航空自衛隊も運用中のE-2早期警戒機にはトイレがありません。しかもこの機体は1回上がると最長8時間、降りてくることがないのだとか。乗員はどうやって対策しているのでしょうか。
航空自衛隊が運用するE-2「ホークアイ」早期警戒管制機は、背部に搭載されたその巨大なレーダーを用いて、広大な日本上空の警戒・監視任務に年中無休で従事しています。「空飛ぶレーダーサイト」と形容される同機は、我が国の空の安全を支える目であり、極めて重要な装備であるといえるでしょう。
そもそも、E-2「ホークアイ」はアメリカ海軍の空母艦載用の早期警戒機として開発されました。原型機の初飛行は1960年のため、すでに60年以上飛び続けている軍用機ですが、適宜モデルチェンジが行われているほか、同一モデルであってもアップデートが図られています。そのため、初期型と現行モデルでは性能的に雲泥の差があります。
なお、これだけ長く製造されているため、トータルの生産数は早期警戒機としては圧倒的最多となる300機以上であり、現在も数を増やしています。
空自で最も“過酷”な機体!? E-2「ホークアイ」にないもの…の画像はこちら >>航空自衛隊のE-2C早期警戒機。これまで航空自衛隊はE-2Cを13機調達し、現在は新型のE-2Dの配備を進めている(画像:航空自衛隊)。
しかし、この傑作機にも看過できない致命的な欠陥が存在します。それは「トイレがない」という、極めて初歩的な問題です。E-2「ホークアイ」は早期警戒機として長時間飛行が可能なように設計されているため、通常は6時間、最大で8時間の滞空が可能ですが、その間、クルーはトイレを利用できないのです。
2名のパイロットと3名のオペレーターが高度な情報処理をこなしながら長時間にわたり集中力を維持することを考えれば、その過酷さは容易に想像できます。生理的な欲求を我慢しながら任務に当たる状況は、彼らの精神的・生理的負担を大きく増大させることは間違いありません。
E-767のような大型早期警戒機と同等の任務を、より少数の乗員で遂行しなければならないため、クルーの作業負担は無視できない状況です。万が一の「緊急事態」に備えて携帯トイレが用意されているとはいえ、その場で用を足さなければならないという状況は、乗員にとってはできれば避けたいものでしょう。長時間の飛行中に限られた空間で生理的欲求に耐えなければならないという不便さは、E-2の抱える最大の問題点といえます。
では、なぜトイレがないかというと、元々空母艦載機として設計されたため、機体の物理的なサイズが限られており、トイレスペースを設けることが難しかったからです。また、このようにギリギリのサイズのため、後から増設することも不可能です。この状況を改善するためには、乗員が事前に水分摂取を控え、乗る前には必ず地上で用を足しておくという原始的な方法しか選択肢がありません。
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航空自衛隊が導入を進めている新型のE-2D早期警戒機。2024年現在の保有機数は5機、最終的には18機まで増える予定(画像:航空自衛隊)。
根本的な解決にはE-2以外の早期警戒機を導入する必要があります。例えば、ビジネスジェットをベースとしたイスラエルのIAI G550CAEWやスウェーデンのサーブ「グローバルアイ」、旅客機ベースでより大型のボーイングE-737など、現在世界の市場で販売されている機体にはすべてトイレが設置されています。
ただ逆にいうと、艦載機であるE-2「ホークアイ」だけがトイレ問題を抱えており、他の機体を取得する計がない以上、現状では乗員に我慢してもらうしかないのです。
ちなみに航空自衛隊には、より大型のボーイングE-767早期警戒管制機もありますが、こちらはトイレはもちろんのこと、食事がとれる休憩スペースまで完備しています。ただ同機は4機しかないため、E-2「ホークアイ」との連携が必須です。
日本の防空はE-2「ホークアイ」乗員の並々ならぬ忍耐によって支えられています。彼らの「トイレとの戦い」は、まさに見えざる苦労と称するにふさわしいものでしょう。