マンガや映画で大活躍! 世界初の実用VTOL機「ハリアー」完全退役まもなく 最後まで残るのは?

アメリカ海兵隊における「ハリアーII」の運用が間もなく終わる予定です。それに先立ち、米国内で同機に対するサポートが次々終わっているようです。
AV-8B「ハリアーII」はアメリカ海兵隊が運用している攻撃機です。名称の「II」が示すように、この機体は、もともとイギリスのホーカー・シドレー社が開発した軍用機「ハリアー」を基に、アメリカのマクダネル・ダグラス社(現ボーイング)が改良したものになります。総生産数は337機、最初の機体が配備されたのは1984年で、約40年経った現在も第一線で使われ続けています。
同機の最大の特徴は、ジェットエンジンのノズルが可変式になっており、それを下方に向けることで固定翼航空機でありながらホバリング(空中停止)や、垂直に上昇降下して離着陸できることです。
マンガや映画で大活躍! 世界初の実用VTOL機「ハリアー」完…の画像はこちら >>飛行中のAV-8B「ハリアーⅡ」。ノーズ部分が尖っており、レーダーが搭載されたAV-8B+であることがわかる(画像:アメリカ海兵隊)。
航空機らしからぬその動きは、軍事の世界だけでなくエンタメ業界からも注目を集め、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画『トゥルーライズ』では、テロリストの立て籠もるビルの真横でホバリングし、フロアを丸ごと機銃掃射する大立ち回りを見せました。
実際には機体重量の関係からホバリングや垂直離陸は限られた状況でしかできませんが、それでも通常の滑走離陸においても可変式ノズルを使うことで圧倒的に短い距離で飛び立つことが可能です。そのようなメリットゆえに、野戦飛行場や強襲揚陸艦の甲板上で航空機を運用するアメリカ海兵隊にとって、この機体はそう簡単に手放すことができない唯一無二の装備として運用されていました。
しかし、長らくアメリカ海兵隊の攻撃機として重用されてきたAV-8B「ハリアーII」も、いよいよ全面退役の時期が迫りつつあるようです。
従来、アメリカ海兵隊においてAV-8B「ハリアーII」を運用する飛行隊は9つありましたが、新型のF-35B「ライトニングII」戦闘機が運用を開始したことで、多くの飛行隊が同機に機種転換(一部飛行隊は解散)しており、2024年11月現在もAV-8B「ハリアーII」を運用し続けている部隊は、VMA-231「エース オブ スペード」とVMA-223「ブルドックス」の2つだけです。
これら飛行隊も、VMA-231が来年(2025年)から、VMA-223も2026年度中にF-35Bへ機種転換する予定であることから、AV-8Bがアメリカ海兵隊から完全退役するまで、あと2年程度しかありません。
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アメリカ海軍の強襲揚陸艦に着艦するAV-8B「ハリアーII」。空母よりも短い甲板に降りるには、同機の垂直着陸の能力が不可欠である(画像:アメリカ海兵隊)。
なお、完全退役の予兆は、運用を支える支援部隊の活動からも見ることができます。2024年3月には、長らくAV-8Bのパイロットを育成してきたノースカロライナ州のチェリーポイント海兵隊航空基地から最後となる2名の学生パイロットが卒業。これ以降、新たなパイロット教育は行われていません。
また、AV-8Bの整備作業を行う東部艦隊相応センター(FRCE)は、2024年10月に整備作業を行った最後のAV-8Bを送り出したと発表しており、以降はF-35などの別のプラットフォームのサポート業務へ移行する模様です。
軍用機を長期にわたって運用する場合、配備される飛行隊だけでなく、支援部隊による人員の育成や、計画的な整備作業も同時に行う必要があります。AV-8Bの場合、それらサポート体制が閉じられていることから、この機体が数年以内に退役するのはほぼ確定だといえるでしょう。
アメリカ海兵隊がAV-8B「ハリアーII」の退役を進める理由はいくつかありますが、最も大きな理由は後継機であるF-35B「ライトニングII」が優秀な機体だからでしょう。
F-35Bは第5世代戦闘機であり、その戦闘能力はAV-8Bと比べ桁違いに高いといえます。レーダーに見えにくいステルス機であるのはもちろん、機体が搭載するレーダーやセンサーシステムも高性能で、搭載できる兵器類もAV-8Bより多種多様です。
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2024年3月29日に卒業したAV-8Bの学生パイロットであるジョシュア・コーベット大尉。この時に卒業した2名が、AV-8Bの最後の教育を受けた隊員となる(画像:アメリカ海兵隊)。
AV-8Bは攻撃機として開発され、現在の最終モデルであるAV-8B+ではレーダーを装備したことで中距離空対空ミサイルAIM-120「アムラーム」を運用できるまでに性能向上が図られています。しかし、F-35Bは当初より対空戦闘も考慮して開発されているため、超音速飛行が可能なだけでなく、機動力についても格段に優れており、データリンクによって他のプラットフォームとの連携した戦闘まで行えます。
それでいて、F-35Bは搭載するリフトファンと折り曲げ式ノズルによって、短距離離陸と垂直着陸(STOVL)ができ、AV-8Bのような強襲揚陸艦や野戦滑走路からの運用も可能です。
現在、AV-8Bを運用しているのは、アメリカ海兵隊以外にはイタリア海軍とスペイン海軍があり、それぞれが軽空母の艦載機として用いています。ただ、前者はアメリカ海兵隊と同様にF-35Bへの機種転換が進められていることから、後者、すなわちスペインが世界で最後の「ハリアーII」運用国になるようです。

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