあまり期待できないという。
「まず、一番影響力の高いテレビメディアは、しばしば人の言葉を、テロップ1文の抜粋だけで報道するケースがあります。国会報道などもだいたいそうですよね。
企業などが炎上した際の報道対応とそれを受けたSNSの反応を見ていると、Xの140文字どころか、20文字も理解できない人たちの発信力が強いために、強弁して否定すると矛盾点などを指摘するでもなく引き下がり、逆に丁寧に説明して理解を求めると居丈高に攻撃して良いのだと認識される傾向があるように感じます。
もちろん、そうでない人たちがいるのもたしかです。しかし、社会として非常に不健全ではありますが、大勢は、話者の雰囲気や背後にある力だけで態度を決めているところがあります」(同前)
本件に照らすと、「社長がダメージを負うことは避けられないだろう」と杉山弁護士は指摘する。
「すでに、クリティカルな内容を世間に公表してしまっていますから、そこを認めて自分があくまで仕事として従たる立場で動いたと主張するのであれば、社長の情状酌量を願ってくれる人たちが出てくるかもしれません。しかし同時に、依頼者との関係における法的責任や、公職選挙法・政治資金規正法に絡んだ刑事事件としてのリスクも強まるでしょう。
それでは沈黙を続けていたら、何らかのメリットがあるのか、これまでの仕事や環境が維持できるのかというと、そこも微妙だと思います」
20日、読売新聞はオンライン記事で〈告示前の10月上旬、斎藤陣営の広報担当者から「SNS監修はPR会社にお願いする形になりました」とのメッセージが支援者の一人に送られていたことが関係者への取材でわかった〉と報道した。斎藤氏はこれまで、PR会社によるSNS監修を否定している。騒動はまだまだ続きそうだ。