洋上で缶詰め生活を送る船の乗組員にとって、陸に上がれる機会は貴重です。では、7か月間にわたり航行を続けるドイツ海軍の艦艇が東京に停泊していた際、乗組員はどのように過ごしたのでしょうか。
ドイツ海軍のフリゲート「バーデン=ヴュルテンベルク」と補給艦「フランクフルト・アム・マイン」が2024年8月20日、東京国際クルーズターミナル(東京都江東区)に艦隊を組んで寄港しました。ドイツ海軍が「今年最も重要な海洋防衛外交の取り組み」と目しているインド太平洋方面派遣「IPD24」の一環で来航した艦隊です。
ドイツ人撮影の「東京」何が写ってる? 海軍激レア艦が日本に寄…の画像はこちら >>一般市民に開放された「バーデン=ヴュルテンベルク」((C) Bundeswehr/Nico Theska)。
ドイツ海軍で最大級の軍艦「フランクフルト・アム・マイン」は、2024年5月7日にドイツ北部の軍港ヴィルヘルムスハーフェンを出てからIPD24の任務が完了するまで、7か月間にわたって、乗組員約200人(うち女性15%)が基本的に入れ替えなしで航行を続けています。
基本的に、洋上で缶詰め生活を送る乗組員たちですが、例えば、IPD24の任務中、日本に来航する前の5月22日から26日まで立ち寄ったニューヨークでは、ちょうど今年で36年目を迎えたフリートウィークという海軍・海兵隊・沿岸警備隊がニューヨーク市民と交流を深めるためのイベント期間と重なりました。
そのため、ドイツ海軍も停泊中の両艦の甲板にニューヨーク市民を招待して案内したり、「バーデン=ヴュルテンベルク」の甲板でパーティーを催したり、米海軍と米海兵隊の綱引き大会を観賞したり、マンハッタン随一の繁華街・タイムズスクエアで催された米海軍の楽団のコンサートを聴いたりと、業務とはいえ、少しリラックスした時を過ごした様子が伝わっています。
しかし、日本での停泊中は、式典の様子が少し伝わってきただけで、船員たちがどのように過ごしていたのか、ベールに包まれています。「フランクフルト・アム・マイン」の船員たちは、東京に寄港中、どこで何をしていたのでしょうか。同艦の准士官・マティアスさんに聞きました。
港に停泊している時の最大の任務は当直だというマティアスさん。船の周りで異常がないか見張る大事な仕事です。当直は24時間を3つのグループで回す「三直当直」という体制で、1日当直にあたったら、その次の2日間は休むという規則になっています。
しかし、寄港中には当直以外にも補給物資を積んだり、清掃したりと、臨時の仕事が多々入ります。そうした業務は、船員が一丸となって総当たりで早く片付け、2日間の休暇から時間を割かれる者が出ないように、勤務体系になるべく不公平が出ないように協力しあうといいます。缶詰め生活から解放されて陸に上がれる機会がいかに貴重か、その時間を無駄にしない努力への気合いが、マティアスさんとのインタビューから感じ取れます。
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ドイツ海軍補給艦「フランクフルト・アム・マイン」の准士官マティアスさんが個人的に撮った写真((C) Matthias Guenther)。
その貴重な休み時間の過ごし方は、基本的に船員の意思に任されているそうで、2日間は船外での宿泊も許されています。また、有給休暇を取得すれば、寄港中に2日間以上の日程で外泊することも可能だとか。そのため、今回の来航中には、富士登山や関西にまで足を延ばした船員もいたそうです。
東京近郊での観光では、美術館を訪れたり、家族へのお土産を買いに行ったり、渋谷や新宿などのおいしいレストランやバーで久し振りに船外での自由な食事を楽しんだりした乗組員もいたようです。
また、東京スカイツリーや豊洲市場など、日本人にも人気の観光スポットに赴いた船員もいたほか、東京ディズニーランドで遊んだという、かわいらしい答えもありました。変わったところでは、なぜか「渋谷のハチ公を見に行った」という例も。
ちなみに、2日間という短い滞在中、日本円の調達はどうしたのかと聞いてみたところ、個人のドイツのクレジットカードを使い、ATMでキャッシングしたということでした。
8月下旬に、日本各地で短い自由時間を一所懸命に謳歌するドイツ海軍の面々を見かけた人もいたのではないでしょうか。